第十二話 バンドマン、ツアーを完走し打ち上げをする
魔王はアルフや国の偉い人達と長い会議をした。
ケースケも同席していたが、内容が頭に入らず途中から寝てしまった。
「ケースケの功績だ。魔王との戦いに一先ずの区切りがついた」
アルフが感慨深そうに言っているが、ケースケは寝ていたとも口に出来ず、苦笑いをした。
「何かいい感じになって良かったっす」
ケースケにはその事よりもまず考えなくてはならない事があった。
「打ち上げ、どこでします?」
アルフは時が止まったように固まっている。
「ツアー完走したら、打ち上げしないと。魔王とのごちゃごちゃも無くなったなら、遠慮なくできそうじゃないっすか?」
まず打ち上げの説明が必要だった。ツアーを終了したら関係者で飲み会を開くこと。参加者は費用を負担しないことを伝えた。
「王宮のお金で飲み会……頭が痛くなってきた」
最近は開催されていない王宮の職員達の親睦会の予算をどうのと、アルフは何とか費用を捻出した。
「素晴らしい演奏会でした」
ツアー終了時、会場で魔王が観客を代表して指揮者に花束を渡した。とても満足そうだ。
そして、ケースケが気合を入れて準備した打ち上げが始まる。
「ほら、ここはケースケがすべきだ」
音楽家達から背中を押され、打ち上げ開始の挨拶をすることになったケースケ。事前に、乾杯する話はしていたため、乾杯の音頭を取っても静まり返ることは無いだろう。
ケースケはビールのような酒を手に、短く呼吸を整えた。皆がケースケを注目している。ケースケは顔を上げ、思いっきり叫んだ。
「みんな!!!ここまで来てくれて本当に本当にありかとう!!!かんぱーい!!!」
酒を掲げると、それぞれがやや恥ずかしそうに、だがケースケに釣られて乾杯、と声を出してくれている。
「本当に、本当にありがとう!!まじで!!」
ケースケはぽろぽろと涙を流し、その肩を皆が励ますように叩いてくれた。
「素晴らしい挨拶でしたね。演奏会終了後も来て良かったです。まるで素晴らしい物語のようでした」
「何で魔王がいるんだよ……」
一応、そう言ったがどうでもいいな、とケースケは思った。今日は別に気にしなくても良い日なんじゃないかな、と。それは言葉にはできないけどすごく大切なことであるような気がした。