水嶺の巨蛇
[Cランク グリフォン]
「ピーッ、ピーッ」
「さぁ、降りてこーい……怖くないからな〜」
僕は上で飛び回る存在に向けて〈挑発〉を発動する。グリフォンは引き寄せられるように、地上に向けて翼を拡げ突進する。
「今だ!! 〈震槌〉」
「ピッ?!」
僕はタイミング良く鉄槌メイスを振り下ろしグリフォンをスタンさせる。そして、その隙を狩るようにプロレスが〈骸穿〉でグリフォンの身体を貫いた。
[戦闘終了]
[1300Gを獲得]
[頑丈な骨を4個獲得]
[グリフォンの羽根を5個獲得]
[グリフォンの爪を4個獲得]
「やーっと倒せた……」
「あんにゃろ……空飛び回るのムカつくぜ」
Dランクのモンスターとは違いCランクは一癖も二癖もあるモンスターばかりで厄介過ぎる。この装備じゃ無かったら数回はリスポーンしてたぞ……。
「まぁだが……この草を見つけれたのが大きいな」
それは薬草だ。ここは花畑だからか、様々な植物が群生している。もしかしたらと思って観察してみたら、なんと所々に薬草が生えていたんだ。これを採取しておけば、回復には困らないだろう。
「で、こっから山道を歩いて頂上に行く訳だな」
「この登山もそろそろ終わりか」
「見ろ、雲海都市がもうあんな所に」
プロレスが指を差した方向には、確かに雲海都市があった。記憶より小さく思えるが、それは僕達はが遠くまで来たという証拠でもある。
紅い夕日が僕達を照らす。太陽も冒険はもうすぐ終わると告げているように、雲の下へと沈んでいく。
「そういえば、現実世界の時間とこの世界の時間って同じなのか?」
「確か違うって聞いたことあるぜ。ほら、今は午後3時くらいなのに今は夕方だろ? 後、オレの星と地球の自転は大体同じだから、時間のズレはあまり気にしなくても良い」
それなら良かった。もし現実世界とゲーム世界が同じ時間なら、頂上前に夕飯を食べるハメになる所だったよ。
せっかく盛り上がってきたのに、夕飯食べるまでお預けというのも嫌だしね。
「このまま頂上まで駆け上がろう」
「おうともよ!!」
僕達は山道を駆け上へ上へと登る。この登山はもうすぐで終わる。頂上には何が居るのか、その好奇心を胸に駆け抜けると、とても開けた場所に出た。空は紅く染まり、花園からの春風が頂上に温もりを与えている。
「何も無い……?」
「…………いや、下だ!!」
突如として地面に揺れを感じる。地殻変動が起き天地ガ割れる。そんな地震のような衝撃と共に巨大な蛇が出現した。
「ジァァァァァァァ!!!」
そう、蛇だ。山々を軽々と破壊できそうな巨体をした蛇が雄叫びを上げ、縄張りに入った僕達を粉微塵に粉砕せんと睨見つける。それはこの地のエリアボスであり、登山の旅の到達点に待ち受ける脅威でもある。
[Bランク 水嶺の巨蛇 ナーガ]
「〈蛮勇の雄叫び〉〈骸穿〉」
「ジャァァッ?!」
最初から出し惜しみはしないとばかりにプロレスは自身にバフをかけ身体へと向かって飛び上がる。そして〈骸穿〉によって鱗をも粉砕し槍が刺さる。しかし――――――
「硬い……!!」
その程度の攻撃では多少怯むくらいで致命傷にはならない。ナーガは反撃にと口元に水を集める。
「〈不沈艦〉〈挑発〉」
僕を見ろナーガ。仲間には一歩たりとも手出しさせない。
ナーガは〈挑発〉の影響でその攻撃の矛先を僕に向ける。集めた水を一点に収束させ水圧カッターの如く放出する。
「…………ぐっ!!」
〈不沈艦〉と盾の被ダメージ減少込みでも多少のダメージは喰らってしまう。それ程までに強力な水鉄砲―――――――いや、水のビームと言った所か。
「〈骸穿〉」
「ジッ?!?!」
プロレスはナーガの顎を貫き水の攻撃をキャンセルした。このまま攻撃を受けていたら、流石のこの装備でも危なかっただろう。
「ナイスアシスト!!」
「一旦回復に専念しろ。少しの間なら回避くらい出来る」
僕は頷いて〈挑発〉を解き薬草を取り出す。それを口の中にねじ込んで回復して速攻で戦線復帰した。
「〈震槌〉」
僕は〈震槌〉を使用しナーガを一瞬スタンさせる。それを好機と読んだプロレスは奥義の構えを取る。
「〈骨界穿孔〉」
その突きは衝撃を生み地面は抉れ突風すら巻き起こした。
〈蛮勇の雄叫び〉の自己バフ込みの〈骨界穿孔〉は現地点での最高火力。Cランクのモンスターなら一撃で葬り去る程の威力を誇る奥義だ。
「嘘だろ……!!」
「ジャァァァァァ………」
確かに効いてはいる。だが、生きている。Bランクのモンスターはそれ以下のランクのモンスターより格別に強い。
そしてあろう事か、傷が再生しかけている。自己再生のスキルも持っているのか、得意げな表情で耐えたという事実を威張ってるようにも見える。
「ジャア!!!」
更にお返しとばかりに複数の水の球を天に向かって連続で放出する。その水は春風の届かぬ上空にまで上昇し冷やされた空気によって凍る。
「氷の流星群だと?!」
そう形容するしか無かった。多くの水の球は群れと成し、氷に凝固し、地面へと落ちる。そして、その先は当然僕達となる。
「〈挑発〉!!」
僕は全力で盾を構え、プロレスは何かに気が付いたのかナーガに向かって突撃する。あられや雹を凌駕する大きさの塊は流星群となって襲いかかるのだ。
「ゲホッゲホッ………」
なんとか……生きてるな。プロレス、プロレスはどうなったんだ?
周りを見渡すもプロレスの姿が無い。もしかして死んでリスポーンしてしまったのかと頭を過るが、その瞬間ナーガの悲鳴が響き渡った。
「ジャァァァァァァァ?!?!」
なんとプロレスはナーガに槍を突き刺して張り付いていたのだ。ナーガ自身に氷の塊を落とす訳が無い。敢えて近づくのは考えてみれば選択肢としては全然アリ得るのだ。
「〈震槌〉」
僕は暴れるナーガの腹に〈震槌〉を叩き込む。この技は別に頭に当てなくてもスタン効果は発動するが故にナーガは痺れたように項垂れてる事になる。
「〈骸穿〉」
「ジジァジジジァジァ?!」
飛び上がったプロレスは飛び上がり、落下を利用して槍をナーガの身体に突き立てる。ナーガは声にもならない程に悶え苦しむ。スタン効果が切れた瞬間身体を震わせ暴れるも、僕は〈挑発〉のスキルを発動している。不用意にその場を動く事はしないはずだ。
「良い加減沈みやがれ!! 〈骨界穿孔〉」
それは渾身の一撃である。次の瞬間には水嶺の巨蛇と呼ばれたナーガの身体には大穴が抉り抜かれていて、半壊した肉体では自己再生する事も叶わない。
ナーガは地面に倒れ伏して塵と化し、広がる紅い空へと消えていった。
[戦闘終了]
[4500Gを獲得]
[ナーガの魔鱗を8個獲得]
[ナーガの水冰核を1個獲得]
[ナーガの牙を2個獲得]
[ナーガの眼球を1個獲得]
紅い空は徐々に暗くなり、次第に星が見え始める。その星々は僕達の勝利を祝福してくれるようで、完全に日が落ちた頃には空いっぱいの星空が天を覆い尽くしていた。
「ここまで付き合ってくれてありがとう。プロレス」
「オレとしては満足だぜ。お金もたんまり貯まったからな」
「でも多分、そのお金も装備に消えるんだろうなぁ」
「うぐっ……」
果たして僕達の財布が潤うのはいつになる事やら。このゲームは収入より出費の方が大きい。そう考えると、冒険組合に加入しておいて良かったよ本当に。何せ冒険するだけでお金が入るんだから。
「それで……あの9︰15って何の表示なんだ?」
ナーガを倒した直後、エリアの中央に謎のカウントが表示されている。そして時間経過によってそのカウントが進み数字が減っていっている。
僕の予想が正しければ――――――――
「十中八九復活までの時間だろうな」
要するに討伐して10分経てば再戦は可能という事だ。もう少し強くなったら周回とかもして良いけど、今はちょっとその気力は湧かないかな。
「…………戻るか、雲海都市」
今回の登山はこれで終わり。上はある程度攻略したから、次は雲海都市より下の階層に行ってみようかな。