第4節 再び歴史は繰り返す
しばらく会わない間に、孫娘は大きくなっていた。
テレビを指さしては
「パパ、パパ」
と言っている。
見ると、どこかの病院で医者にインタビューしていた。
「そうね。パパ、出てるね」
娘が相槌を打っている。
どうせ
「本当はね、あなたのパパはお医者さんなのよ」
とでも刷り込んだのだろう。
孫娘の父親が誰かは聞いていなかった。どう間違っても、医者だったはずがない。娘は無一文で出産したのだから。あの時のZの苦労は筆舌に尽くしがたい。
娘は高校生で妊娠し、学校を中退して、その子を産んだ。歴史は繰り返す、とはこのことだった。
(おまけに、相手が医者だったなんて…。私たち親子は医者に憧れているのかも)
血は争えないものだ。
☆
「ママ、誰か付き合ってる人いるの」
唐突に娘が訊いてきた。
「まさか。この体と顔でしょ。あんたが一番わかってるでしょ。見て、こんなに太っちゃった」
Zは腰を撫でた。
本当のところ、恋愛中である。まだ、娘に打ち明けるには、早すぎた。
SNS(会員制交流サイト)で男性と知り合いになった。海外在住で年齢は四〇の実業家。何年か後に日本に帰国予定だ。
メッセージをやり取りするうち、相手はすっかりZを気に入ってくれた。
「一人暮らしは大変ですよね。ボクで良ければ、何でも言ってください」
などと、しおらしい。
この間は急な入り用があるというので、なけなしの金をはたいて振り込んでおいた。
☆
相手はハンサムである。
「あなたの写真を見たいな」
と何度もせがむので、写真を送った。
職場に同じ年頃の同僚がいる。彼女は四国の出身で、✕イチ。息子と二人暮らしと言っていた。
彼女は同性でも惚れ惚れするような美人だ。ちょうど、休憩時間中に撮ったツーショットがあった。娘に頼み、Zの姿は消して、彼女のものを送っておいた。
「すごい美人ですね」
と感激の様子だった。
これは、同僚が言うようなロマンス詐欺なんかじゃない。長い間、孤閨を守って来たZにとって、ラストチャンスになりそうな気がする。
最初は、まさか恋愛に発展するなんて思ってもいなかった。それにしても、浅はかだった。なんで同僚の写真を送ってしまったのだろう。
今度こそ、本当に電話相談してみよう。きっと力になってくれるはずだ。
Zは電話番号簿をタップした。