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第十一話 バンドマンは魔王とおしゃべりする

「それで、ケースケはどうしてこの世界にいるんですか?」


 魔王の興味はケースケにある。まずはケースケと話をしてもらうしかない。アルフは近くで空家を探し、ケースケと魔王が話す場を設けた。

 空家のリビングにテーブルと椅子を置き、王宮のシェフが腕によりをかけ様々な料理を並べた。

 リビングのすぐ外や、家の外にも多くの騎士が来ているらしい。

 ケースケは豪華な料理の味が緊張で分からない中、魔王の質問に答える。


「勇者がこの世界に来る時に近くにいたっぽくて、巻き込まれたかんじっす」


 魔王は首を傾げている。


「それはおかしな話だ。私を倒す、もしくは無効化できる者という条件下で他の者が巻き込まれるだなんて考えられない。ケースケは騙されているよ」

「え?まじっすか。でも俺何も出来ないっすよ?勇者に着いてくとか無理無理」


 魔王はこれは好みではない、と言って皿に盛り付けられた魚をフォークで刺すと、テーブルの外へ投げた。魚は宙でジュッと音を立てて燃え、塵が床にぱらりと落ちた。

 ケースケはなんてやつと二人きりにされているんだと、胃に入れた料理が逆流する気がしている。


「ところでこの演奏会ツアーは最後までちゃんとしてくれるんですか?私は全ての会場で観るつもりなんです。音楽の変化、観客の変化、気候の変化。なんと美しい催しに招待してくれたのだと感謝しているんですよ」


 ツアーを一緒にツアーするタイプのファンだったらしい。


「それはもちろん。魔物さえ出なければっすけど」

「魔物は大人しくさせておきますから。それならいいでしょう?」

「てか、魔物のそういうコントロール?みたいなことできるんすね」


 魔王は何かを確かめるように右手を握ったり開いたりしている。


「世にある魔の力を統べる私でも、復活後というのは生まれたてと変わらない。特にあの剣にやられたときの敗北を思い出し怒りが込み上げ、それに影響された魔物達が大きく動き出すのだ」

「魔王って、俺の印象すけど世界征服とか目指してんすか?」

「そんな下らないことは考えない。人間ではありませんからね。雨の日や晴れの日があるように私も存在している。人間は私を排除することで天候を支配した気になっているのだろう」


 魔王の話についていけないケースケは黙ったが、本来の目的を思い出した。


「じゃあ人も手を出さないんで魔王も魔物を大人しくしといてって言ったらやってくれたり……」

「出来るが人間がそうはさせたくないのだろう」

「多分すけどそんなことないっすよ。魔王の所には行かないって決めたらいいんすよね」

「まあ、それはそうだが、だからと言って自由が無いのは困る」

「その辺は偉い人と話してほしいすね」


 二人は沈黙した。


「ケースケ、私は演奏会を楽しみにしている。魔物の心配は要らないから最後までやり遂げるように」

「あ、はい。じゃ、この辺で……」

「まだ全然食べていないでしょう」


 食欲は無いが、魔王にそう言われると席を立てない。椅子から離した腰を下ろす。


「それで、話を戻しますがケースケは勇者ではない。しかし、私を倒せるかこの力を無効化させる何かを秘めている。そう思わないか」

「そうなんすか?」

「お前頭悪いな」

「いきなり口悪くなった」


 魔王はハッハッハと声を上げて笑い出した。魔王っぽさが出ている。


「そうか、まあそうだな。人間共の魔術とやらは実に非効率だが精密に出来ている。ケースケでも分かるように言うと、そうだな」


 魔王はテーブルに置いている皿を指差した。


「そこにある果物を、私の手元にある皿に移すとしよう。私ならこうする」


 魔王は果物が入った皿を持ち上げると、そのまま傾けて中身を移した。


「そして、人間共のする魔術だと、こうだ」


 魔王は果物をスプーンに乗せて移した。


「分かるか?果物を移動させる。ただそれだけのことを、人間は道具を使って一つずつ選んで取り出しているのだ。私ならこの入れ物ごと、もしくは目的の物を中心に手で掴んで運ぶ」

「人間の方が行儀がいい」

「……そうだな。そう、それでいい。その行儀の為に、道具を使ったりしなければならない」


 魔王と再び沈黙した。


「ケースケと話していると本題を忘れかけるな。つまり、ケースケがここに来たという事には何か理由があるはずだ。私のように入れ物ごと移したのであれば、これだけでなく他の物も来ておかしくないが、人間はこの棒を使って、選定しているのだ」


 魔王の握りしめたスプーンが砕けた。


「……でも俺何もできないっすよ」

「それが恐ろしさでもある。だから私は勇者の剣と同じ様に、ケースケも脅威であるから目が離せない」

「そんな見なくても」


 だから、と魔王は何か言おうとしたが黙った。


「賢さが違いすぎると同じ言語でも話が通じぬことがある……」

「偏差値っすね」

「なんだそれは」

「ごめん、何となくしか分からないけど、どれだけ勉強できるかの点数みないなやつで、偏差値が20違ったら会話が成り立たないってよく言われるやつ」

「そういうことだな」

「偉い人呼んでいいっすか」

「そうしてもらおう」


 魔王はケースケとの対話を諦めた。

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