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第40話 販売開始!

「よし、全員揃ったな!」


 別々の部屋に泊まっていた俺たちは、宿の前で集合した。

 たっぷり眠れた奴も緊張で眠れなかった奴もいるだろうが、集まったみんなの顔は晴れやかである。


 ちなみに、俺はぐっすり寝ることができた。ルイが用意してくれたホットミルクのおかげで。


「ええ。シミュレーションはばっちりよ。昨日寝る前に、何度もジゼルと練習したもの。ねえ?」

「はい。何度やっても、つい、ベル様からは買い過ぎてしまいました」


 それ、ただ単にいちゃついただけだろ!


 いや、まあ、シミュレーションしてくれただけいいか。


 王都にきて、思う存分いちゃつき始めた彼女たちを見て、俺は呆れと同時に喜びも覚えている。

 だってきっと、これが本来の姿だろうから。


 でも今は、好きな相手と両想いになったとしても、大っぴらにいちゃつくこともできない。

 なぜなら、女は男に嫁いで生きるのが当たり前の世界だから。


 やっぱりそんなのは間違っている。愛し合う美少女たちが幸せに生きる世界こそが絶対に正しいはずだ。


「お、馬車がきたぞ」


 ここから広場まではかなり近いが、大量のジャムを運ぶため、徒歩で行くのは厳しい。

 そこで、馬車を手配しておいたのである。


 まあ、本格的のこの商売を続けるってなったら、こんな金がかかることしてられないけどな。


「乗ってくれ」


 はーい、とみんなが明るく返事をする。

 ジャムを全て馬車内に運んだ後、俺も馬車の中に腰を下ろした。


 今日、女性陣の格好はバラバラだ。ベルは華やかなワンピースで、ジゼルはいつも通りの仕事着。アグネスは地味だが上品な私服で、スザンヌは動きやすそうな丈の短いワンピース。

 そして、ルイは俺が以前可愛いと褒めた、萌黄色のワンピース。


 全員でおそろいの服を用意しようかとも思ったのだが、やめた。

 なぜなら、ばらばらの属性の女性たちがこの取り組みに賛成していることを示したかったからだ。


 ベルのような伯爵夫人も、ジゼルのような使用人も、アグネスやスザンヌのような村娘も。

 いろんな女性たちが力を合わせ、教育の機会を作ろうとしている。

 そうアピールしたかったのである。


 まあ、そういう意図が、どれだけ客に伝わるかは分かんないけどな。





 早朝の広場にはまだ客は入れない。

 広場にいるのは、俺たちと同じように出店準備をしている者たちだけだ。


 それでも、かなりの数だけどな。


 屋台で調理もするところは、かなり忙しそうに支度をしている。

 俺たちのように販売だけを行う店も、客が手にとりやすいように商品を並べたり、いろいろと準備中だ。


「計画通り、基本的に俺は奥にいる。在庫管理が主な仕事だ」


 まず、屋台の裏に大量のジャムを運び込む。

 販売期間が3日間あるため、全てのジャムを持ってきたわけではない。しかし、それでもかなりの量だ。


「あんまり顔を出すつもりはないが、もしなにかあったら呼んでくれ。責任者は俺だからな」


 女性の社会進出のため、と言っている以上、男である俺がでしゃばり過ぎるのはよくないだろう。

 それに、俺より美少女たちから買いたい、という客が多数派のはずだ。


 でも、トラブルが起きた場合は別である。責任者として、俺が対処するつもりだ。


「ありがとうございます。私がレジを担当ですよね」


 アグネスの言葉に、ああ、と頷く。

 金の管理は重要な仕事だし、とっさにおつりを計算する必要がある。

 そのため、レジに最も向いているのはアグネスだ。


「で、わたくしたちが接客担当ね!」


 ベルが胸を張り、その後ろでジゼルとスザンヌ、ルイが頷く。


「ああ。で、もし時間があれば、適宜呼び込みにも行ってほしい」

「分かりましたわ!」

「じゃあ、役割分担も確認したことだし、設営するか」

「ええ!」


 正直、俺は今めちゃくちゃ緊張している。

 だからこそたくさん身体を動かしていたい。


 どうか、ちゃんと客がきますように。





 広間中に響き渡る、大きな鐘の音。

 これが、市場の開始時間を知らせる合図である。


 人気な品を買うために広場の前で待機していた人たちが、勢いよく広場に入ってくる。

 そしてその勢いに負けないほどの大声で、販売者たちも声を上げる。


「美味しいジャム、美味しい葡萄ジャムはいかがですかー!」


 とにかく大声を出しているのはスザンヌだ。

 彼女の声が目立つのか、客の視線が集まる。するとすぐ、美少女ばかりの屋台は注目を浴び始めた。


 よし、掴みは上々だぞ……!


 身をかがめてガッツポーズする。俺みたいな男がいるせいで、購買意欲を削いでしまうのはもったいないからだ。


「わたくしたちの地元で作られた、美味しいジャムですわ!」


 スザンヌに負けじとベルが声を上げる。ジゼルはあまり大声を出すのが得意ではないのか、葡萄ジャムです、といつもの声量で言っているだけだ。


「パンに塗ってもよし、そのまま食べてもよし! 料理のちょっとした隠し味にも使えます!」


 そう宣伝してくれたのはルイだ。


 みんなの宣伝の甲斐があって、一人のお客さんが屋台に近づいてきてくれた。

 しかし、商品横に置かれた値札を見て顔をしかめる。


「……これ、少し高くないか?」


 きた。

 当然、この質問は想定済みだ。というか、早い段階で聞いてくれてよかった。


「そのことについて、きちんとご説明しますわ」


 質問主だけでなく、近くにいる人全員に聞こえるよう、ベルが声を張り上げた。


「この商品の価格には、女子教育に対する支援が含まれているのです」

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