4.なあ湊くん……ちょっと近すぎへん?
朝。
教室のドアを開けた瞬間、俺は少しだけ足を止めた。
理由はすぐ分かった。
視線だ。
しかも、かなり分かりやすい。
窓際の席。
俺の隣。
銀色の髪の美少女が、机に頬杖をつきながらこちらを見ていた。
白銀ルナ。
昨日までの二日間で、この教室の空気の中心になりつつある転校生だ。
俺と目が合うと、白銀はすぐ笑った。
「おはよ、湊くん」
「おはよう」
「今日もちゃんと学校来たんやな」
「普通来る」
「昨日うちの可愛さで寝れへんかったとかない?」
「ない」
「即答!」
白銀は机をばんっと叩いた。
「なんでやねん!」
クラスの男子が笑う。
「白銀さん朝から負けてる」
「湊強いな」
「ちゃうし!」
白銀は腕を組んだ。
「まだ朝やからな」
「今日は本気出してへん」
「何の」
「湊くん照れさせ作戦」
「まだ続いてたんだそれ」
「当たり前や」
白銀は俺を指差した。
「今日は絶対成功させる」
「難しいと思う」
「むかつく!」
◇
一時間目。
英語の授業中。
つんつん。
袖をつつかれた。
「なあ」
「何」
「ここ分からへん」
白銀がノートを指差している。
俺は少し身を寄せた。
「ここ」
「……」
「何」
「近いな思て」
「見えないって言ったのそっち」
「そうやけど」
白銀はじっと俺を見る。
「なあ湊くん」
「何」
「ドキドキしてる?」
「別に」
「なんでやねん!」
小声でツッコむ。
白銀は机に突っ伏した。
「ほんまおかしい……」
◇
休み時間。
白銀は机をぐいっと寄せてきた。
「なあ」
「何」
「作戦変更や」
「何の」
「照れさせ作戦」
「また?」
「今日は距離作戦」
次の瞬間。
白銀がぐっと顔を寄せてきた。
かなり近い。
青い瞳がすぐ目の前。
「これどう?」
「何が」
「ドキドキする?」
「別に」
「なんでやねん!」
机を叩く。
クラスが笑う。
「普通ちょっとくらい照れるやろ!」
「しない」
「なんでや!」
白銀は腕を組んだ。
「湊くん絶対おかしい」
「そう?」
「うん」
◇
昼休み。
俺が購買パンを出すと、白銀が机を寄せてきた。
「ここで食べてええ?」
「いいよ」
「断らへんのや」
「断る理由ない」
「優しいなあ」
「普通」
白銀は弁当を開けた。
そして言う。
「なあ湊くん」
「何」
「うち可愛い?」
「可愛い」
「……」
「白銀さん?」
「だから普通に言うなや!!」
顔を覆う。
耳まで真っ赤だ。
クラスの女子が笑う。
「白銀さん可愛い」
「湊ほんと天然」
「ちゃうし!」
白銀は顔を上げた。
「これはうちが悪いんちゃう」
「湊くんが悪い」
「理不尽」
「そうや!」
◇
午後。
移動教室の帰り。
廊下が混んでいた。
前のクラスが詰まっている。
人の流れが止まる。
そのとき。
後ろから押された。
「わっ」
白銀がよろける。
そして。
俺の胸にぶつかった。
距離。
ゼロ。
銀髪が肩に触れる。
「……」
「……」
白銀がゆっくり顔を上げる。
距離。
まだ近い。
「……なあ湊くん」
「何」
「ちょっと近すぎへん?」
「押されたから」
「そうやけど」
白銀の顔がみるみる赤くなる。
「これ……」
「普通ドキドキする距離やろ……」
「そう?」
「そうや!」
白銀は一歩下がった。
顔を押さえる。
「……あかん」
「今日一番ドキドキした」
「それ俺のせいじゃない」
「でも湊くんやん!」
◇
放課後。
帰り支度をしていると、白銀が言った。
「なあ」
「何」
「今日の勝負」
「うん」
「うちの負けや」
「勝負だったんだ」
「そうや」
白銀は少し笑った。
「でもな」
「何」
「今日ちょっと楽しかった」
「そう」
「うん」
少しだけ小さな声で言う。
「……湊くんとおると」
「なんか調子狂うけど」
「嫌やない」
それから俺を指差す。
「でも覚えとき」
「何」
「明日は」
「絶対湊くん照れさせる」
「宣言」
俺は言う。
「難しいと思う」
「むかつく!!」
白銀は笑った。
少しだけ照れた顔で。
読んでくださりありがとうございます。




