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第4話 花嫁との初対面

「コルベット様、奥方様が到着しました」


 部屋の扉をそっと開けて教えてくれたのはミカエルだ。

 デュボア家の使用人たちをとりまとめる執事で、代々デュボア家に仕えてくれている。

 年齢は五十歳で、俺のことも小さい時から知っているらしい。


「ありがとう。すぐに行く」


 冷静を装えず、声が震えてしまった。そんな俺を見て、ミカエルは優しく微笑む。


「奥方様は、玄関でお待ちです」

「……分かった」


 一度だけ深呼吸をして、部屋を出る。廊下の窓から外を見ると、屋敷の前に一台の馬車がとまっていた。


 毎日肖像画は眺めていたが、ベルと会うのは今日が初めてだ。


「……てか、同年代の女子と話すのも、久々すぎる」


 自慢でも何でもないが、俺は幼稚園時代からとにかくモテなかった。

 体育祭のフォークダンスでは手を繋ぎたくないと女子に文句を言われてきたし、隣の席になった女子に泣かれたこともある。


 だから俺は、女子が喜ぶ話や行動なんて分からない。この一ヶ月、いろいろと考えてはみたけれど、自信なんて全くないのだ。


「でも、絶対、ベルの方が不安だよな」


 住み慣れた実家を離れ、見ず知らずの男の元へ嫁ぐ。

 十八歳の少女にとって、どれだけ恐ろしいことか。


「よし!」


 強引に笑顔を作り、何度も頷く。せめて笑顔で出迎えて、少しでも彼女を安心させてやりたい。





「初めまして、コルベット様!」


 目が合うよりも先に、ベルの可愛い声が玄関に響いた。

 深夜アニメのヒロインみたいな甘い声をしている。


「は、初めまして」


 緊張して声が震えてしまった。しかしベルはそんな俺を見ても笑わず、眩しい笑顔を浮かべている。


 ……いや、俺の嫁、可愛すぎないか?


 肖像画の姿と、何一つ変わらない。いや、むしろ、現実の方が可愛いくらいだ。

 しかも顔が可愛いだけじゃなくて、小柄で華奢なところも魅力的だ。


「ベル・フォン・ルグランと申しますわ」


 薄桃色のドレスをつまみ、ベルは優雅に一礼した。ふわり、と長い髪が揺れて、甘い香りがする。

 髪と同じ色のドレスは、綺麗だがおそらくそこまで高価な物ではない。たぶん、母さんが普段着にしているドレスの方がずっと高値だろう。


「これから、よろしくお願いいたします」

「こ、こちらこそ。その、コルベット・フォン・デュボアと申します」


 ぎこちない俺の挨拶にも、ベルは笑顔で応じてくれる。


 俺の姿を見ても、嫌な顔一つしなかったな……。


「コルベット様に紹介したい子がいますの。いいかしら?」

「……紹介したい子?」

「ええ。わたくしと一緒に、今日からここでお世話になる侍女のジゼルですわ。小さい時から、ずっと一緒ですの」


 そういえば、彼女は一人だけ侍女を連れてくると言っていた。


「ああ、ぜひ」


 きっと、その侍女が一緒にきてくれたことが、ベルにとっての心の支えなのだろう。


 可愛いだけじゃなくて、使用人も大切にするいい子なんだな。


「ジゼル」


 ベルは振り向いて、玄関の外に顔を出した。どうやら侍女は外で待機していたらしい。


「失礼します」


 聞こえてきたのは、凛とした声だった。少々驚いていると、背の高い女性が玄関に入ってくる。

 見上げなければならないほど背が高い。そして、想像していた侍女とはまるで違う姿だった。


「ベル様の侍女の、ジゼルと申します」


 短く切った黒髪に、紫色の瞳。着ているのもメイド服の類ではなく、真っ黒のスーツだ。そしてそれが、彼女にはよく似合っている。

 そして左目の下にある泣きボクロが、何とも言えない色気を醸し出している。


「は、初めまして……」


 思わず、俺は圧倒されてしまった。

 そんな俺に対し、ジゼルはにこりともせず頭を下げる。


 美人の無表情って、かなり怖いんだな……。


「コルベット様、今日はわたくしのためにパーティーの用意をしてくれたのでしょう?」

「えっ、あ、ああ、うん」

「わたくし、すごく楽しみにしていましたの。それに、もうお腹もぺこぺこですわ。……こんなことを言って、品がなかったかしら?」


 どうしましょう、なんて言いながら、ベルは両手で頬を挟んだ。


 可愛い。可愛すぎる。

 こんな見た目で食い意地が張っているなんて、最高以外の何物でもない。


「さっそくパーティーを始めようか。もう、準備はできているから」

「まあ! 嬉しいですわ!」


 ベルが満面の笑みを浮かべて飛び跳ねる。無邪気なその姿に、心が温かくなった。


 よかった。きっと、彼女はいい子だ。

 この子となら、いい夫婦になれるに違いない。

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