表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

八話

始めちょいラブコメ終わりシリアス。

落差が急です。跳ねっ返りにご注意ください。

こうやって、僕と長谷部は他愛もないお話をしていると、いつしか時間はお昼を指していた。


「……お腹、すきましたね」


僕がポツリと言った言葉に、長谷部は目ざとく反応し、僕の目の前にバスケットを差し出した。


「ふっふ〜ン。だったら、この愛妻弁当を食べればいいじゃない!」

「……あぁ、お弁当だったんですか。それ」


道理で、長谷部が大切に持っていたわけだ。

雑に扱うと、お弁当の中身が滅茶苦茶になってしまう。


「とりあえず、あそこのベンチで食べよう。少し遊び疲れた」

「……そうですね」


僕と長谷部はベンチに座る。

長谷部が、バスケットを開く。


「さあ、刮目せよ!」


自信満々に出してきたのは、何の変哲もないただのサンドイッチ。

普通。ノーマル。

卵、ハム、カツ、トマト、レタス……。

挟まっているものも色々で、色鮮やか。見た目は普通に美味しそう。


「ささ、食べてみて」


長谷部に手渡されたのはハムサンド。ハムとレタスとトマトが挟まっている。

僕は、素直に一口食べてみた。

長谷部が期待のまなざしで、僕が食べるのを見ていた。


「……普通ですね。普通に美味しいです」


すると、長谷部は微妙そうな顔をした。


「喜んでいいの?それ」

「いいと思いますよ。美味しいと言ってますから」

「そっか」


長谷部は嬉しそうに笑った。

少し照れが入っているのか、ちょっと恥ずかしそうだ。


「私ってさ。料理とかしないから心配だったんだ」


つまり、僕は毒味をさせられたわけだ。


「料理なんて、凝りさえしなければ難しいものじゃありませんよ?」

「え、料理できるんだ」

「まあ、出来ますよ。お味噌汁とか一通りなものは」


すると、長谷部はサンドイッチをくわえたまま、僕の方をジッと見ていた。

何だか視線がむず痒い。


「な、なんですか?」

「……お嫁にください」

「ふぇっ!?」


お、お嫁!?

婿じゃなくて?

そもそも、そういう関係でもない。

というか、僕は男だ。


「ど、どうしたんですか?そんな冗談を……」

「私は至って真面目だ」

「だったらおかしいでしょう!僕がなんでお嫁なんですか!」

「……私が働いて稼ぐから、主夫になってと言うことだよ」

「それは――むぐっ」


僕の口にサンドイッチを押し込められて、黙らされる。

押し込んだ本人の長谷部は楽しそうに笑っていた。口の中に、マヨネーズで味付けされた卵の味わいが広がる。

コレステロールが高すぎないだろうか。


「おしゃべりばかりで、食が進んでないね?」


そういう長谷部もだと思う。

だから僕は、適当なサンドイッチを手に持つと、おしゃべりのすぎる長谷部の口に押し込んだ。


「むぎゅ」


面白い声をあげ、長谷部は目を白黒させて驚いていた。

ざまあみろ。

少し、心がすっきりした。


僕達は、その後も他愛もないことを話したりして、長谷部が作ってきたサンドイッチを美味しくいただいた。



お昼を食べた後、僕と長谷部はそのまま百年の森しばらくいた。

と言っても、百年の森はただ少し広場になっているくらいで、木が生い茂る森しかなくてすることもない。

長谷部はそれも見越していたらしく、長谷部の持ってきていたフリスビーで少し遊んだ。

僕がフリスビーを投げれば、あらぬ方向に飛んでいって、それを追いかけて長谷部が自慢の健脚を披露して、見事にキャッチをしてみせる。

まるで、犬にフリスビーを投げているみたいだった。

でも、流石の長谷部も走りっぱなしは疲れてきてしまったようで、二人で木にもたれて木陰で休んでいる。

梅雨の時期にしては、涼しげな風が吹き抜けていて心地がよい。

そんな時、僕の膝に軽い衝撃を感じた。


「……長谷部?」


僕の膝に、長谷部の頭が乗っかっていた。

どうやら、長谷部が寝転んだようだ。


「長谷部、重い」


しかし、返ってくる言葉はない。

ただ、小さな息の音が聞こえる。


「…………?」


もしかして、寝てる?

僕は、長谷部の顔を覗き込んだ。


「……寝てる」


長谷部は目を閉じて、気持ちよさそうに眠っていた。

せっかくなので、そのまま寝かしてあげることにした。

僕は長谷部に膝枕をしたまま動けない。

思わず苦笑い。

自然と、僕は長谷部の髪を撫でていた。

しばらく長谷部の髪を撫でていると、ふと、バスケットの中に見覚えのある本を見つけた。

一冊の本。

長谷部が文芸部に入部した時に、僕が渡したオススメの本だ。

長谷部が一度も読んでいる姿を見たことはないけど、どうやら一応は読んでいるみたいだった。

しおりが挟んである。


「…………」


僕は、その本を手に取り開いてみる。

少し汚れていたけど、記憶の通りだ。

久し振りに読んでみたけど、やっぱり面白い。


「もう一度読みますか」


僕は、長谷部を膝枕しながら本を読み始めた。





結局、僕が読み終わっても、長谷部は寝たままだった。

日も沈み始めている。

流石に、もう起こさないといけない。


「長谷部」


僕は、長谷部の体を揺する。


「起きてください。もう帰りましょう」

「……う…ん」


パチリと、長谷部が目を覚ました。

ぼんやりと、僕の顔を眺めてくる。

寝ぼけているのだろうか。僕はいつまで膝枕をすればいい。


「……おはよ」

「おはようございます。でも、今は夕方ですよ」

「夕方?」


そこで、長谷部は寝ぼけていた頭が冴え渡ったのか、急に起き上がった。


「そうだ!デートだったんだ!あぁ、寝ちゃったよ」

「気持ちよさそうに寝てましたよ?」

「うぅ……寝顔みられた……」


何を今更、長谷部の寝顔なんて結構見ている。

部室ではよく寝ているし。


「というか、膝枕されていた!?うわっ、なんか凄い恥ずかしい!」

「落ち着け」


僕は、パニックを起こす長谷部に、頭をチョップして静かにさせる。


「とにかく帰りましょう。もう日が暮れます」

「う、うん。そうだね」

「それに……」


僕は、少し前とは様子の違う空を見上げた。

どんよりと、黒い雲が立ちこめ始めていた。


「雨が降るかもしれませんしね」



「さようなら」

「また学校で」


僕と長谷部は駅で別れた。

どうやら、長谷部はこのよるところがあるらしく、駅の中に消えていった。

電車に乗って、姫井市の市街地にでも行くんだろう。

空を見上げれば、今にも降り出しそうなどんよりとした雲。お昼の頃とは大違い。

傘を持っていない今、降ってこられると厄介なので、いつもより早歩きで家路を急ぐ。

遠くの方で雷の音も聞こえた。


「ただいま帰り……ま…し…た…」


家に入るといつもより雰囲気が違う。しかも、悪い意味で。

もしかしたら、仕事をほっぽりだしたからかもしれない。

これは、制裁を覚悟しないといけない。

僕はおどおどとリビングに入る。

すると母親様が珍しくテレビも観ずに、ソファーにただ座っていた。


「……今すぐ荷物を纏めなさい」

「えっ……」


一瞬、何を言っているのか分からなかった。


「今すぐ荷物を纏めろって言っているの」

「な、なんでですか」

「要らないから」


茫然。

自分の体に雷が落ちたような衝撃が走った。

実際に、雷で空が光っているみたいだったけど、そんなことを気にする余裕もない。


「仕事をしない使いは要らない。だから、養子縁組みを解いたから」


これ、書類と、母親様は僕の眼前に突き出した。

僕の名前が消えていて、もう一つには苗字が変わった……いや、元に戻った僕の名前。

冬川 優希という名前。


「とりあえず、今すぐ出て行って。赤の他人なんだから」

「そんなっ、僕に行くところなんか……」

「そんなの知らないわよ」


あぁ、なんてことだ。

僕には元から帰るところなんてない。

今、追い出されてしまえば、辿り着く先は……。

僕は、なんでこんなにも邪魔者扱いされるんだろう。

学校でも、引き取られた家庭でも、産んだ親にも……。

僕は、居てはいけなかったの?


「何ぐずぐずしているの、早く荷物を纏めなさい!」

「……はい」


流れそうになる涙を必死にこらえ、僕は屋根裏に向かった。

泣いたら、負けだ。


「……くぅ」


それでも、やっぱり自分の不遇さに天を恨みそうになる。

元より僕の持ち物は少ない。

数冊の小説本を大きなリュックに入れて、数少ない服は圧縮してしまえば入ってしまった。

大きなリュックと、ショルダーバック。

その二つだけで、僕の持ち物は全て入ってしまった。

これには、僕も驚いた。


「とっとと出て行きなさい。もう二度と来ないでよ」


そう言われ、鬼のような母親様と嫌らしい笑みを浮かべた糞兄貴に見送られながら、僕は蹴り出されるように追い出された。

なんという急展開。朝には想像出来なかった事態。

長澤改め、冬川 優希は家無き子となってしまった。

特に行く宛もなく、ぶらぶらと歩く。

足が重い。

かつて過ごした孤児院に戻ろうかなって思ったけど、去年の手紙に、不景気の煽りを受けて潰れることになったと書いていたことを思い出した。


「……最悪」


頼る所も、人も、誰も何もない。

でも、僕は今まで一人で生きてきた。経済的には無理だったけど、やっぱりそれでも僕は生きてきた。

誰も頼らなくとも生きていける……。

そうやって、僕は自分に言い聞かせるけど、心が晴れることはなかった。

まるで、今の空模様。


「ほんと、どうしよう……」


部屋を借りようにも、お金が掛かる。

残念なことに、僕のバイト代は母親様に奪われており、有るのは昇給分をちょろまかして貯めてきた僅かのみ。

到底、借りることのできる部屋なんてない。

野宿。ダンボール生活。軒下暮らし。雨風しのげたらどこでもいい……。

取り留めもなく、考えながら歩いていたら、気付けば朝に長谷部と一度来た公園に立っていた。


「…………」


もう、考えることにも疲れた。

色々と受けたショックが大きすぎて、長年抑え込んできた僕の感情が制御し辛くなっていた。

ポツリポツリと雨が遂に降り出し、本降りとなって僕の身体を濡らしだした。

冷えていく身体。僕は天を仰ぎ見てら、そして呪った。

何故、僕はこんな目に遭っている。

何故、本当の親は僕を捨てた。

何故、僕を産んだ。

僕は……見捨てられたんだ。

そんな事、分かっていた。だから、僕は一人で生きて、生きようとしてきたんじゃないか。

そんなこと、今更なのに……どうして


「涙が出るんだよ」


背負っているリュックを地面に落とす。

雨で水溜まりになっていたけど気にしない。もう既に濡れてしまっている。

梅雨時期の雨は鬱陶しいけれど、今だけはこの雨に感謝した。

泣いていても、雨と涙が区別が付かない。

僕はしばらく、ひっそりと泣き続けた。

……十話で終わらない。

寄り道しすぎました。

なんとかしようとした結果がこれだよ。

プロットのようなぶつ切りだよ。もっとちゃんと書きたかったんだよ。

長谷部の一人きゃっきゃっうふふに優希を突っ込ませたいんだよ……。

長谷部の変態ぶりを書こうとして、こっちが恥ずかしくなって書きなおして、そしたら今度は別にそうでもないような感じになるし……。

長谷部のキャラクターは使い易いけど不向きかなぁ。

どうしてくれようか。

まあ、次からシリアスばっかりの予定だから別にいっか。

今年までには終わらせたいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ