表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
関西弁の銀髪ハーフ美少女が俺を照れさせたいらしいが照れてるのはいつもあっちだ  作者: 夜天 颯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/15

11.……近ない? これ、ほんまに普通なん?

放課後。


 教室の外は、昼間よりも少し暗くなっていた。


 空はどんよりとした灰色で、窓の外には今にも雨が落ちてきそうな雲が広がっている。


「降りそうやな」


 白銀ルナ――白銀さんが、窓の外を見ながら言った。


「予報では降るって言ってた」


「朝は降ってへんかったのに」


「梅雨だし」


「それ言われたら終わりや」


 白銀さんは肩をすくめる。


 教室にはまだ数人残っているけど、ほとんどの生徒はもう帰り始めていた。


「湊くん、傘ある?」


「ない」


「うちも」


「詰んだね」


「軽く言うなや」


 白銀さんは少しむっとする。


「どうするん?」


「様子見る?」


「様子見てる間に降るやつやろそれ」


「たぶん」


「最悪やん」


 でも、その口調はどこか楽しそうだった。


     ◇


 昇降口に着く頃には、ぽつ、と一滴落ちた。


 それが合図みたいに、次の瞬間には雨が降り出す。


「……タイミング悪すぎやろ」


「さっきまで降ってなかったのに」


 外はもうしっかりと雨。


 強すぎるわけじゃないけど、傘なしで帰るには普通に無理な量だった。


 昇降口には同じように立ち止まる生徒が何人かいる。


「どうする?」


「待っても止みそうにないな」


「うん」


「……」


「……」


 少し沈黙。


 そのあと。


「……なあ」


「何」


「走る?」


「無理」


「即答やめて」


「普通に濡れるし」


「まあそうやけど」


 白銀さんは腕を組んで考える。


 それから、ちらっとこっちを見る。


「……一応聞くけど」


「何」


「湊くん、濡れても平気なタイプ?」


「平気ではない」


「やんな」


 また少し沈黙。


 そして。


「……じゃあ」


「うん」


「一緒に帰る?」


「……」


「……」


「傘ないけど」


「……うち、折りたたみある」


「あるんだ」


「さっき思い出した」


「さっき?」


「うん」


「じゃあ最初から出してよ」


「なんか悔しいやん」


「何が」


「一人で帰れるのに、みたいになるやろ」


「ならないよ」


「なるねん」


 白銀さんは少しだけ視線を逸らす。


 それから、小さく言う。


「……ほら」


 バッグから折りたたみ傘を取り出して、開く。


「入る?」


 その一言が、やけに静かに聞こえた。


     ◇


 傘の下。


 距離が、近い。


「……」


「……」


 無言のまま歩き出す。


 普通の会話をしようと思えばできるのに、なぜか最初の一歩が出てこない。


 雨音だけが、やけに大きく聞こえる。


「……なあ」


 先に口を開いたのは白銀さんだった。


「何」


「近ない?」


「近いね」


「普通なんこれ」


「相合傘なら普通じゃない?」


「そうなん?」


「たぶん」


「……」


 納得してない顔だった。


 肩が軽く触れる。


 傘が小さいから、どうしても距離は詰まる。


「ちょっと寄って」


「どっちに」


「そっち」


「これ以上行くと濡れるよ」


「じゃあそのままでええ」


 結局そのまま。


 歩くたびに、ほんの少しだけ触れる。


     ◇


 数分歩いたところで。


「なあ」


「何」


「うちのほう、ちゃんと入っとる?」


「入ってる」


「ほんま?」


「むしろ俺のほうが少し濡れてる」


「え」


 白銀さんが慌てて距離を詰める。


「ちょ、寄りすぎ」


「濡れるほうがあかんやろ!」


「近い」


「しゃあないやん!」


 さらに距離が近くなる。


 さっきよりも明らかに近い。


 顔が少し近い。


「……」


「……」


「なあ」


「何」


「これ、あかんやつやない?」


「何が」


「距離」


「さっきから言ってるね」


「さっきより近いねん!」


 その通りだった。


     ◇


 風が少し吹く。


 雨が傘に当たる音が強くなる。


 その瞬間、白銀さんの髪が少し揺れた。


 湿気を含んで、少しだけ重くなった銀髪。


 それが、すぐ近くにある。


「……」


「……何」


「いや」


「今、なんか見とったやろ」


「見てた」


「なんで正直なん」


「綺麗だから」


「……っ!」


 一瞬で固まる。


「今それ言う!?」


「思ったから」


「タイミング考えろや!」


 白銀さんは顔を押さえる。


「ほんま無理……」


「何が」


「この距離でそれはあかん……」


 でも、その指の隙間から見える頬は真っ赤だった。


     ◇


 少し歩く。


 また沈黙。


 でも、さっきとは違う。


 変に意識しているのが分かる。


「……なあ湊くん」


「何」


「さっきの」


「うん」


「忘れて」


「無理」


「なんで」


「本当だから」


「……っ!」


 また赤くなる。


「ほんまなんなん……」


 でもその声は、少しだけ笑っていた。


     ◇


 横断歩道で止まる。


 信号待ち。


 雨は少しだけ強くなっていた。


 傘の中は、やっぱり近いまま。


「……なあ」


「何」


「このままやとさ」


「うん」


「帰るまでずっとこの距離やんな」


「そうだね」


「……」


「……」


「それ、しんどい」


「なんで」


「分かるやろ!」


 白銀さんが小さく叫ぶ。


 でも、そのあと。


「……でも」


「何」


「ちょっとだけなら、ええかも」


「どっち」


「どっちでもええわ!」


 でも、その言い方は少しだけ柔らかかった。


     ◇


 家の近くまで来る。


 雨はまだ止まない。


 でも、もう少しで別れる距離。


「……なあ」


「何」


「今日のこれ」


「うん」


「勝負的にはどうなん」


「照れさせたいゲーム?」


「そう」


 少し考える。


「白銀さんの負け」


「なんでや!」


「ずっと赤かった」


「それはしゃあないやろ!」


「でも俺はそんなに困ってない」


「……」


「……」


「……ちょっとは困ってたやろ?」


「少しだけ」


「ほら!」


 少し嬉しそうにする。


 でもすぐに顔を逸らす。


「……じゃあ」


「何」


「引き分けにしといたる」


「優しいね」


「上からやめろ」


 でも笑っていた。


     ◇


 分かれ道。


 傘を閉じる。


 雨はまだ続いている。


「ほな」


「うん」


「今日は……その」


「何」


「……まあ、ええわ」


 言いかけてやめる。


 でも、その代わりに少しだけ笑った。


「また明日な」


「ああ、また明日」


 白銀さんは少しだけ手を振って、歩き出す。


 銀色の髪が、雨に少し濡れていた。


 さっきまであんなに近かった距離が、少し遠くなる。


 でも。


 たぶん。


 あの距離は、もう一度簡単に戻る気がした。


 ――そして、きっと次は。


 もう少しだけ、長くなる。

読んでくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ