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第42話 やっぱり、離婚したい

「今ので今日の分、全部なくなったぞ!」


 俺がそう言うと、レジを担当していたアグネスが満面の笑みを浮かべた。


 もうすぐ日が暮れるが、まだ市場は続く。

 しかし、この時点で今日の分のジャムが全て完売したのである。


 購入者はほとんどが女性客だったが、中には男性客もいた。

 もちろん、中には美少女につられただけの者もいる。

 だが大半の購入者が、俺たちの活動を応援していると声をかけてくれた。


「今日はもう宿に戻るか」


 時間的にまだ王都を観光できないことはないが、全員疲れがたまっている。

 案の定、俺の言葉にみんなは勢いよく頷いた。





 販売に夢中で、昼食をとる時間がなかった。

 もちろん空腹だが、それ以上に疲れていて、なかなか何かを食べようという気にはなれない。


「コルベット様、夕飯、どこかへ行きますか? それとも、ルームサービスを頼みますか?」


 俺と同様、いや、呼び込みをしていたからそれ以上に疲れているだろうに、ルイは俺を気遣ってくれる。


 やっぱりルイは優しいな。


「今日はルームサービスにしたいんだが。……ルイはどうだ?」

「僕もです。だって、ここで二人きりで、一緒に食べられるってことでしょう?」


 可愛い。

 こんな可愛いことを言ってくれる子になんて、もう出会えない気がする。


 疲れた頭に、ルイの圧倒的な可愛さはよく効く。

 俺はぼんやりと頷いて、そのままベッドに倒れた。


「悪い。少し寝せてくれ」

「はい。食事がきたら、起こしますね」


 お前もゆっくりしていいんだぞ、と言ってすぐ、俺は意識を手放してしまった。





 夕飯を終えてルイと談笑していると、部屋の扉がノックされた。

 ルイが扉を開けると、ベルが部屋に入ってくる。


「コルベット様、ちょっといいかしら?」


 ベルも部屋で少し休めたのだろう。疲れがとれたのか、すっきりとした顔つきだ。

 そして動きやすいように、髪の毛をポニーテールにしている。


 やっぱり、めちゃくちゃ可愛いな。


 そう思った瞬間、コルベット様、と不満げなルイの声が聞こえた。

 振り向くと、ルイが拗ねた顔で唇を尖らせている。


 俺とベルが本当の夫婦ではないことは知っているが、それでも俺がベルにでれでれするのは気に入らないんだろう。


「ああ、いいけど」


 俺が応じると、ベルは申し訳なさそうにルイを見た。


「申し訳ないけれど、二人にしてもらえるかしら?」

「……分かりました。では僕は、ジゼルさんのところへ行っておきますので」


 そう言い残し、ルイは部屋を出て行った。

 ジゼルのところへ行く、というのはルイなりの抵抗なのだろう、たぶん。


「どうしたんだ、ベル?」

「改めて話がしたかったんですわ、夫婦として」

「まあ、とりあえず座ったらどうだ?」


 頷いて、ベルは俺の隣ではなく正面に座った。


「わたくし、今日の活動を通じて、すごく感動しました。

 思っていたよりもずっと多くの人が、わたくしたちを応援してくださったんですもの」

「ああ。俺も、正直驚いた」


 意志の強い瞳が、真っ直ぐに俺を見つめている。


「最初は、ジゼルと幸せになることだけを考えていましたわ。

 でも、いろいろと活動をして、こうして、少しずつ、わたくしの考えも変わったの」


 ベルは勢いよく立ち上がった。


「女子教育を推進していきたいと、わたくしは心の底から思うようになったの。

 女学校を作って職を得て、ジゼルと幸せになる。

 それだけがゴールじゃないって、思うようになったの」


 ベルの白い頬が、だんだんと熱を帯びていく。

 生気に満ちた瞳が眩しくて、思わず目を逸らしそうになってしまった。


 本当、いい女なんだよな、ベルって。

 見た目で妻として選んだが、ベルは内面も素晴らしい女性だ。


「これからもわたくし、頑張り続けるわ。そして……」


 すう、とベルが息を吸い込む。

 きっと、ここからが一番伝えたいことなのだろう。


「女学校設立と同時に、離婚してほしいの」


 初めから、俺たちは離婚を目指している。

 けれど改めてそう言われると、少しだけ落ち込みそうになってしまう。


「離婚して、ジゼルを……女性を愛していると公表するわ。

 自分を偽らず、誠実に頑張りたいの」


 ベルは今まで見た中で、一番綺麗に笑った。


「コルベット様には、たくさん迷惑をかけてしまうことになると思うわ。

 だけど……お願い。これからも、一緒に頑張ってほしいんです!」


 ベルは深々と頭を下げた。


 確かに離婚したとしても、俺の支援なしにベルはやっていけないだろう。


「俺の答えなんて、決まってるだろ」


 領地で学校を作り、領地に住み続けるのなら、ベルは俺が守るべき領民だ。

 領主として、彼女を幸せにする責任がある。


 それに俺はずっと前から、ベルを幸せにすると決めているのだから。


「言っただろう? お前も、ジゼルも、全員まとめて幸せにするって」


 今の俺、もしかしたらめちゃくちゃ格好いいかもしれないな。

 もちろん、見た目以外は、だけど。


「ありがとうございますわ、コルベット様……!」


 潤んだ瞳でベルが俺を見つめる。

 やっぱりベルには、悲しい顔なんて似合わない。ずっと、こうして嬉しそうな顔をしていてほしい。


「学校を作ったら、離婚しよう」

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