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エピローグ


僕は、母さんのお墓参りをした次の日。僕は佐山の家を出た。

佐山の両親には、理由を言ったけど、佐山には言わなかった。

長谷部にも、何の連絡を入れなかった。


二人に言わなかったのは訳がある。

十中八九。僕を止めようとするからだ。

だから、僕は言わなかった。


冬川家に行くことを。


夏休みの間。僕は冬川家で過ごした。

祖父母ともいい人で、おじいちゃんおばあちゃんと言ったら怒られた。そんな歳じゃないだそうだ。

父さん母さんと呼べって言われたけど、僕にとって母さんは産みの母さんでしかいないので、お袋ということになった。

ついでに父さんのことを親父と呼ぼうとしたら、凄く嫌がられた。


冬川家では、母さんのことを聞いたり、アルバムを見たりした。

家の近くを散策したり、海で泳いだりもした。

でも……やっぱり何か物足りなかった。


夏休みが終わる頃、僕は両親にあることを打ち明けた。


すると、両親は驚いたようだけど、快く了承してくれた。


そして今、僕はここにいる。



時間は夜。

始業式だったはずの今日。この時間なら揃っているはずだ。


「……ただいま」


そう言って開けた佐山家の玄関。

佐山の両親には事前に言っている。

きっと待っていることだろう。

そしてリビングに続くドアを開けると、


「――ゆー君!?」


案の定、僕を見て驚いている佐山の姿があった。

慌てる佐山の姿に、佐山の両親は笑っている。


「やっときたな」

「待ってたわよ」

「はい、よろしくお願いします」


えっえっ、とまだ事態をうまく飲み込めていない佐山を放置して、勝手に話を進める。


「ど、どうしてゆー君が? 城崎の方に引っ越したんじゃ……」

「えぇ、そうですよ」

「じゃあなんで?」


なんで……か。

確かにそう思うだろう。

僕だって、どうしてこうもまどろっこしいことをしているのか分からない。


「転校はしてないんですよ」

「…………?」

「だから、城崎から通うには遠すぎる。そこで、こっちで下宿することになったんですよ」

「それって――」


そう、何も変わらない。

冬川家に戻り、こっちで過ごす為にはこうするしか手はなかった。

僕は、このことを両親に許しを得る為に夏休みを冬川家で過ごしたのだ。


「……ゆー君」

「はい」

「おかえり――!」


佐山は僕の胸に飛び込んだ。



朝。

僕は学校にいた。

時間的にもまだ早い。

僕の足は自然と文芸部の部室に向かっていた。


「…………?」


誰かがいる。

僕はそっとドアを開いた。

そこには、長谷部とその幼なじみがいた。

長谷部は机に突っ伏している。

二人とも、僕には気付いていない。


「いい加減立ち直りなおれよ」

「無理」

「別にいいじゃねぇか、あんな奴。城崎の方に行ったんだろ」

「うぅ……」

「でも、転校したって話はねぇんだよな。不思議なことに」


そこで、ふと長谷部の幼なじみと目が合う。


「あ、お前」

「……どうも」


僕の声を聞いて、長谷部はバッと顔を上げた。

そして僕の顔を確認すると、長谷部は顔をくしゃくしゃにして、泣いて僕に飛び込んできた。


「あわわっ」


泣き声が思ったより大きくてびっくりした。

こんな光景、対外的に見られると厄介なので、部室に入る。

僕の胸の中で泣きじゃくる長谷部の頭を、落ち着くように優しいなでてあげる。

そんな姿を、長谷部の幼なじみは珍しそうに見ていた。


「お前、何か丸くなったな」

「……太ってませんよ」

「違う違う。性格がだよ。前までは誰も寄せ付けない刃物だった」

「そうですかねぇ……」


きっと、心にゆとりが出来たからだろう。

前までは自分のことで手一杯だったけど、今は違う。

自然と、顔に笑みが浮かんだ。


「いいじゃねぇか。今まで笑った所なんて見たことがないからな。いい笑顔だよ」

「そうですか」

「あぁ、親しみやすくなった」


何だか少し恥ずかしい。

すると、今まで泣いていた長谷部は泣き止んで、僕の制服の袖をキュッと握ったかと思うと、幼なじみに向かって言った。


「私のだ。あげない」


若干、幼児退化している長谷部を幼なじみは笑う。


「取らねー取らねー」


全く、僕は誰の物じゃない。僕は僕の物だ。


「にしても、まるで母親と子供だな」


状況的に考えると、僕が母親で長谷部が子供となる。

でも、せめて、父親と言って欲しかった。


「……冬川」


長谷部は泣き止み、僕から離れる。


「おかえり……待っていた」

「はい、ただいま」


涙が残っていたけど、長谷部は僕に笑いかけた。



最近、僕はふと考えたことがある。

それはとても幸せで有り得ない光景。


母さんが生きていて、僕は小さな一軒家に一緒に暮らしている。

佐山は昔みたいに僕の太陽で、笑顔を振りまいていて、学校では長谷部と他愛のないことを話す。

誰からもイジメられることなく、笑って過ごす。


一人じゃない世界。


そんな世界は、あまりに楽しくて楽しくて、そして幸せすぎて、僕はただの想像で泣いてしまいそうになった。


それでも僕は、この想像した幸せな世界に、一歩近付いたと思っている。


「冬川」

「ゆー君」


母さんはいないけど、僕の世界にはこの二人がいてくれる。

いつ壊れるか分からない世界だけど、それでも僕はこの世界が大切だ。


「二人とも」

「なに?」

「なんだい?」


僕の先を歩いていた二人が振り返る。

二人共笑顔で、その笑顔があまりも眩しすぎて、幻想なんじゃないかと思えた。

……大丈夫。

もう、僕は一人の世界にいた僕じゃない。


「楽しいね、誰かといるのは」

「あったり前!」

「当たり前だよ!」


言い方は違うけど、二人とも同じ言葉を言った。

そう大丈夫。色々あったし、これからも色々あるだろうけど、それでも僕は大丈夫。

少なくとも、壊れやすい子の世界で大切なものは目の前にある。

現実は、僕の想像に負けないくらい醜くも美しい。

僕はそんな世界で生きて笑って暮らしていく。

もう、一人じゃない。

今は誰かといる楽しい世界。


あぁ、笑うっていいな!楽しいな!


I LOVE SMILE!

I LOVE MY WORLD!



《LONELY WORLD》 is HAPPY continuing!


このたびは、この小説を読んでいただきありがとうございます。

この場でお礼申し上げます。


中盤、本来なら書くべき話をかっ飛ばしたことをここで謝罪します。

本当なら、佐山は中盤嫉妬深い要素が出るはずでした。そのつもりでした。

正直、忘れてました。

予定では、佐山が長谷部と優希のデートを目撃、追跡途中に嫉妬しまくるという流れで、その後、佐山ともデートしてそれをあの兄貴が目撃し、家を追い出されるはずでした。


終盤では泣ければと思って書きました。どうなろうが知りません。ヤケです。


感想を頂いた中で、長澤家に正義の鉄槌を――!的な話を頂きましたが、その長澤家にもやむを得ない(?)意味あいをもたせたつもりです。

勘弁してあげてください。

あの兄貴をフられたことですし……。



番外編を書くかもしれませんが、また何らかの形で自分の小説を読んでいただければと思います。


それでは皆様、このたびはありがとうございました。


月見 岳

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