壮大な景色、冒険の高揚、そして初戦闘
「わぁ………!!」
上には青空と太陽が常に大地を照らしており、下は雲で覆われている。ここは山と雲の上であり、涼しげなそよ風と共に神秘的な景色を一望出来る場所だ。
マップには『自由の国ノマディア 雲海都市』と書かれている。ここは、山の上にある都市のようだ。
「これ全部行けるのか……凄いな!!」
地平線にまで広がる大空に、雲の隙間から見える広大な大地、冒険意欲が刺激されて今直ぐにでも飛び出したい。
だが落ち着くんだブライトよ……冒険の前には準備が必要だ。まずこの街を探索して堪能しようじゃないか。
「まずこの街には何があるかだよな……」
マップを見るに、この都市には冒険組合、雑貨屋、鍛冶屋、自由市場などがあるみたいだ。とりあえず冒険組合に行ってみる事にした。雑貨屋などの見せに行くとしても、手持ちが無いんじゃ冷やかしと思われてしまうだろうからね。
向かう道中には民族的な建物が多くあり、道中にはトーテムが建てられている。独特な装飾に心を躍らせながら、僕は目的地へと着いた。
「冒険組合に到着したけど……思ったより小さいんだな」
冒険組合の建物は想定より小さかったが、リリース直後だからか続々とプレイヤーが入っている。
僕もその流れに乗って冒険組合の建物に入ると、意外にも部屋は広く大勢のプレイヤーが居ても快適に過ごせるようになっている。
「お前は……新入りだな」
声をかけられた方向に顔を向けると、そこには小さな軍服を着こなす天使が居た。このゲームに入る前に出会ったマポンとは別の天使だろうか。
「初めまして、僕の名前はブライトだ。ここは、何が出来る所なんだ?」
「ここは冒険組合の加入やサポートが受けれる場所になっている。それと……私の名前はグンポン、冒険組合のサポート天使だ。分からない事があれば私に聞くといい」
冒険組合の加入――――――どれくらいの恩恵があるのかは分からないけど、受けておいて損は無いとは思う。流石に自由の国なんだからガチガチなノルマは無いと願いたい。
「その冒険組合に加入したいんだけど、どうしたら良いんだ?」
「このカードを手の甲に押し当ててくれ」
グンポンから渡されたカードは何の変哲もない水色のカードで何も書かれていない。疑問に思いつつ言われた通りカードを手の甲に押し当てると、カードが発光する。
そして裏返しにすると、自分の名前や発行した日付などが出現した。
「これだけで終わり?」
「あぁ、これで晴れてお前は冒険組合の一員だ」
あまりにも呆気なく加入出来た事に驚きつつ、冒険組合にはどんな恩恵があるのか聞くと、グンポンは嬉々として語ってくれる。
「冒険組合の恩恵は主に二つ。冒険クエストと自由市場だ」
冒険クエストは冒険組合独自のクエストで、様々な場所へ赴いたり、モンスターを討伐したり、ダンジョンを攻略するとボーナスとして追加でお金が獲得出来る。つまり、冒険すればする程収入が入るらしい。
自由市場は自身のアイテムを売ったり、他プレイヤーのアイテムを買ったりする事も出来るらしい。またNPCがたまに世界各地で収集したアイテムを売りに出す事もある。そうして珍しいアイテムを売りに出してお金儲けするプレイスタイルも中々面白そうだ。
「探索し、発見し、開拓する。それが冒険組合の目的だ。まだ見ぬ未知の冒険を我々はサポートするぞ」
まだ見ぬ未知、一体この世界には何があるのか……気になり過ぎて気が気じゃない。こうしちゃ居られない、早く冒険に出かけたい!!
「ありがとう、今直ぐ冒険してみるよ!!」
俺は冒険組合を飛び出し興奮のままに村から旅立つ事にした――――――――まだ見ぬ景色を求めて。
「あぁそうそう、言い忘れていたんだが雲海都市より上には――――――――もう行ってしまったか」
◇◇◇◇◇
「飛び出したは良いが……ここ、どこだ?」
僕は今どこかの洞窟に居る。さっきまで山道を歩いていたのに、速攻で洞窟に迷い込むなんて参ったよ。でも自分の位置くらいマップで確認出来るだろ――――――と、思っていた時期が僕にもありました。
――――――――自分の通った所以外真っ暗なんだよね。
名前だけは出てて『自由の国ノマディア 天霊峰』とだけ書かれている。それ以外の情報は一つずつ開拓していけという事なんだろう。
「ま、まぁ、これはこれで探索のし甲斐があるというものだよな。こうなったら、暗い所は全部通ってマッピングしてやるぜ!!」
僕は洞窟の道なりに進めば何者かが目の前を立ち塞がった。その者は人間のようで身体に肉の無い骨だけのモンスターだった。
[Eランク スケルトン]
スケルトンはカタカタと歯を震わせながら、手に持つ剣を振りかざす。僕はその剣を見習いの剣で受け止めつつ、横に流して一筋の剣筋をお見舞いする。スケルトンはその衝撃で体勢を崩すも、まだ倒れない。
それならと僕はスケルトンに対してスキルを行使する。
「〈クイックスラッシュ〉」
その素早い一撃に耐えられる事無くスケルトンの体力は全壊して初戦闘は僕の勝利に終わった。
[戦闘終了]
[150Gを獲得]
[丈夫な骨を2個獲得]
「お金と……骨の素材か」
モンスターを倒したらお金と素材を落とす。お金は幾らあっても良いし、素材も素材で後々使いそうだからいっぱい取っときたいな。
確認も終わった所で洞窟を進んでいけば、分かれ道が出現した。一つは上に上がる道で、もう一つは下へと下る道のようだ。俺は探索は丁寧にやりたいタイプだから、上からマップを埋める事にした。
「雲の上にある村だから一番上にあるって思ってたけど、更に上に繋がってるなんて……頂上には一体何があるんだ?」
坂を登っていくと、一瞬視界が歪んだ気がした。その違和感は徐々に顕著となり身体が重くなり非常に動かしにくい。
[異常空間に入りました]
[低酸素状態となりました]
「状態異常か?!」
どうやら異常空間と呼ばれる空間に入ってしまったらしく、低酸素状態によって移動や攻撃の速度が著しく低下してしまっている。もしこの状態で戦闘なんてしたら――――――
「グルルル……」
「嘘だろ……!!」
[Dランク ファットベア]
最悪のタイミングでモンスターと遭遇するなんて。しかも先ほどのスケルトンとは違いD級。間違いなく中ボスとかだろ。俺は重い身体を起こしつつ剣を構える。
その熊のモンスターはスケルトンよりも体格が大きいが、僕と同じように動きがゆっくりになっている様子だった。
「〈クイックスラッシュ〉」
今の状態では比較的素早い〈クイックスラッシュ〉を放つも多少攻撃速度遅くなっていて使いづらい。それでも普通に攻撃するよりかはマシだと思いつつ、斬りつけるも多少怯んだ程度で倒れる気配が全く無い。ファットベアののしかかり攻撃を全力で飛び退き回避するも移動が遅くて危うく押し潰される所だった。
「回避するのも一苦労なのかよ!!」
回避が容易と思った攻撃も低酸素状態なら致命的な隙となる。ファットベアの動きも遅くて良かった。もし素早い相手だったら死んで――――――――
「ガウッ!!」
「しまっ――――――」
「〈クイックスラッシュ〉!!」
突然、何者かが僕の前に出てきて〈クイックスラッシュ〉を今にも攻撃せんと腕を振りかざしたファットベアを逆に衝撃で怯ませた。
その者は頭の上に”プロレス”というプレイヤーネームが表示されており、プレイヤーだという事が分かる。
「ブライト……で良いんだよな? オレも混ぜろよ」
「助太刀ありがとう。一緒にあいつを倒そう!!」
増援が来た所で僕はファットベアに対して〈クイックスラッシュ〉を叩き込み速攻で離れる。もう油断はしない。ヒット&アウェイに徹して着実に削っていくんだ。
「どこ見てんだぁ? 〈クイックスラッシュ〉」
「ガッ?! グルルル……ガウッ――――――――」
「こっちだ!! 〈クイックスラッシュ〉」
ファットベアに攻撃の隙は与えない。交互に〈クイックスラッシュ〉を発動し怯ませ動かさないようにする。
そんな連携と連撃の嵐に流石のファットベアは耐えられるはずも無く遂に体力が全壊し倒す事が出来た。
[戦闘終了]
[550Gを獲得]
[強固な骨を5個獲得]
[ファットベアの毛皮を6個獲得]
[ファットベアの肉を3個獲得]
「た、倒せた〜」
僕はなんとかファットベアを倒せた事に感動しつつドロップ品を確認する。この素材の多さも凄いけど、何より550Gもお金が貰えるなんて、苦労に対するリターンが大きいのが大満足だな。
「うぉっ?!」
「どうした?」
「おい、ファットベアの肉手に入ったぞ!! ……これ、食えるのかな」
「どうなんだろ」
熊の肉は食べた事が無いから美味しいのか分かんないけど……そもそも、このゲームの料理出来るのかな。もし出来るのなら是非食べてみたい所だ。
「それより、助けてくれてありがとう」
「おうともよ、地球人の兄弟を助けるのは当然だからな。盟友だし」
……地球人?
このプロレス、今地球人と言ってたよな。それじゃあ、もしかして――――――――
「プロレス、お前何人だ?」
「へへっ、オレはミュータン人だ。宜しくな」
どうやら、その者は夢に見た宇宙からの来訪者だった。