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七話

脱線して長くなったので、キリがいいところで投下。こんなはずじゃなかったのに……。


「さあ、デートに行こう!」


梅雨特有のジメジメ感はあるものの、晴天に恵まれた日曜日の午前。

ちょうど掃除を終わらせた時に来客を知らせるチャイム鳴り、エプロン姿のまま僕が玄関を開けると、長谷部が立っていたのだ。

そして、いきなり家にやってきた長谷部はそう告げたのだ。

全くもって意味が分からない。

確かに、今日がお出掛け日和ではあるのは認めるが……何故デート?

それに、僕にはまだ家事の仕事が残っているのだ。出掛けることは出来ない。


「……まだ仕事が残っているので、その誘いはちょっと今は……」

「問題なし!」


……本当に意味が分からない。


「ささっ!」

「えっ、あの!?」


長谷部に強引に腕を引かれる。

その時、僕の慌てる声を聞いた母親様がリビングから顔を覗かせた。


「……ちょっと、一体なに?お客さん?」

「あ、おばさん。今日一日優希君をお借りします!」

「ハ?借りるってあなた……ちょっと!」


僕は長谷部に腕を引かれるまま、着の身着のままで連れ出されてしまった。

走る長谷部に、腕を掴まれている僕も走らざるおえず、どこに向かっているのかも分からない。

ただ、なんとなく。長谷部は長澤の家から急いで離れようとしている気がした。


「ちょ、長谷部。速い……!」


さすが体育会系。足が速い。

文化系の僕には到底無理な速度で、長谷部のスピードに無理やり合わされている僕は足がもつれそうになる。


「……この辺りで大丈夫かな」


そう言って長谷部が足を止めたのは小さな公園。

近くにある公園だった。


「……はあ、はあ、全く。何ですかもぅ…」


僕は乱れた息を整えようとするが、日頃の運動不足故に体力が回復しない。

息一つ乱さずにケロッとしている長谷部が信じられない。

少し恨みを込めて長谷部を睨みつけると、何故か長谷部は頬を染めていた。


「……いい」

「ハ?」

「頬を上気させて、息を荒げる姿……性的興奮を我慢しているようで……いい」

「……………」


どうやら、頭が沸いているようだった。


「あぁ、我慢しなくて私を襲っていいんだよ」

「誰も襲いません」


一人悶える長谷部に、冷ややかな視線を浴びせるが、動じていないようだ。

まったく、やってられない。

僕は小さくため息をついた。

慌てて飛び出してきたので、ちゃんと履くことが出来ていなかった靴を履き直した。


「それで、僕を連れ出してどうするんですか?」

「××××」


午前には相応しくない言葉が出てきた。

いや、それ以前に女性としてもどうなんだろうか。

公然の場でそんな事言うもんじゃない。

恥ずかしい。恥ずかしすぎる。

いや、なんで言った本人より、言われた僕の方が恥ずかしがっているんだ?


「あ、赤くなってる」

「――――っ!」

「余計赤くなった」


ああもう!まったくこの人は!人をからかって遊んで!


「あなたって人は!人をおちょくって遊んで!冗談が過ぎるんです!」

「ごめんごめん」


まったく……。


「それで、どうするんですか?」

「うん、言った通りデートだよ。約束してた」

「確かに約束しましたけど……無理矢理引っ張り出さなくても」

「そうしないと、長澤は来れないでしょ」


否定は出来なかった。いや、むしろ肯定する。

僕の家庭環境を考えると明らかだ。

それを、長谷部は分かっていたから、あんな風に連れ出したんだろう。

しかしだ。


「……デートと言っても、僕、エプロン姿何ですけど」


いや、エプロン外せばいいんだけどね。

その、やっぱり格好とか気になる訳ですよ。一応。


「エプロン外せば問題なし!気にすることはないよ」


そう言われても、実はまだ気にしていることがありまして……。


「後、僕は財布持ってきてない……」


そのままで来たから、財布を持って来れなかったのだ。

お金がかかるところに行って、一方的に長澤に奢られるってのもしゃくだ。


「大丈夫。そこのところも考えている」


自慢げに、長谷部は胸を張った。

そして、僕の目の前に見せたのは、一つの鍵だった。



市崎駅。

そこにあるコインロッカーの前に僕達はいた。

長谷部に連れて行かれるまま、ここに来たのだ。


「ふっふ〜ん」


カチリと音をたて、ロッカーの一つが解錠された。

長谷部がロッカーを開くと、そこには大きなバスケットが入れていた。


「長澤の家に行く前に入れておいたんだ。走るには邪魔になるしね」

「はあ……それで、中身は何なんです?」

「それはまだ秘密」


そう言うと、長谷部はスカートを翻して駅を出て行く。

僕はその後をついて行く。


「電車に乗るんじゃないんですか?」

「お金かかるから。ついてくれば分かるから」

「……むぅ」


秘密にされるのは不満だ。

何だか、長谷部にからかわれている気がしてならない。

しばらく長谷部の後をついて歩く。


「…………」


そのうち、何となく長谷部の行き先が分かった気がした。

この町は、何やかんやスポットたる場所が少ない。

だから、大体のスポットの場所は分かっていた。

今向かっているのも、その内の一つ。でも、デートに行くスポットではないはず……。

だってそこは……。


「着いた」


ただの森なんだから……。


「……『百年の森』ですか。どうしてこんな所をまた……」


木々が鬱蒼と生い茂る森。

名前の由来は、町で百歳を越えたご老人達の名前が刻まれた碑が近くにあるからだ。

周りにこれといったものもない。

体を動かしたり、遊んだり出来るスペースが少しあるくらいだ。


「あ××んも一興だと思うんだよ」

「……帰ります」


最悪だ。

何がって、もう色々と。

人の性癖には何とも言わないけど、自ら口にすることじゃないと思う。


「待った待った!今のは冗談だから」


長谷部は、帰ろうとする僕をヘッドロックして止めようとする。

首が微妙に締まるし、密着しているから胸の膨らみが当たる。

勘弁してほしい。


「……胸が当たってますけど」

「当ててるのよ」

「……………」


僕は無理矢理歩みを進ようとした。


「ああ!待って!タイム!ウェイト!」

「……ぐぇ」


キュイッと首が余計に締まった。

長谷部が腕の力を強めたんだろう。

見事に首が締まった。


「あ、ごめん」


すぐに長谷部は解放してくれた。

ケホケホと咳をする僕の背中を撫でて、労ってくれる。


「大丈夫ですよ、もう」

「ホント、ごめん。あんな綺麗に入るとは思わなくて……でも、急に帰ろうとする長澤も悪いと思うんだ」

「……長谷部が変な事言うからでしょう」

「変な事……あ××んのこと?」

「わああぁぁぁああ!」


この人はもう!


「長谷部は一応女性なんですから!公然の前でそんな言葉使っちゃいけません!」

「……一応じゃなくて、ちゃんと女なんだけど」

「だったら尚更です!」


何で僕がこんなお小言を言わなきゃいけないんだ。

これじゃあ、まるで長谷部の母親みたいじゃないか。


「私、思うんだ」

「……何をです」

「男が猥談するように、女だって猥談する。ただ、女の場合、男より秘匿性を高くする。そしてなにより、猥談は同性同士間行うのが通例!」

「…………」

「今は、男女平等社会。性差別はよくない。別に男女混合で猥談をしてもいいと思う!」


……何を言っているんだ、コイツは。


「だから、女だから言っちゃ駄目とか言うのは良くないと思うんだ!」


拳を握り締めて力説しているけど、意味不明で訳が分からなかった。


「……えっと、つまり長谷部は何が言いたい訳?」

「女の子が別にエロいことを発言してもいいと思います!」


それは……どうなんだろう。

うん、個人の自由だし。いいんじゃないかな。引くけど。絶対引くけど。


「そうですか」

「……あれ、リアクション薄いよ?」

「もう色々と……諦めましたから」


ハハ……と、遠く空を見上げた。

もう、長谷部の変な発言を止めるのを諦めてしまった。

僕がいちいち反応するから、からかってくるんだ。


「私は、いつでも長澤を受け入れる用意はあるよ!」


長谷部は両手を広げていた。


「……知りません」

「さあ!」

「……………」

「さあ!」

「……………」


それは、僕に長谷部の胸に飛び込めってことなのか?

そーなのかー?

いやいや、おかしいでしょうが流れ的に。

どうしてこうなった……!


「さあ!」

「……………」


僕は意を決して、長谷部が両手を広げる所に、ゆっくりと歩を進める。

僕が歩を一歩進める度に、長谷部の顔がだらしなく弛んでいく。

それが無性にムカついた。

そして、後一歩進めば長谷部の射程圏という手前で止まり、深呼吸。


「……ふぅ」


決意の一歩。

長谷部が僕を抱きしめようと腕を閉じようとするよりも早く!

踏み出した一歩を利用して、捻った腰はバネのごとく。その力をこの右ストレートに全てを賭ける!


「ふっ!」


短く息を吐き、右ストレートを長谷部のお腹に叩き込んだ。


「ぎゃふ!」


長谷部は僕を抱き締めることなく倒れ込んだ。

それでも、手に持っていたバスケットは大切に守っていた。


「お、お腹……子宮があるからそこは止めて……は子供が産めなくなる」


まだ減らず口を言う余裕があるようだ。

案外、しぶとい。


「……私は、長澤を抱き締めるにはまだ早いということなのか……」


少しやりすぎたかと思ったけど、思ったより大丈夫そうだ。

僕の中では、長谷部はこんな見境のない変態さんじゃなかったのに、絶賛暴落中でストップ安だ。


「それにしても長澤。レディを殴るとは何事か。少しは手軽をだね――」

「いえ、男女平等社会なんで、男を殴る勢いでやりました」

「私はこんなつもりで男女平等を言ったつもりはない!」


長谷部がくわっと目を見開いて言った。


「……もういいです」


やっぱり、長谷部の考えていることがよくわからない。

長谷部の口調が定まりません。

そして、無駄にエロ人間になってきています。こんなはずじゃなかったのに。

ホントは、しっかりしているけどちょっと変態な程度なはずが……あぁ、本性現したのか。

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