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第39話 広場見学

「ここが王都……!」


 馬車を下りた全員が、うっとりとした目で周囲を見回している。

 周りを見れば、人、人、人。

 とにかく人が多い。


 道には様々な店が並んでいて、少し先にある広場には露店がある。どこも賑わっていて、明るい声で満ちている。


 すごいエネルギーだな。


 穏やかな領地に比べ、ここは活気がすごい。

 やはり、人が集まる場所には特別な力が宿るのかもしれない。


 修学旅行で東京へ行った時も、似たようなことを考えたっけ。


 俺は東京の大学に通っていたが、出身は九州の田舎だ。元々、都会には慣れていなかった。


 って、まずいまずい。

 俺が王都に見惚れてどうする。


 領主として、みんなを率いる立場だというのに。


「まず、そこにある宿にいらない荷物をおく。それが終わったら、広場に行くぞ」


 広場にある露店は、毎日同じ店というわけじゃない。

 役所に申請書を出して一定額を払えば、誰でも自由に店を出すことができるのだ。

 もちろん俺も、事前に申請してある。


 販売期間は明日からの3日間だ。


「市場の雰囲気を観察して、明日からの販売にいかすぞ」


 おー! と全員が声をそろえた。

 日頃はこんなことをしそうにないアグネスですら、だ。


 やっぱり、みんなテンションが上がってるな。


「持ってきたジャム全部売るつもりで頑張ります!」


 スザンヌが言うと、全員が力強く頷いた。頼もしい限りだ。


「ああ。次の販売はいつだ、って客に言わせないとな」



 上手くいく、という確信があるわけじゃない。

 しかし、ある程度の自信はある。だって、俺にはこんなにもたくさんの美少女がついているのだから。





 荷物をおいて広場に移動すると、人の多さにまた驚かされた。

 遠目からでも賑わっているのは分かったが、かなりの密度だ。


「ジゼル、はぐれないように手を繋ぐ必要がありそうだわ」


「アグネス、はぐれないように手繋ごうよ!」


 積極的な女子たちが、それぞれ意中の相手の手をとる。

 まるで夏祭りみたいだ。いや、女の子と夏祭りに行ったことなんてないから、分かんないんだけど。


 ちら、とルイへ視線を向けると、ルイはくすっと笑った。


「僕、人混みが怖いんです。よかったら、手を繋いでくれませんか?」


 人混みが怖いなんていうのは、100%嘘だ。恋愛初心者の俺にも、それくらいのことは分かる。

 でも、嘘を嘘だと指摘しなきゃいけない、なんて義務はない。


「……ああ。それは大変だな」


 そう言って、俺はルイの手を握った。

 小さくて華奢な手だ。とても、俺と同じ男の手だとは思えない。


 でも、ルイはこれから、どんどん成長していくんだよな。


 ルイはまだ、少年、と呼ばれるような年齢だ。

 これから身長は伸びるだろうし、体格だって立派になっていくかもしれない。

 いつまでも、男の娘でいるとは限らない。


 ルイと恋愛的な意味で向き合うってことは、そういうこともちゃんと受け入れるってことだ。


 背が伸びて、もし筋骨隆々になったとしても、俺はちゃんとルイを可愛いと思えるのか?


「コルベット様、見てください。美味しそうなケーキが売っていますよ」


 ルイは俺の手を軽く引いて、反対側の手で近くにある屋台を指差した。

 どうやら、カップケーキの店らしい。


 胡桃とチョコレートがのせられたカップケーキは小ぶりで、歩きながら食べるのに向いている。


「食うか?」

「いいんですか?」

「ああ」


 みんなもいるか? と聞こうとして後ろを振り返り、俺は思わず溜息を吐いた。

 誰も、俺たちのことなんて見ていなかったのである。


 ちゃんと視察って分かってるのか? 全員、デートを楽しんでいるようにしか見えないんだが。

 でもまあ、楽しんでいるなら、それでいいか。


「俺たちだけで食うか」

「はい!」


 屋台の主人に声をかけ、カップケーキを2個注文する。

 髭面の店主はかなり愛想がよかった。


「デート、楽しんでくださいね」


 そう言いながらカップケーキを手渡される。


 デート……に見えてるのか、俺たちは。

 まあ、傍から見れば、ルイは完全な美少女だもんな。

 俺の方がつり合わない、って思われてる可能性は高いけど。


「僕たち、デートに見えるんですね」


 俺からカップケーキを受け取ると、ルイは嬉しそうに笑った。

 その笑顔が可愛くて、やっぱり胸が高鳴る。


 男だから……なんて頭じゃいろいろ考えるけど、結局、心はルイにときめくんだよな。


 この世界で出会って、唯一俺を好きになってくれたのがルイだ。

 そしてきっと、俺のことを一番必要としてくれている。


「見てください、コルベット様。やはりどこの屋台も、店主の愛想がいいですね」

「ああ、そうみたいだな」

「こうした場では、どうやらお客さんとのコミュニケーションも大切みたいですね」


 しかも真面目だ。

 正直、文句のつけどころがない。


 ……俺が絆されるのも、時間の問題かも。

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