第十三話 バンドマンは異世界で生きる
「ケースケ!こっちの搬入を手伝ってくれー!」
「ちょっと待ってください!控室狭いんで!これ先に行った方が良いんで!」
「分かったー!待ってるぞー!」
「はいはーい!」
ケースケは今日も演奏会の準備に忙しい。
「照明のタイミングはとりあえずこれに目を通しといてもらったら、また後で確認来ますね。リハの時間は大丈夫すか?」
「今回はこんな曲順か、楽しみだ。時間はこのスケジュール通りで変わりないな」
あちこちへ走り回るケースケの胸には金色のバッジが輝いていた。
「お、それが功労者へ贈られた品か」
会場を運営するオーナーがケースケを呼び止めた。
「いやあ、何か色々説明しなくて良くなるから付けとけってアルフさんに言われたんすけど、皆これ見て話し掛けてくるんすよ。どうにかならないんすか」
オーナーはハッハッハと声を出して笑った。
「それは難しい話だ。一般人からしたら、その辺を勇者が歩いているようなものだからな」
「言い過ぎっすよ。俺、ただのスタッフっすからね」
「いいや、君は素晴らしいバンドマンだと噂になっているよ」
「は!?バンドマン!?」
バンドというもの自体の存在も無いようなこの世界で、とケースケは訳が分らないでいると、オーナーはそんなことも知らないのかといった風に説明した。
「魔王の友人になれる才能を持つ者のことだと、アルフ殿が著書にしっかり書いていたぞ」
そう言えば、アルフが魔王とのやり取りを本にして出版するとか言っていたなあと思い出しながら、ケースケは苦笑いをした。
「ケースケ、物販オープンしても?」
ケースケの横に気付けば魔王がいた。
「そっすね。時間来たんでオープンしていいっすよ。あ、魔王君ツアーシャツ似合ってる」
ケースケは魔王にぐっと親指を立てた。すると魔王もケースケに向かってぐっと親指を立てる。
二人で笑い合いながら、物販に向かう。その後ろをオーナーが見守っていると、遅れて会場に来たアルフがオーナーへの挨拶に来た。
「アルフ殿、本当にあのケースケというバンドマンは素晴らしい人格者だと思う」
「ええ、私もそう思います。ケースケからしてみればここは異世界ですが、彼はここでもちゃんと、バンドマンとして生きて行けるでしょう」
金色のバッジには、魔王との交渉でどのような立場だったのかが記されている。ケースケのバッジにはちゃんと、バンドマンと記されている。
ケースケにとってバンドマンというのは辛い過去かもしれないし、輝く未来だったかもしれない。きっとそれに対して様々な思いがあるだろう。その思いがあってケースケの魅力があると、アルフは考えている。
だから、ケースケにはこれからもバンドマンという肩書きを忘れないでいて欲しかった。これからもバンドマンのケースケは異世界で生きていく。