第1話:星の縁で
はじめまして!
本作は「生活魔法をこつこつ積み上げてきた大人の主人公が、
宇宙ではなぜか規格外扱いされてしまうSF×異世界ファンタジー」です。
地道に頑張る主人公の、ゆるSFと日常魔法のギャップを楽しんでもらえる物語を目指しています。
気軽に読んでいただけると嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。
生活魔法ギルドでの仕事は、たしかに地味ではある。
派手な魔法使いとは縁がないし、英雄譚にもほぼ登場しない。
それでも──俺は結構、この仕事が好きだった。
「アレンさん! こっちの窯、また温度が暴れてる!」
「よしきた、任せて。今日は機嫌悪いな?」
俺はローブの袖をまくり、窯口に手をかざす。
「《温度調整〈ヒートコントロール〉》……はい、均していきますよっと」
じんわりと魔力が広がり、窯の内部の温度が滑らかに整っていく。
火の気まぐれを“手でなだめる”ようなこの感覚──嫌いじゃない。
むしろ、かなり好きだ。
「わ! アレンさんすごい……これでまた美味しいパンが焼けるよ!」
「それこそありがたい。明日の朝食、楽しみにしてます」
周りが喜んでくれるなら、俺も嬉しい。
そういうシンプルで温かい仕事が、思ってた以上に心地良かった。
次の依頼は街の下水路だった。
「アレンさーん! 今日の浄化もお願い!」
「清潔一番。よし、今日の汚れはどんな相手かな?」
俺は身を屈め、暗い水路に手を伸ばす。
「《清掃〈クリーン〉》!」
光がぱっと弾け、有毒な汚れも臭いも一瞬で霧散した。
綺麗になった水が桝へさらさらと流れ込むのを見ると、妙に満足感がある。
「助かるよアレンさん! やっぱり綺麗なのは気持ちがいいね!」
「ふふ、まぁ……俺もそれわかります」
そんな会話が、俺の日常だった。
英雄じゃなくていい。
世界を救う力なんてなくていい。
ただ、“誰かの暮らしが少し良くなる仕事”ができれば、それで十分だった。
――あの瞬間までは。
*
夕暮れ、街灯用の光球魔法を整えていたときだった。
「《光球〈ライト〉》……っと。今日は少し明るめで──」
光が爆ぜた。
視界が白に飲み込まれ、地面が抜け落ちるような感覚が走る。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「っ……!?」
気づけば、硬い金属の床に倒れ込んでいた。
胸が焼ける。息が吸えない。──いや、そもそもここはどこだ。
「……っは、は……くそ……!」
喉を押さえながら起き上がると、視界の端に赤い外套が見えた。
誰かが倒れている。
近づくと、胸がかすかに上下していた。
このまま放っておけば確実に死ぬ。
だが──
(俺……生活魔法しか使えないんだぞ……?
“清掃”でどうにかなる状況じゃない……!)
頭の中で否定が渦巻く。
でも、それ以上に強い感情がひとつあった。
(……見捨てるなんて、できるわけないだろ!)
「生きてる……! よし、行くぞ……!」
膝をつき、震える手を倒れた人物へ伸ばす。
自分の呼吸も苦しいのに、それでも動いた。
「頼む……届いてくれ……!
《清掃〈クリーン〉》……っ!」
白い光が溢れ、床の黒煙が吸い込まれるように消えていく。
瘴気のようなものが吹き飛び、場の淀みがほんの少しだけ軽くなった。
倒れていた人物の呼吸が、ゆっくりと整っていく。
(……っ、効いた……? 本当に?
清掃魔法で……この状況が……?)
胸の奥がじんと熱くなる。
安堵、不思議、信じられなさ──全部が一気に押し寄せた。
(よかった……! よかったけど……!
俺自身まだ息苦しいし、状況は全然わからない……!
ここに長くいたら洒落にならん……!)
倒れていた人物が、ゆっくりと目を開ける。
「……だ、誰……だ……君は……?」
「あ、よかった……! いや、それより……!」
言葉が追いつかない。
助けられたことにホッとする気持ちと、早く逃げねばという焦りがぶつかる。
「あとで話しましょう! 今は生き延びるのが先です!」
その瞬間。
──ゴウンッ!!
天井が大きく揺れ、壁が波打つ。
金属が軋み、爆発音が重なり、火花が雨のように弾けた。
(くそっ……! 間に合うのか!?)
足元の床がきしみ、赤い警報灯のような光が薄暗く点滅していた。
もうダメだ──そう思った、その刹那。
「救助班、生命反応を捕捉! 対象を確保!」
眩しい光が周囲を包む。
体がふわりと浮き、呼吸が戻る。
見知らぬ服をまとった人々が俺を引き上げていく。
「大使を保護! 息はある!」
「こちらの男は……状況がわからん。とにかく一旦は拘束だ。後で聴取する」
落ちていく意識の中、誰かに運ばれているのだけはわかった。
俺は、いつもの日常を送っていただけなのに。
生活魔法を使って、誰かを助けていただけなのに。
――気がつけば、星々の世界へ飛ばされていたのだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
第1話は、アレンの日常と転移の落差をしっかり描きたくて、少し長めの導入になりました。
彼は“地味な生活魔法しか使えない”と思い込んでいますが、宇宙ではその地味さ意味を持ってきます。
応援してくれたらうれしいです!




