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第32話 やるべきこと

 ベッドに寝転がり、ぼんやりと天井を見上げる。

 今日一日でいろいろなことがありすぎて、何から考えるべきなのかも分からない。


 ルイは実は男で、ルイの元主人がきて、ルイは男だけどやっぱり俺が好きで。

 スザンヌはどうやら俺ではなく、アグネスに想いを寄せているようで。


「……結局俺って、やっぱり死ぬほど女にモテないんだな」


 はあ、と溜息を吐く。でも不思議なことに、どこか清々しい気さえする。

 確かに、女にモテないという事実は悲しい。しかし、前世のように、みんなが俺に関心を示してくれないわけじゃない。


 普通の夫婦関係とは違うけれど、ベルとはちゃんと信頼関係を築けていると思う。ジゼルとだってそうだ。

 アグネスには、尊敬しているとまで言ってもらえた。


 ちゃんとここに、俺の居場所はある。


「それにルイも、やっぱり、めちゃくちゃ可愛いし」


 ルイは女の子ではなく男の娘だったわけだが、それにしたって、ルイが可愛いという事実は変わらない。

 そんな子に、俺は好きだと言われたのだ。


「まあ、とりあえず、俺がやるべきことは変わらないよな」


 女学校の設立を目指す。教育制度を整え、領民が幸せに生きられるようにする。

 それが領主としての役目で、俺がやると決めたことだ。


「まあ、こういう風にやってれば、いずれは俺のことを好きだ、なんて女も出てくるかもしれないしな」


 この世界の女が、そろいもそろって女のことを好き、というわけではないはずだ。

 俺にだって、ちゃんと希望はあるはず。


「よし!」


 今日はもう寝て、明日からは目標へ向かって頑張ろう。

 俺には、やるべきことが大量にあるのだから。





「おはようございます、コルベット様」


 俺の一日は、ルイの笑顔で幕を開けた。

 重い瞼を開くと、相変わらず可愛い女の子の服を着たルイが立っている。


「おはよう、ルイ。あー、えっと、もう、そんな格好しなくてもいいんだぞ」

「どうしてですか?」

「いや、お前が男だってことはもう分かったわけだし」


 俺が言うと、ルイは長々と溜息を吐いた。

 なにかまずいことを言ってしまったかと、全身がかたくなってしまう。


「コルベット様は、全然分かってないんですから」


 ルイは頬を膨らませた。やっぱり可愛いし、なにより、守ってあげないと! という気分にさせられてしまう。


「本音で話をすると契約したので、本音で話しますけど」

「お、おお」

「僕は、コルベット様が好きなんです。だからこれからは、コルベット様にも、僕を好きになってもらうための努力をしますから」


 ルイは胸を張って宣言した。

 堂々としたその姿は、格好良くすらある。


「覚悟しておいてください、コルベット様」


 ルイは華麗なウインクを披露し、俺がかぶっていた布団を奪った。

 流れでカーテンを開け、もう朝ですよ、と大声で言って笑う。


 その表情は、今までのルイよりもずっと、いきいきとして見えた。


「……だな。起きるか」


 あくびをしながら、ゆっくりと身体を起こす。

 そんな俺を見て、ルイは目を細めた。その優しい眼差しに、鼓動が速くなる。

 だってルイの目は、恋愛経験ゼロの俺でも分かるくらい、明白に俺が好きだと語っていたから。


「朝ご飯の用意、終わってますから。着替えてきてくださいね。それとも着替え、僕が手伝いましょうか」

「い、いや、それはいい」


 俺が答えると、ルイは笑って部屋を出て行った。

 少し安心しつつ、着替えを始める。


 正直、俺は男の娘だって嫌いじゃない。アニメや漫画、ラノベで好きな男の娘キャラだっている。

 でも、実際に男の娘とどうこうなんて、考えたこともなかった。


 まあ、とりあえずは、特に返事を求められたわけでもないしな。


 いざって時がきたら、また、その時に考えればいいのかもしれない。





「おはようございます、コルベット様」


 俺が広間に行くと、既にベルと母さんは座っていた。


「ああ、おはよう」

「ルイは、ジゼルにここでの仕事を習うと言っていましたわ」

「そうなのか」

「ええ。ずっとここにいるのだから、と」


 ベルは嬉しそうな顔を浮かべている。母さんを見ると、母さんもにこにこと笑っていた。


「あんなに働き者の子、滅多にいないわ」


 母さんの褒め言葉に、なぜか俺が嬉しくなってしまう。


「……ジゼルだって、働き者だけど」


 ぼそっと、ベルが俺にしか聞こえない声で呟いた。


 こんな時に張り合ってくるのはやめてくれ。


「そうですわよね。ジゼルも熱心な子だと言っていましたもの」


 その言葉には少しだけ、責めるような色が入っていた気がする。

 ルイがジゼルと仲良くなってしまうのではないかと心配しているのかもしれない。


「とりあえず、食べるか」


 俺の言葉に、ベルも母さんも頷いた。

 食べなければ、今日一日を乗り切れない。

 今日もまた、忙しい一日が始まるのだ。

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