2.なあ湊くん、顔ちょっと赤ない?
翌朝。
教室のドアを開けた瞬間、俺は少しだけ足を止めた。
理由は簡単だ。
俺の席の隣に、すでに人が座っていたからだ。
銀色の髪。
青い瞳。
机に頬杖をつきながら、窓の外を眺めている。
昨日転校してきたばかりの――
白銀ルナ。
俺に気づいた瞬間、その瞳がぱっとこっちを向いた。
「お、湊くん」
にやっと笑う。
「おはよ」
「おはよう」
「今日もちゃんと来たんやな」
「学校だから」
「いや、もしかしたら昨日のうちの可愛さで動揺して休むかな思て」
「ない」
「即答!」
白銀は机をばんっと叩いた。
「なんで!? そこはちょっと迷うとかあるやろ!」
「ない」
「なんでやねん!」
朝から元気だな。
俺が席に座ると、白銀がすっと顔を近づけてきた。
距離が近い。
というか――近すぎる。
昨日より近い気がする。
「なあ湊くん」
「なに」
「顔ちょっと赤ない?」
「普通」
「ほんま?」
白銀はさらに顔を寄せる。
目の前に青い瞳。
距離、二十センチくらい。
いやもっと近いかもしれない。
「近い」
「えー」
「近い?」
「近い」
「でも嫌やないんやろ?」
「……」
昨日のやり取りを思い出す。
確かに「嫌ではない」と言った。
白銀はそれを思い出したのか、にやにやしている。
「ほらな」
「何が」
「嫌やない顔や」
「顔で判断するな」
「してまうんよなあ」
白銀は楽しそうに笑った。
そのとき、後ろから声がした。
「白銀さん、朝から桐谷で遊んでる?」
振り向くとクラスの男子が立っている。
「遊んでへん!」
「えー」
「めっちゃ遊んでるじゃん」
「ちゃうし!」
白銀は腕を組んだ。
「これは作戦や」
「何の?」
「湊くんを照れさせる作戦」
教室が少しざわつく。
「まだやってるのそれ」
「昨日も言ってたな」
白銀は俺を指差した。
「こいつ、全然照れへんねん」
「難しい相手やで」
「だから今日は本気出す」
「宣言」
俺は言う。
「無理だと思う」
「むかつく!!」
白銀が机に突っ伏した。
周りが笑う。
そんなやり取りのあと、授業が始まった。
だが。
白銀は当然のように静かに授業を受けるタイプではなかった。
数学の授業中。
つんつん。
袖をつつかれる。
「なあ」
「何」
「これどこ?」
ノートを指さしている。
「そこじゃなくて一個上」
「どれ?」
俺が指を指す。
「ここ」
「……」
「なに」
「優しいな思て」
「普通」
「普通でそれなん?」
「授業中だし」
「ふーん」
白銀は小さく笑った。
数分後。
また袖をつつかれる。
「なあ」
「今度は何」
「湊くん」
「なに」
「うち可愛い?」
小声で聞いてくる。
授業中だぞ。
「可愛い」
「……」
白銀が固まる。
数秒後。
「なんで普通に言うん!?」
小声で叫んだ。
「聞かれたから」
「いや聞いたけど!」
前の席の男子が肩を震わせている。
白銀は机に突っ伏した。
「ほんま最悪……」
「なにが」
「こっちがからかってるはずやのに、うちが赤なるやん」
耳まで赤い。
休み時間。
白銀は机をぐいっと寄せてきた。
「なあ湊くん」
「なに」
「作戦変更するわ」
「何の」
「照れさせ作戦」
「変更?」
「距離戦法」
意味が分からない。
次の瞬間。
白銀がぐっと顔を寄せてきた。
近い。
また近い。
「これどう?」
「何が」
「ドキドキする?」
「別に」
「なんでやねん!」
白銀が机を叩く。
「普通ちょっとくらい動揺するやろ!」
「しない」
「なんでや!!」
クラスがまた笑う。
白銀は机に突っ伏した。
「おかしい……」
「なにが」
「うち、からかうの得意なはずやのに……」
そのとき、女子が話しかけてきた。
「白銀さんさ」
「ん?」
「桐谷のこと好きなの?」
空気が止まる。
白銀が固まる。
「……は?」
「だってめっちゃ話してるじゃん」
「昨日からずっと」
白銀は数秒黙った。
それから俺を見て。
にやっと笑った。
「まあ」
「おもろいからな」
「からかいやすいし」
そして小声で言う。
「嫌いやったら喋らへんけど」
俺は普通に答える。
「ありがとう」
「……」
白銀が固まる。
「なんでお礼言うん!?」
「褒められたから」
「褒めてへん!」
「そう?」
「そうや!」
白銀は顔を覆った。
「ほんま調子狂うわ……」
昼休み。
俺が購買パンを出すと、白銀が言う。
「なあ」
「うん」
「一緒に食べてええ?」
「いいよ」
「断らへんのや」
「断る理由ない」
「優しいなあ」
「普通」
「その普通がずるいねん」
白銀は弁当を開けた。
しばらくして言う。
「なあ湊くん」
「なに」
「うちのこと」
「好きやろ?」
またそれか。
俺は答える。
「別に」
「なんでやねん!!」
白銀は机に突っ伏した。
そして小さく言う。
「……でも」
「なに」
「嫌われてないならええけど」
「嫌ってない」
「……」
「ルナ?」
「名前で呼ぶなや!」
顔を隠している。
耳まで赤い。
でも小さく笑っていた。
そして俺を指差す。
「覚えとき」
「明日は絶対」
「湊くんをドキッとさせる」
「宣言」
俺は言う。
「難しいと思う」
「むかつく!!」
教室がまた笑いに包まれた。
読んでくださりありがとうございました
第3話がこの後21時に更新するので
よろしくお願いします!




