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2.「順番どおりにしないから」part 7.

「ウィノナ様ってぇ〜、王子とどこまで進んでるのぉ〜?」


「ど、どこまでって……急に何をおっしゃるの?」



 マルカ嬢が、お茶会で、急にわたくしへ破廉恥(はれんち)な質問を投げかける。


 やはり魔国が恋愛に奔放という噂は本当なのでしょうね……


 わたくしが答えを言い淀んでいると、竜人のラホーシュ様がニヤニヤとこちらを見ながら、また身も蓋もない事を言う。



「あのジャマナ王子がまだ手を出していないなんてな。相当あんたに魅力がないんじゃないのか? ……姫」



 王子殿下に怒られたからといって、語尾に『姫』をつければ良いというものではございませんのよ?


 わたくしは、口元に運んでいたお茶をそっとお皿に置いて、落ち着いてお相手しようとひとつ咳払いをした。



「んんッ、わたくしから申し上げるようなお話ではございませんわ。王子殿下がなさることに、わたくしは邪推しないよう努めておりますの」


「んも〜気取っちゃってぇ〜! ゼルジン、ラホーシュ! 姫に王子の好み教えてあげなよ!」


「え? いいのか? また怒られんの嫌なんだけど……」


「もうすぐ王子来るってよ。さっきそこで先触れの騎士に会ったわ」


「マルカ、今はやめときなさいよ。王子を怒らせてもいいことないわよ」


「えぇ〜!? あたしはぁ、ウィノナ様のためにぃ〜」


「何の話をしている?」



 薄い笑顔で登場したジャマナ王子の問いに、不逞(ふてい)の輩たちは黙り込む。


 やっぱりこの場を制しているのは王子殿下だと思うわ。


 ご友人たちに手を焼いたり、振り回されていたりするような様子は感じられない。


 この方達の力関係は火を見るより明らかね……


 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょう。



「……王子殿下が、もうすぐいらっしゃると言うお話をしていたんですのよ? ねえ、皆さま」


「そ、そんな感じぃ〜☆ だよね、デイビス」


「確かに俺はそう言ったかもな」



 なぜか責任をたらい回しにしようとする不逞の輩たちを見ながら、ジャマナ王子殿下はわたくしの席に近づいてくる。



「お待たせしてすみません、ウィノナ姫」


「いいえ、皆様のお話が楽しかったので、時間があっという間でしたわ」



 紳士的にわたくしの手を取って挨拶なさる王子殿下は、誰が見ても完璧な婚約者ですわね。


 お互いに演技をしているこの状況は、裏の関係があればこそ耐えられるものだけれど……


 耐える? これまでの人生で、こんなことは、いつだってわたくしの日常だったわ。


 わたくしは……ジャマナ王子の来訪を心待ちにしていると言うの?



「ジャマナ王子ぃ〜! 遠乗りしませぇ〜ん? ウィノナ姫も一緒にさぁ〜」


「そうだな、退屈凌ぎにもなるか……姫、羽魔(うま)にはお乗りになれますか?」


()()()()()()()()()わよ」


「それでは魔丁(まてい)に連れて来させよう、羽魔(うま)をここへ」



 ん? 今、ジャマナ王子は『マテイ』とおっしゃったの……? 聞き違いかしら? 『バテイ』の事なのよね?


 マルカ様の怪しい笑顔が少し気になるけれど、わたくしは場の空気を壊さないように微笑んでみせた。





□■□■□■□■□■□■





「これが……()()ですの……?」



 連れてこられたウマは、わたくしのイメージとは違って大きな黒い羽が生えていた。


 体は全面的に黒い炎で覆われ、どの部分に乗るのかすら皆目(かいもく)わからない。


 考えてみたら、魔国に()()()()()のでしたわ……


 この大陸には野生の馬がいて、各国がそれぞれの活用法を見出している。


 わたくしが育ったニルヴァーナ王国では、馬を移動するためや農耕地で使役するために飼育していたけれど、確か魔国ではだいぶ昔に狩り尽くして絶滅したと学んだのだったわ。


 この国に入ってから王城まで魔車に乗ってきたのだし、ブラディオン様が騎乗されていたのは、トカゲのようで鳥のような不可思議な動物でしたわ。


 このウマは、魔車に繋がれていた生き物かしら……?


 ど、どうしましょう……


 乗れると言ってしまった手前、今さら前言撤回できないわ。


 ほかの皆さま方は、どうやって乗っているのかしら……?


 チラリと視線をやると、不逞の輩は皆さんとっくに騎乗して楽しそうに雄叫びを上げていた。



「くっ……完全に乗り遅れたわね……」



 わたくしだって、小さい頃はお転婆でしたのよ。普通の馬になら颯爽と乗れる自信がありますのに……!


 いいえ、負けませんわ! まずは集中よ!


 この子だって、わたくしに慣れれば乗せてくれるはずですわ。


 わたくしは、魔国のウマの顔であろう付近に手を伸ばしてみる。



「危ないですよ、貴女は私と一緒に、こちらの羽魔(うま)にお乗りください」



 ふいに手首を掴まれたかと思うと、わたくしは王子殿下の腕の中にくるりと引き込まれてしまった。



「羽魔に乗れるだなんて、貴女は私に嘘を言ったのかな?」


「う、嘘というか……勘違いですわ。ニルヴァーナの馬だと思って返事をしてしまいましたの」


大方(おおかた)、そんなことだろうと思っていました」



 これは……偶然? それとも何かを狙って、王子殿下が不逞の輩にこの流れを作らせた?


 わたくしは、落ち着き払った王子殿下を見つめながら、その真意がわからずに(うつむ)いた。



「申し訳ございません、せっかくの遠乗りなのに……邪魔をしてしまいましたわ」


「貴女ほどの魔力があれば、そのうち乗れるようになるでしょう」


「乗るには魔力が必要ですのね? それでは……キャ!」


「それなりに危ないのでね、今日のところは私に従ってもらおう!」



 わたくしをウマの上に投げ上げて、流れるように騎乗した王子殿下が、トン! とウマの腹を蹴る。


 すると、魔国のウマは何の音も立てず、グイッとわたくしたちを引っ張るような感覚で前に走り出す。


 地面から浮いているから、少しだけ上下に揺れるけれど、ほとんど衝撃はない。



「たてがみの真ん中を掴んで! 頭を私の肩に預けて! そう、上手ですよ!」


「こ、こんな風圧がすごいんですのね!? まるで突風のような!」


「羽魔は、単騎なら1日でこの魔国を横断できるのです……今はそこまで飛ばせませんが!」


「どうして!?」


「貴女が()()()()()()()()()()()()()()!」



 本気か冗談かわからないような表情で、ジャマナ王子殿下がおっしゃった。


 その怪しげなお顔にゾクリとしてしまい、わたくしはバラバラにならないように身を(すく)める。


 わたくし、やはり魔国で生きていける気がしないわ……


 今だって、背中に王子殿下の凸凹のある胸筋を感じて、何だか脈拍がおかしくなっているのだ。


 とにかく、気絶して手を離したら終わりね。


 普通の馬でも落馬すれば命の危険があるというのに、こんな速さで地面から結構な高位置を走るこの魔国のウマから落ちれば、わたくしの体などひとたまりもないだろう。


 防御魔法を何重にもかけていたとしても、どうなるかわからない。



「大丈夫だ! 落としやしませんから!」



 王子殿下の言葉には、簡単に信じられない何かがある。


 けれど、取り敢えず、この魔国のウマから無事に降りるまでは大人しくしているしかないのだわ!






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