爆弾魔に仕返しを
拠点の中はとても汚く様々な物が散乱していた。木箱に樽に本に人形に――――――ともかく数え切れない物が床に吐き捨てられたような、そんな不快感すら覚える室内に三人の狩人が侵入する。
「て、敵襲――――――
PKの一人がそう叫ぶ瞬間、一本の矢がどこからか飛来する。そして頭が、破裂した。追い打ちをかけるように無数の矢が部屋の中を跳ね回り的確に急所を貫通していく。
「〈拡散跳弾〉――――――薄汚い貴方達を倒す為に練習したんですよ」
〈拡散跳弾〉とはスライムの素材を使用して作成した矢であり、先程僕に飛んできた矢と同じ物だ。その矢を複数本番えて発射する。そうして室内を跳ね回り敵の眉間を撃ち抜くのだった。
「おっかねぇな、恨みでもあんのか?」
「えぇ、貴方と別れた直後に襲撃を受けましてね」
百々目鬼もやけに殺意が高いと思ったら、一回してやられてて、それの仕返しって事なんだね。その気持ち分からなくも無いなぁ、僕だって倒されたら次はこっちが倒してやるって気になるもん。
「〈蒼空穿〉」
「〈邪眼撃〉」
「がはっ……!!」
順調にPKの拠点を壊滅し尽くしているけど、あまりにも順調過ぎて少し怖い。多少は実力者も居ると思ってたんだけど、どいつもこいつも素人ばかりじゃないか。
「うーん……一旦外に出てみる?」
「兄弟、どうしたんだ急に」
「僕の勘なんだけどね、この騒動起こした張本人は既に拠点から避難してるんじゃないかって思ってるんだ」
どこもかしこも雑兵ばかり。正直彼らじゃここまでPK騒動を大きく出来ないと思う。確かに数は多いけど、言ってしまえばそれまで。その数を集めるにも実力が無いとここまで大規模にはならないと思う。多分、PK騒動を起こした張本人はもうこの場所には居ない。
「ブライトさんの意見に賛同します。私を爆殺したPKがどこにも居ません」
確かにこの中に爆発を武器として使うPKは居なかった。もしそれがPK騒動の張本人なのだとしたら、次は何を起こすつもりなんだ。ここまで数だけを拠点に集めて……まるで、彼らを囮として使っているような――――――
「………っ!! 〈羅生門〉〈挑発〉」
僕は嫌な予感がした。即座に〈羅生門〉と〈挑発〉を併用して自分と仲間を守ろうと盾を構える。それを見たプロレスは回避行動を取り百々目鬼は〈バブルバリア〉とスキルを唱えて泡のように自分を覆い防御する。
「クックック、地球では「芸術は爆発だ」という名言が存在するらしい。まさにその通りだ。実に美しい」
一人の男――――――――ボマーと表示されているその男は轟音を掻き鳴らした大爆発を見て感動していた。この一瞬の煌めきこそが芸術であり、爆発後の残った粉塵でさえも儚さと共に芸術の一要素として感嘆している。
「おや、生きていましたか。せっかく芸術の一部になれたというのに……嘆かわしい」
真っ先に拠点から出てきた者が居た。その者はプロレスであり、自身を爆殺しようとした事に激昂している。
「誰が芸術の一部になるかよ!! ふざけた野郎だ、てめぇを芸術作品にしてやる!!」
それでも、ボマーは優雅さを崩す事なく立っている。例え脅威を目の前にしても、悠然とした態度で接する事を辞めないのだ。
「芸術作品ですか……貴方の場合ですと、その槍で私を突き刺し穴だらけにすると言った所でしょうか。彫刻にしては雑過ぎますね」
「何せオレは芸術家じゃねぇからな。てめぇをグチャグチャに出来ればそれで良い。 〈蒼空―――――――
その瞬間、爆発した。
プロレスが行った事としては、ボマーを貫く為に足をズラしただけ。それだけで爆破が洞窟を揺らしたのだ。
「…………っぶねぇ!!」
プロレスは瞬時に上空へと逃げる事で爆散する未来を回避した。汗が背筋を伝う。一瞬の判断が遅れていたら間違いなく自身の身体は消し飛んでいたからだ。
「言い忘れていましたが、ここら一帯には地雷を仕掛けさせて頂きました。どうぞ、自慢の素早さで駆け抜けてはいかがですか?」
「それに乗るわけ無いだろ。理論上爆破する前に駆け抜ける事は出来るが、その最中てめぇの差し込みで体勢を崩されて爆殺されるオチに決まってる」
ボマーは悪戯っ子の如くクスクスと笑いつつ空中のプロレスに向かって爆弾を投げる。プロレスは身体を捻って爆弾を回避し元居た場所に着地する。
「どちらにせよ、地雷がある限り私に近づく事すら出来ないじゃないですか。一体どうするんですか? 獲物はここに居ますよ」
そうボマーは狩人をからかうように挑発する。この戦いを――――――否、いたぶるような戦いを楽しんでいるのだ。じっくりと敵の体力を消耗させて抵抗出来なくなってから爆破で柔らかくしてから美味しく頂く。狩人と獲物の関係は往々にして転じる事がある。今がその時であり、今ではボマーこそが狩人だと確信しているのだ。
「なら、代わりに僕が近づくとしよう」
――――――――そして、狩人と獲物の関係が元に戻った。
僕は崩れた拠点から姿を現し前へと進む。例え地雷があろうと、僕の耐久力なら問題無い。一歩、歩いた瞬間に爆発が起こる。しかし依然と僕の体力は健在であり、〈逆鱗〉の効果で底上げされた耐久力にて余裕で生き残る事が出来る。
「………っ!! 何だ?!」
「へぇ、アイテムの設置物でも発動するのか」
この〈逆鱗〉第二の効果、それはダメージを受けると相手に本来のダメージの5%を反射する。少し分かり辛いが、これは僕がバフやらで盛っていなかった時の素のステータスを参照した時の受けたダメージの5%を相手に与えるという効果であり、僕がガチガチでバフで固めても反射ダメージが減る事は無いんだ。そして、今気が付いた事としてはアイテムの設置物でも発動する。
――――――――これ、地雷原を散歩してたらどれだけダメージが入るんだろうな?
「ま、待て、待つ――――――ごはっ……!!」
一歩、僕は地雷を起爆する。
「どうした、芸術は爆発なんだろ? まさにその通りだ。実に美しい。だからプロレスの代わりにお前を芸術作品にしようと思うんだ」
一歩、僕は地雷を起爆する。
「がはっ……!!」
一歩、僕は地雷を起爆する。
一歩、僕は地雷を起爆する。
一歩、僕は地雷を起爆する。
一歩、僕は地雷を起爆する。
一歩、僕は地雷を起爆する。
「や、辞め、辞めてくれ!!」
「そうか? なら、これで終わりにするか」
「そ、そうだな、これで終わり――――――
その瞬間、ボマーの眉間に穴が出来ていた。それは非常に大きな穴で、風穴にしては向こうの景色がよく見える程の穴だ。そんな穴が開いていた。
「はっ……?」
その地面にクレーターが出来ており、その矢は刺さる事なく跳ねているのみ。
そう、彼女こそ――――――この終わりに相応しい人物だった。
「百々目鬼……!!」
ボマーはそれだけを言い残して死んだ。今頃は素寒貧でリスポーンしている事だろう。この場には僕とプロレス、そして百々目鬼だけが立っている。
「ありがとう、トドメを譲ってくれて」
これにて仕返し成功である。