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第30話 大切なこと

 ルイが男だった、という事実があまりにも衝撃的過ぎて、何を言えばいいのか分からない。

 ルイも黙り込んで俯いてしまった。


「コルベット様」


 ベルが近寄ってきて、俺の腕をそっと引っ張った。


「その、どうしたらいいかしら? とりあえず、コルベット様にお伝えするからと、門の前で待たせているの」

「え? あ、ああ……」


 そうだ。今はとりあえず、何をすべきかを考えなければいけない。

 ルイの元主人……ルイを襲おうとした奴が、ルイを探してこの屋敷までやってきているのだ。


「俺が話をしよう。ベルは、ここでルイと一緒にいてやってくれ。会いたくないだろうからな」


 俺の言葉に、ベルは安心したような顔で頷いた。


「あ、あの、コルベット様……」


 俺が歩き出すと、背後から小さい声で呼びとめられた。ルイである。

 振り向くと、ルイは泣きそうな顔で俺をじっと見つめている。


「あの、僕、ずっと、ずっとコルベット様を騙していて……」


 ルイの瞳から涙が溢れ出した。

 ルイの泣き顔を見ていると、心臓がきゅっと締めつけられる。

ルイが男だろうと女だろうと、俺は、ルイの泣き顔なんて見たくないんだ。


「大丈夫だから。とりあえず、ここで待ってろ」


 正直、もっと早く言ってほしかった、という気持ちはある。

 でも、ルイが俺に悪意があって、男であることを黙っていたわけじゃないことは分かる。


「ベル、ルイをよろしくな」


 ルイに聞きたいことも、言いたいこともある。

 でもまず俺がすべきなのは、ルイの元主人をここから追い返すことだ。





 ベルが言った通り、屋敷の前に一台の馬車が止まっていた。

 そして、馬車のすぐ近くに、一人の男が立っている。


「おお、貴方がデュボア伯爵様ですか」


 俺と目が合うと、男はそう言って頭を下げた。


「ああ」


 男……ジェームズの年齢は40歳前後といったところだろうか。かなり立派な体格で、日に焼けていることもあってやけに威圧感がある。

 わりと整った顔立ちをしているが、胡散臭い目をしている……と思うのは、俺が彼に悪意を持っているからかもしれない。


 やたらと派手な服を着ていて、首や腕には豪華な飾りをつけている。

 どうやら、かなり裕福な商人らしい。


「私、ジェームズと申します。今日は私の使用人が、こちらへきているという話を聞いてやってまいりました」

「……らしいな」

「ルイ、という少年です。いやあ、申し訳ありません。少し厳しく注意したところ、怖がって逃げてしまいまして。使用人の教育は難しいですね」


 じわじわと、ジェームズが一歩ずつ距離を詰めてくる。

 値踏みするような視線がめちゃくちゃ不愉快だ。


「いるんでしょう? ここに」


 ジェームズは、ルイがここにいることを確信しているようだ。


「ああ。ルイはここにいる。俺の聞いた話だと、厳しく注意されたどころじゃなかったらしいけどな」


 精一杯の目力で、ジェームズを思いきり睨みつける。

 しかしジェームズには、たいした効果はない。


「なんと。まあ、所詮、使用人の言うことですよ。自分に都合のいいことを言っているだけです」

「……お前の言葉が真実だと証明できるのか?」


 俺がそう言うと、ジェームズは呆れたように溜息を吐いた。


「よほど、ルイが気に入ったようですな。もしかして、もう試されましたか?」

「は?」

「伯爵様は新婚だと聞いていましたが、まさか、少年を楽しむ余裕がおありとは。さすがにこの話が広まれば、伯爵様も奥様も困るのでは?」


 もしかしてこいつ、俺がルイと身体の関係を持っていて、だから俺がルイを庇っていると思ってるのか?

 その上で、俺を脅してるのか?


 確かにジェームズの言う通り、新婚の俺が美少年を寵愛している、という噂が出回るのはまずい。

 領民たちからの信頼を失うかもしれないし、社交界での評判だって落ちるだろう。


「私は使用人に厳しくしてしまい、その結果使用人が逃げた。お優しい伯爵様は一時使用人を保護し、反省した私に彼を返した。……それでいいでしょう?」


 ジェームズが口の端を上げて笑った。

 おとなしくルイを返さなければ妙な噂を流すぞ、と俺を脅しているのだ。


 俺は今後、女学校設立へ向けて動く予定だ。そのためには、領民の賛成も必要になってくる。

 そんな状況で、悪い噂を流されたくはない。


 でも、だからといって、分かりましたとルイを返せるはずはないのだ。


 ルイをこいつに返せば、ルイはどうなる?

 今度こそ、ルイはこいつにいいようにされてしまうだろう。


 そんなの、絶対に許せない。


「ルイは返さない」


 俺が断言すると、ジェームズは驚いたように目を見開いた。

 俺が、脅しに屈するような男に見えたのだろうか。


 俺は、ルイを守ると決めた。

 その気持ちは、一度だって揺らいでいない。

 ルイが男だろうと、女だろうと、関係ない。


 大切なのは、俺にとって、ルイが心底大事だってことだ。

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