表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

いつか見た星空は

作者: 波並 誠

「ねぇもし、私が死んだらさ」

夜空に浮かぶ星を指でなぞった。

「君が……」

その点と点を線で結ぶと、蝶が生まれて空を舞い、彼女の鼻先に止まった。それを眺めていると、彼女も私の方を見た。

「なに? なにか見える?」

彼女はそう言って、上半身を起こさないで辺りを見渡した。

「ううん。なにもいないよ。ただ、見惚れてだけ」

私がそう言うと、彼女は大きく目を見開いた。でもすぐに、彼女は悲しそうな顔をして、「駄目だよ」と言って、また空を見上げた。

私も彼女と同じようにもう一度星空を眺める。

「わかってる」

そう呟くのが精一杯だった。



あれから半年後に君は星になった。分かりきっていた結末だった。涙は流さなかった。いや、流せなかったの方が正しいかな。頭が真っ白になるって言うのはきっとああいうことなんだと思う。

彼女が居なくなっても、私の日常は変わらなかった。彼女がもとからこの世界に居なかったような気さえした。そんな日々を何度繰り返しただろう。いつの間にか、私は高校を卒業することになっていた。漠然と、早いななんて思った。

卒業式の日。なんとなくで、卒業式をサボってみた。今頃、親も先生も同級生も私のことを探しているだろう。それが滑稽に思えた。といっても、行く宛なんてない。ここからどうしようか悩んでいるうちに、彼女と星を見たあの場所がフラッシュバックした。ここからだと五キロメートルはあるあの場所へ私は歩いた。春を含んだ冷たい風が、細々とした枝に不釣り合いに付いている蕾を揺らしていた。

あの場所はあの時と違って、草が生い茂っていた。誰も整備していないのかと心の中で悪態をつきながら、草をローファーで踏み均していく。すると、一ヶ所だけ草の生えていない場所があった。それは、私と彼女が一緒に星を見た場所のようだった。記憶は曖昧だけど、確かにこの場所だった。矛盾した記憶を掘り起こして、私は草のない場所へ寝転んだ。空は雲一つない晴天で、鳶が一羽優雅に飛んでいた。少しの間そうしていたけれど、地べたに頭をつけていると段々と後頭部が痛くなってきた。体を起こそうと手を地面につけた。

「あれ?」

手をつけた場所が異様に柔らかいことに気がついた私は、その場所を素手で掘った。別に、何かを期待していた訳じゃない。なんとなくだった。なんとなく。

出てきたのは、ガムテープに巻かれたクッキーの箱だった。アルミでできた箱は腐食していて、蓋は簡単に開いた。中にはA4のノートが一冊。

私は迷いなくそのノートを捲った。

「こんにちは。自称君の一番の理解者さんです。きっと、君はこの場所に来るだろうから、ここに置くことにしたんだけどさ。どう? 当たってたでしょ? まあ、こんなことしてもあんまり話すことはないんだけどさぁ。あの時言いかけたことだけ言っておこうと思って、『もし、私が死んだらさ。君が寂しくないように、いろんな所に私がいた証を残そうと思ってるんだ。』君がいつこれを読むか分からないけど、早く見つけてくれると、私的にはありがたいかも。学校には行けないから、学校に何か残すのは難しいけど、ほら、私たちだけで遊んだあの夏に行った所全部にさ、私の印を残しておいたら面白いかなって。絶対に君にしか見つけられない場所に君しか分からないものをって思ってたんだけどね。思ったよりも体の調子が良くならないや。だから、病院から一番近いこの場所にしか残せなかった。あの時、ここで見た星空綺麗だったよね。もう一度、君と見たかったな。なーんて、悲しいこと言うと君はすぐ泣くから。これで最後にしておくね。好きだよ。バイバイ」

何度も、何度も何度も読み返した。時間なんて忘れていた。煩わしいもの全部、投げ捨てて今はただあの時の星空を、君を抱きしめていたかった。いつか見た星空をもう一度

「あなたと見たかった」

雨が降り、地面は濡れる。嗚咽と、電話の音をこの場所に残して。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ