7.今日こそ、湊くんをちゃんと照れさせたる
「今日こそ、湊くんをちゃんと照れさせたる」
朝、教室に入った瞬間。
隣の席の白銀ルナが、いきなりそんなことを言った。
しかも真顔だった。
俺――は、思わず足を止める。
「……朝から何の宣言」
「決まっとるやろ」
白銀さんは腕を組んで、満足そうに頷いた。
「照れさせたいゲームや」
まだ続いてたのか、それ。
俺が席に向かうと、白銀さんは椅子ごと体をこちらへ向ける。
完全にやる気の顔だった。
「昨日ちょっと調子崩したからって」
白銀さんはびしっと俺を指差した。
「このまま終わる思ったら大間違いやで」
「終わった覚えはないけど」
「やろ?」
白銀さんはにっと笑う。
でも次の瞬間、少しだけ視線を逸らした。
「……」
「……」
「何」
「いや」
白銀さんは小さく言った。
「昨日のこと思い出してただけ」
「土曜のこと?」
「うん」
ゲーム友達の福原七海と出かけていた件。
あれを見られてから、白銀さんは少しだけ様子が変だった。
でも今日は――
「もう確認終わったんじゃないの」
「終わった」
「じゃあいいじゃん」
「よくない」
「なんで」
白銀さんはむっとした顔で言う。
「うち昨日、ちょっと変やったやろ」
「少し」
「やんな!」
机に手をついた。
「だから今日はリベンジや」
「何の」
「湊くんを照れさせる」
結局そこに戻るのか。
「その余裕そうな顔」
白銀さんはぐっと身を乗り出した。
「今日こそ崩したる」
「楽しみにしてる」
「むかつく!」
でも白銀さんは笑っていた。
その笑い方は、昨日よりずっといつもの白銀ルナだった。
少なくとも、福原七海のことを気にしていた昨日よりは。
「とにかく」
白銀さんは指を一本立てた。
「今日は本気や」
「昨日は」
「ウォーミングアップ」
「便利だな」
「便利やで」
白銀さんは机に頬杖をつく。
「ほら」
「何」
「今日のうち、ちょっと大人っぽない?」
「……」
「……」
「何か言って」
「綺麗だと思う」
「っ……!」
白銀さんの顔が、一瞬で赤くなる。
「いや、なんで即答なん!?」
「聞かれたから」
「そこは一回迷うやろ!」
「迷う必要ある?」
「ある!」
朝から耳まで赤い。
ゲーム再開とか言ってたけど、完全に自爆している気がする。
「湊くん」
「何」
「それ反則」
「どういうルール」
「うちが照れるのはノーカン」
「それゲーム成立しない」
「うるさい!」
白銀さんは机に額をつけた。
「ほんま、なんでそんな普通に言えるん……」
「普通のことだから」
「普通ちゃう!」
数秒後。
白銀さんは顔を上げる。
「でもな」
「何」
「今日はほんまに勝つから」
「何に」
「照れさせたいゲーム」
「まだ言うんだ」
「当たり前や」
白銀さんは少しだけ身を乗り出した。
「湊くん」
「何」
「うちのこと、ちゃんと見て」
「見てるけど」
「ちゃんと」
「ちゃんと見てる」
「……」
「……」
「今、ちょっとドキッとした?」
「してない」
「してへんの!?」
白銀さんは机をばんっと叩いた。
「ほんま鉄壁やな!」
「普通だと思うけど」
「普通ちゃう!」
そう言いながらも、白銀さんは少し楽しそうだった。
そして、そのまま小さく呟く。
「……でもまあ」
「何」
「昨日よりは楽しい」
「なんで」
「昨日はうち、ちょっと考えすぎてたから」
白銀さんは肩をすくめた。
「今日は普通にできる」
「普通って」
「湊くんいじる」
「それ普通なの」
「うちにとっては」
そして、もう一度笑う。
「ほな、ゲーム再開や」
白銀ルナのその笑顔は、
少し悔しそうで、
でもかなり楽しそうだった。
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