第2話:保安部の聴取
第2話です。
今回は、宇宙文明側から見たアレンの第一印象と、
「どうしてこうなった?」な聴取シーンになります。
白い相談室。
角の取れた壁、柔らかな照明。
威圧感を与えないように設計された、いかにも文明的な空間だった。
(東にある帝国調か……?にしてはこう……綺麗すぎる……)
などとアレンが考えていたところ
目の前に座る青年保安員は、やけに目を輝かせていた。
「えーっと……意識戻りました? 大丈夫です?」
「はい……俺はアレン──」
「アレンさん!!」
青年はぱっと表情を明るくし椅子ごと前のめりになった。
「その服装ってやっぱりあれですよね!?ファンタジー作品をモチーフにしてる服ですよね!?
いや~その皮のポーチとか……色々とセンスいいなぁ!!」
(……んん???ふぁんた……??)
「僕、ロードオブザリング系の古典ファンタジー大好きで……
アレンさんのローブ見た瞬間、
“あ、同士だ!”って思いました!」
(ローブで!?どゆこと!?)
青年は胸元の名札をトントンと叩く。
「僕、カイルっていいます。
保安部所属なんですけど、アカデミーでは
“ファンタジー文化史研究会”でした!」
(聞きなれない言葉だらけだけど!?)
「じゃ、さっそく聴取といきますけど……
安心してください! 同好の士には優しいんで!」
カイルは満面の笑みで言った。
「お、お手柔らかにお願いします……」
アレンは、よくわからないまま頭を下げた。
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「なるほど……レイア=フォルンのスフェルナにある
生活魔法ギルド《ホワイエ灯》所属、と……」
カイルは端末を操作しながら、何度も頷いてにっこり笑う。
「いいですよいいですよ!
“自分はそこから来た”って設定で話すんですよね!?
僕も昔やりました、“異世界出身ロールプレイ”!!」
(出身とか所属を話しただけなんですけど!?)
「じゃあ、とりあえずはまず質問です。
なぜ、大使のすぐ近くで倒れていたんです?」
アレンは真面目な表情を崩さず、真摯に答える。
「急に空間がねじれた拍子に転移して、その場所に落ちて……
知っての通り、転移魔法は高位で……俺には使えないはずなんです」
「……て、転移魔法!?
あ~~~本格派じゃないですか!!
設定めっちゃ凝ってる!!」
カイルの目が、さらに輝いた。
「何を隠そう、僕も転送される時、心の中で転移魔法発動……!って唱えてますよ!」
くぅ~~~とこぶしを握りながらカイルが震える。
「ちが……本気で言ってるんですが……」
「大丈夫大丈夫!!
僕、同志の世界観はぜったい否定しませんから!!」
(当たりは優しいけど、方向が致命的にズレてる……俺がおかしいのか……?)
「では次!
あの区域は酸素濃度が危険域でした。
どうやって呼吸を?」
「清掃魔法の《クリーン》で空気を浄化して──」
「おおおーーーー!!!
カイルの目が一段と見開かれる。
「やっぱ生活魔法系!! 大好きなんですよ僕!!」
「……そ、そうなんですか……?」
「ええ!だって地味だけど、世界を救うタイプ!
戦闘職じゃないのに要所で効くやつ!」
「いや世界は救ってないです!!
下水道掃除とか、窯の温度調整してただけで……」
「出た!! 職人系!!
“自分は大したことしてません”って言いながら強い系!!
そういう謙虚な設定、めっちゃ好感度高いんですよ……!」
(設定じゃないから!!)
カイルは、うっとりした表情で端末に入力を続ける。
「生活魔法ギルド《ホワイエ灯》出身、
役職は……“第3級魔導補佐”っと……
いやぁ細かいところまで作り込んでますね……」
「だから作り込んでないです! ただの職歴です!」
(……もう否定するの、やめた方が早いかもしれない)
「わかりますわかります。、“リアルな背景設定”ね!
僕、そこ大事にするタイプなんで気持ちわかりますよ」
(通じてるようで、まったく通じてねぇ……!!)
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その時、カイルの通信端末が短く鳴った。
「はい、カイルです……え?
……大使が……命を……救われた……?」
カイルの顔が、みるみる変わる。
尊敬。
感動。
そして、確信。
「……アレンさん」
「はい?」
「本番中に、なりきりを貫いたまま、
実際に大使を救ったんですか?」
「“本番”って何の!?
俺は必死に生き残ろうとしただけです!!」
「すごい……」
カイルは胸に手を当て、震える声で言った。
「世界観を崩さず、実行結果まで伴う……
あなた……プロですね?」
「違います!
職場から落ちてきただけです!!」
「……尊敬します」
(褒められてるのか、誤解されてるのかわからん……!)
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その時、相談室のドアが静かに開いた。
入ってきたのは、落ち着いた雰囲気の女性。
制服の着こなしも、視線の鋭さも、カイルとは明らかに違う。
「カイル、交代するわ」
「主任!!
この人、大使を救ったんですよ!!
しかもファンタジー設定のまま!!」
「……日報は、あとで書きなさい」
「はいっ!」
カイルは素直に敬礼し、退出した。
ドアが閉まる。
主任は、アレンに向き直った。
「……アレン・ラステイルさん。
あなたが大使に施した《クリーン》という力、
実演できますか?」
「まあ……破壊的なものではないので。ここで大丈夫ですか?」
「ここで構いません」
アレンは、机の上にそっと手をかざした
「《清掃〈クリーン〉》」
白い光がふわりと広がり、
埃が、汚れが、空気中の濁りまでもが音もなく消えていく。
主任は、ほんの一瞬だけ眉を上げた。
「……」
(お、ちょっと驚いた?)
一方退出すると見せかけて覗いていたカイルは──
「出たァァァァァーーーー!!!
“生活魔法”の基本にして奥義!!
しかもエフェクトが美麗!!」
早口になるもカイルの言葉は途切れない。
「いったい何で再現してるんですか!?
ホログラムの応用ですか!?」
「カイル、とりあえず落ち着きなさい」
「すみません主任!!
でもこの人ガチなんですって!!
ファンタジーが人生なんですよ!!」
主任は淡々と言う。
「……艦長がお会いになりたいとのことです。
私が案内します」
「わ、わかりました…お手柔らかに……」
アレンが立ち上がると、カイルが親指を立てた。
「アレンさん……
艦長にも生活魔法をおみまいしてください!!」
「それは生活じゃなくて戦闘の文脈だろ!!
俺、掃除屋だから!!」
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カイルの暴走するファンタジー愛を背に、
アレンは主任とともに艦長室へ向かった。
誤解は深まるばかりなのに、
なぜかほんのりと胸が温かくなるのだった。
カイルは話を聞かないですが、悪い人ではありません。
むしろ、この世界ではとても“普通”の反応だったりします。
次回は、いよいよ艦長との対面です。
よければ、引き続きお付き合いください。




