5.なあ湊くん。その子、誰なん?
土曜日。
駅前のショッピングモールは思ったより人が多かった。
ゲームショップの入口の前で、俺――桐谷湊はスマホの時間を確認する。
待ち合わせ時間は、もうすぐ。
数秒後。
「湊」
後ろから声がした。
振り向くと、福原七海が小走りでこっちへ来ていた。
肩くらいの黒髪。白いパーカーにデニム。派手さはないけど、整った顔立ちで、落ち着いた雰囲気の女の子だ。
「待った?」
「今来たとこ」
「それ、待たせた人が言う定番のやつ」
「じゃあ五分くらい」
「正直でよろしい」
七海はくすっと笑った。
「予約票持ってきた?」
「持ってる」
「よし。今日忘れてたら本気で帰ってた」
「そこまで?」
「限定特典あるんだから当然」
今日の目的は、新作ゲームの受け取りだった。
俺と七海は中学の頃、対戦ゲームの大会で知り合った。それからたまにこうやって新作を見に来たり、一緒にプレイしたりするゲーム仲間だ。
恋人とか、そういう関係ではない。
ただゲームが好きな友達。
それだけだ。
「行こっか」
「ああ」
二人で店に入る。
新作コーナーを見て、予約票を渡して、ソフトを受け取る。
「パッケージいいな」
「キャラデザ強いよね今回」
「七海、このキャラ絶対使うだろ」
「なんで分かるの」
「見た目で選ぶタイプだから」
「正解」
七海は楽しそうに笑った。
店を出て、フードコートに移動する。
少し端の席に座り、ジュースを買って話し込む。
「今回ランクマ実装早いらしいよ」
「来週」
「じゃあ最初の一週間で慣れないと」
「七海すぐ上位行くでしょ」
「湊が付き合ってくれたらね」
「それ実力不足を人のせいにしてる」
「違う。私が気持ちよく勝つための相手」
「最低だな」
「褒め言葉として受け取る」
くだらない会話。
でも、こういう時間は楽だった。
七海は気を遣わなくていい相手だ。
だから。
「湊」
「ん?」
「……あれ、知り合い?」
七海の視線の先を見る。
そこで俺は止まった。
銀色の髪。
青い瞳。
白銀ルナが立っていた。
私服だった。
ゆるいカーディガンにスカート。制服とは違う雰囲気で、少し大人っぽい。
でも。
こっちを見ている目は、いつものからかうときの目ではなかった。
「……え」
白銀がゆっくり近づいてくる。
テーブルの横で止まる。
「……へえ」
低い声だった。
「土曜に駅前おるなとは思たけど」
「まさか女の子と一緒とは思わへんかったわ」
七海がストローをくるくる回しながら言う。
「こんにちは」
「……こんにちは」
白銀の返事は少し硬い。
「湊のクラスメイト?」
「そう」
白銀は俺を見る。
「……なあ湊くん」
「何」
「その子、誰なん?」
真っすぐな質問だった。
「ゲーム友達」
「ゲーム友達?」
「新作取りに来ただけ」
七海が言う。
「福原七海です。湊とはゲーム仲間」
白銀が少し目を細める。
「……長いん?」
「中学くらいから」
「へえ」
短い相づち。
でも。
明らかに機嫌がよくない。
七海があっさり言う。
「勘違いしないでくださいね」
「私と湊は、ただのゲーム友達です」
「攻略の話と対戦の愚痴しかしてないので」
白銀の眉が少し動いた。
「誰もそこまで聞いてへんけど」
「誤解されたくないので」
「……誤解って誰がするん」
「少なくとも今してそうな人が」
「してへんし!」
即答だった。
でも耳が赤い。
七海が小さく笑う。
「湊、椅子」
「ああ」
俺は椅子を引いた。
「白銀さん、座る?」
「……ええの?」
「断る理由ないし」
白銀が少し止まる。
それから小さく言った。
「……ほな、ちょっとだけ」
座った。
七海が興味深そうに白銀を見る。
「白銀さんって、湊の学校で有名?」
「なんで」
「さっきから反応が面白い」
「面白くない!」
白銀が即座に言い返す。
「そもそもやな」
俺を指差す。
「湊くんが女の子と二人でおるから」
「ちょっと驚いただけや」
「それを気にしてるって言うんだよ」
「違う!」
白銀の顔が赤い。
七海が楽しそうに言う。
「白銀さん、可愛いですね」
「……は?」
「反応」
「からかってる?」
「少し」
「やっぱり性格悪いやん!」
白銀が俺を見る。
「なあ湊くん」
「何」
「この子、絶対性格悪いやろ」
「前からそう」
「そこで同意するんだ」
七海が笑う。
それからふと俺を見る。
「湊、この前言ってた転校生って」
白銀を見る。
「この人?」
白銀が固まる。
「……何それ」
「湊が言ってたんですよ」
「“学校に面白い人来た”って」
白銀の耳が赤くなる。
「面白い人?」
俺は少し考えてから言う。
「明るいし」
「話しやすいし」
「騒がしいけど嫌いじゃない」
白銀が止まる。
「……」
「白銀さん?」
「それ」
「何」
「ずるいやろ」
顔が真っ赤だった。
七海が笑いをこらえている。
「湊ってこういうところありますよ」
「無自覚でそういうこと言う」
「普通だと思うけど」
「普通じゃない」
白銀が小さく言う。
「……ほんま調子狂うわ」
しばらく沈黙。
それから白銀が小さく聞いた。
「……ほんまにゲーム友達なん?」
七海が頷く。
「はい」
「恋愛とかそういうのは全く」
白銀が少し安心した顔になる。
でも。
七海が続けた。
「ただ」
「白銀さんは違いそうですけど」
白銀が固まる。
「……は?」
「湊のこと、結構好きですよね」
空気が止まった。
「違う!」
白銀が即答する。
でも顔は真っ赤だ。
「そんなわけないやろ!」
「でも安心してましたよね」
「それはその……!」
言葉が出ない。
七海が笑う。
「分かりやすい」
白銀が顔を覆う。
「……ほんま最悪」
それでも小さく言う。
「でも」
「勘違いちゃうなら」
「それでええ」
七海が立ち上がる。
「じゃあ私はそろそろ帰ります」
「え」
「湊とランクマの話はオンラインでもできるし」
そして白銀を見る。
「頑張ってください」
「何を」
「色々」
意味深に笑って去っていく。
残されたのは俺と白銀。
数秒沈黙。
白銀が言う。
「……なあ湊くん」
「何」
「今日のこと」
「学校でいじってもええ?」
「それ今聞く?」
「当たり前や」
白銀は少し笑った。
「でもまあ」
「ちょっと安心したわ」
「何が」
「その子」
「ほんまにゲーム友達やったし」
それから小さく言う。
「……湊くん取られたわけちゃうし」
「取られるって」
「なんでもない!」
白銀が立ち上がる。
「じゃあまた月曜な!」
去っていく銀髪を見ながら思う。
月曜日。
たぶん。
かなり面倒なことになる。
そして。
少しだけ。
それを楽しみにしている自分がいた。
読んでくださりありがとうございます。




