4 首都 トーメイ
二人は見張りにバレないように身を潜めながら、首都へと向かっていた。
「ところでお前、いやアグリと言ったか。お前、技能は使えるか?」
「技能?なんですかそれは」
「……まじか」
この世界では技能と呼ばれる能力が個々に潜在している。
大抵の人間は幼少期から技能が発達してくる。その技能がどういうものかは、各々の性格などによって変わってくる。
学校では主にその技能の上達を教育され、その扱いが上手く、強いものが上の立場になることができる。
「自分がなんの技能を持っているのかも知らないのか?」
「そもそもそれがなんなのか知らないですね」
「例えばだな、俺は全知全能の技能持ちだ」
「…はい?冗談は髪だけにしてください」
(こいつここで始末してやろうかな)
「つまりだな、俺は偉い奴なんだ」
「態度だけ見れば、そう見えますね」
(やっぱ殺そうそうしようそうすべきだ)
「技能がないと色々と不便なんだが、まぁそれはとりあえず後から考えよう。ほらみろアグリ、ここがチョウガウの首都、トーメイだ」
ずっと木々しか見えなかった視界が急に広がったと思えば、そこには綺麗に区切られた街が現れた。
建物一つ一つが繊細に拘られていて何時みても飽きなさそうだ。
「…わぁ、すごい」
「外から見る分には綺麗だろ?内面はまぁ、腐ったみかんみたいなのがわんさかいるけどな」
「一言多く言わないと死ぬ技能でもお持ちなんですか?」
「お前の命、この俺が握ってること忘れんじゃねぇぞ!」
そのまま、初めての街にきゃっきゃとするアグリを横目にしながら、目的の美容院へと足を運んでいった。
「いらっしゃいま……ってお前かよゲイス」
「お前かよってなんだシユ」
からんからんと店の扉を開ければ、出迎えてくれたのはファッションに富んでいる方だった。前髪が目元にかかっていて視線はよく見えないが、そんなことが気にならないくらいにはスタイルもいい。
シユと呼ばれたその人はかったるそうな態度をしていたが、隣にいるアグリ見たら顔色を変えてすっとんできた。
「っっおいおいおいゲイスお前ってやつは!女の子攫ったのか?」
「っち、ちげーよバカ!これには理由があってだな!」
一通り事情を話せば、シユはさらに眉を顰めた。
「…お前ってやつは!」
「ってことで男に見えるようなヘアスタイルにしてくれねぇか?」
「ゲイス、これ反逆罪ってこと分かってんの?」
「ん?もちろん!」
「は!?じゃあなんでこんな、」
「その話、長い?」
「いや、こんなことがバレたらいくらお前の立場でもっ」
「俺今、反抗期だから。こいつを助けたい。そう思っただけ」
「……ボクがバラすとは思わないわけ?」
「その時は、そうだな。やることは一つだ」
ヘラヘラとしていたその表情が一変して、ゲイスはシユを睨みつけた。
「……分かったよ。お前は昔っからそういう奴だ」
「シユ!お前は最高だな!」
「…ったく本当はこんな自分の命を晒すようなことはしたくねぇんだけどな」
シユは一つ大きくため息をついて、アグリに向き直った。
「可愛いお嬢さん、このような話を聞かせてしまってすまない」
「……あの、私っ、」
「いいんだ、アグリ。お前は何も悪くない。気にせずカットしてもらえ」
「よければボクにその髪を切らせて貰えないかな?」