3.なんでそんな普通に言うん?
朝。
教室に入った瞬間、俺はすぐ気づいた。
視線だ。
しかも、かなり分かりやすい。
窓際の席。
俺の隣。
銀髪の美少女が、机に頬杖をついたままこちらを見ていた。
青い瞳が合う。
数秒、沈黙。
そして。
にやっと笑った。
「おはよ、湊くん」
「おはよう」
「今日もちゃんと学校来たんやな」
「普通来る」
「昨日うちの可愛さで寝れへんかったとかない?」
「ない」
「即答!」
白銀ルナは机を叩いた。
「なんでやねん!」
朝から騒がしい。
俺が席に座ると、白銀が机に肘をついて顔を寄せてきた。
近い。
昨日より近い。
「なあ湊くん」
「なに」
「今日のうち、可愛い?」
「可愛い」
「……」
白銀が固まる。
数秒後。
「だから普通に言うなや!!」
耳まで真っ赤だ。
クラスの男子が笑う。
「白銀さんまたやられてる」
「桐谷天然強すぎ」
「ちゃうし!」
白銀は机に突っ伏した。
「ほんま最悪……」
「何が」
「うちがからかってるはずやのに、うちが赤なるやん」
そう言いながら、ちらっと俺を見る。
「……でも」
「なに」
「可愛い思っとるんやろ?」
「思ってる」
「だから!」
白銀は顔を覆った。
朝から忙しい人だ。
◇
一時間目の授業。
数学。
先生が黒板に問題を書いているとき、つんつんと袖をつつかれた。
「なあ」
「なに」
「ここ分からへん」
ノートを指差している。
俺は指で示す。
「ここ」
「……」
「なに」
「優しいな」
「普通」
「普通でそれなん?」
「授業中だし」
「ふーん」
白銀は少し笑った。
そして。
「なあ湊くん」
「なに」
「ちょっと顔近づけて」
「なんで」
「小声で言うことある」
仕方なく少し近づく。
その瞬間。
白銀が耳元で言った。
「……やっぱ近いとドキドキする?」
「別に」
「なんでやねん!!」
小声でツッコむ。
白銀が机に突っ伏す。
「おかしい……」
前の席の男子が肩を震わせている。
「白銀さん、また負けてる」
「まだや!」
白銀が顔を上げる。
「これはウォーミングアップや!」
◇
休み時間。
白銀は机をぐいっと寄せてきた。
「なあ湊くん」
「なに」
「作戦変更や」
「何の」
「照れさせ作戦」
またそれか。
「今日は距離作戦」
「距離?」
次の瞬間。
白銀がぐっと顔を寄せてきた。
かなり近い。
瞳がすぐ目の前。
「これどう?」
「何が」
「ドキドキする?」
「別に」
「なんでやねん!」
机を叩く。
クラスが笑う。
「普通ちょっとくらい照れるやろ!」
「しない」
「なんでや!」
白銀は腕を組んだ。
「おかしい……」
「湊くん、絶対おかしい」
「そう?」
「うん」
そして、急に静かになった。
「……」
「なに」
「なあ湊くん」
「うん」
「ほんまに」
少しだけ目を逸らす。
「うちのこと可愛い思っとる?」
「思ってる」
「……」
「ルナ?」
「やから!」
白銀は机に突っ伏した。
「そういうとこやって!」
◇
昼休み。
俺が購買パンを出すと、白銀が机を寄せてきた。
「なあ」
「うん」
「ここで食べてええ?」
「いいよ」
「断らへんのや」
「断る理由ない」
「優しいなあ」
「普通」
白銀は弁当を開ける。
しばらくして。
「なあ湊くん」
「なに」
「昨日から思っとったんやけど」
「うん」
「湊くんってさ」
「うん」
「無自覚で人ドキドキさせるタイプやろ」
「知らない」
「うちは知ってる」
「昨日から何回赤くなった思ってるん」
「数えてない」
「数えて!」
白銀は頬を膨らませた。
「ほんま調子狂うわ……」
そのとき、クラスの女子が聞いた。
「白銀さんさ」
「ん?」
「桐谷のこと好きなの?」
空気が止まる。
白銀が固まる。
「……は?」
「だってめっちゃ仲いいじゃん」
「昨日からずっと」
白銀は数秒黙った。
それから俺を見る。
そして。
小さく笑った。
「まあ」
「嫌いではない」
クラスがざわつく。
「それ好きじゃん」
「違う!」
白銀は慌てて言う。
「そういうんちゃう!」
でも。
耳は真っ赤だった。
俺は普通に言う。
「俺も嫌いじゃない」
「……」
「ルナ?」
「それあかん」
「何が」
「そういう返し」
白銀は顔を覆った。
「ほんまズルいわ……」
◇
放課後。
帰り支度をしていると、白銀が言った。
「なあ」
「なに」
「一緒に帰らへん?」
「途中までなら」
「よっしゃ」
校門を出る。
少し歩いたところで、白銀が聞いた。
「なあ湊くん」
「なに」
「うちのこと」
「好きやろ?」
またそれか。
俺は答える。
「普通に好きだと思う」
白銀が止まった。
「……」
「ルナ?」
「それ」
「何」
「反則や」
顔が真っ赤だった。
「ほんまに」
「なんでそんな普通に言うん」
「思ったから」
白銀は少し俯いた。
「……あかん」
「なに」
「今日うち」
「負けっぱなしや」
それから俺を指差す。
「でも覚えとき」
「なに」
「明日は」
「絶対湊くん照れさせる」
「宣言」
俺は言う。
「難しいと思う」
「むかつく!!」
白銀は笑った。
少しだけ照れた顔で。
「でもまあ」
「今日ちょっと楽しかったけど」
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