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あべのハルカス襲撃テロ


主演:阿部カヲル

編集:真田 哲

監督:田中 ヱイト


総監督:鷺沢 歩


O Freunde, nicht diese Töne

Sondern laßt uns angenehmere

anstimmen und freudenvollere.


 7時頃の事だった。

最初に異変に気が付いたのは、朝練途中のサッカー部員達だった。

 屋上に人影が見える――1人がそう叫ぶと、次々と周囲に困惑が広がってゆく。次第に声が大きくなるにつれて、同じグラウンドで練習をしていた野球部員も練習の手を止め、様子を伺う。

 人影はこちらに気を留める訳もなく、麻袋をかぶると、両手を左右に伸ばし十字を象る。すると、そのままゆっくりと体を倒した。

ゆっくり、ゆっくり、体が前傾していき……周囲は、それが飛び降り自殺だという事を理解する頃には――もう遅かった。


 瞬間、頭から突っ込むようにして、屋上から飛び降りた。


 あっという間の出来事だった。皆、唐突の出来事に悲鳴すら上げることなく、ただその光景を脳の処理が追い付かないまま眺めるだけで、皆総じてただその死んだ彼の姿を見るだけしかできなかった。


 確か、その日からだった。

 世界が混乱し始めたのは



 バタバタバタと、ヘリが音を立てて空から中継するリポートの声。

 画面には大きくビルから立つ煙が映され、一目見ただけでも、何が起きているのかが理解できた。


《――皆さん見えているでしょうか!黒煙がッ黒煙が立ち昇っています!!煙で何も、何見えません!――えーはい、煙でもう何も見えない状況です!!》


 テレビから放たれるのは、男性の必死な声だった。


 約30分前、突如あべのハルカスの中部が爆発した。

 中部、しかし分厚い黒煙がビル全体を包み、詳細な情報が全く分からないでいる。


《大変な――大変に悲惨な状況です……近くにいる方は速やかに避難してください!!ああっ瓦礫が!瓦礫が落っこって行きます!!》


 見ると、黒く燃えた何かが黒煙から飛び出してきた。それは地上約200メートル上空から放物線を描いて地上へと落下していき、続いて何体かが後に続いた。瞬間、スタジオに居たアナウンサーなどが悲鳴を上げ、続いて周囲からはどよめきの声が続いた。


『安田さんっちょっと安田さん――聞こえてますか!人が!人が!!』


《――はい!は……人?人が何ですか!?》


『ちょっとあれは人なんじゃないか!?何が、一体何が起きてんの!!説明し――』


《爆発が!爆発の黒煙で何も見えない状況です!!ちょっとこちらでは何が起きているのか詳しいことはですね、何も分からない状況で――》


『一旦カメラ止めろよ!!なんで放送してるんだ!!』

「――」

『おい、お前止めろって――』


 なにやら、裏側で声が聞こえる。多分、番組プロデューサーのものだろう。遠くの方でなにやら揉めているようだった。しかし瞬間、大きな発砲音が聞こえ、同時に、女性アナウンサーの悲鳴が響き渡る――


『――ボス、次どうします?』

「そのまま進めろ。テレビ局はもうジャック済みだ警察が来るまでまだ数分もある。全員殺したろ?」

『はい、じゃあその通りに――』


 トランシーバーから放たれる質の悪いステレオ。

 聞き取りずらいと言ったらありゃしない。

 そう思っていた最中、早々にカメラインするのは、スーツを着た高身長の男だった。映しだされるその後ろ姿からは、気品高く、紳士で、教養のある香りを感じさせ、そこの誰よりもジェントルマンだった。仮面と、銃口を向けている2点を除けばの話だが――


『声を出したら撃ちます』


 変声機を仮面に埋め込んでいるので、映画やアニメでよく見る、低くぼそぼそとした声になっている。アナウンサーたちは困惑し、その一人である若い男は手を上げようとした瞬間に、発砲音が鳴る。


『少しでも動けば撃ちます』


 瞬間、彼は自身の型に異変を感じ、自身が撃たれたという事を自覚すると痛みに叫んだ――その瞬間だった、音を聞くに5発だろうか。男はデスクへと足早に近づきながら引き金を引いた。

 床に空薬莢の落ちる音が響き渡る。

 胸に1発、肩に2発、頬に1発、デスクに1発――瞬間女性アナウンサーが悲鳴を上げた――その方向に顔を向けると、不気味に、しかし穏やかに歩み寄り、頭を屈めて小刻みに震える彼女の後頭部に銃口を突き、そのまま耳に口を近づけ囁く。

 全国放送になってるという事なので、男も張り切って役に努める。


『今すぐ静かにお願いいただけますか?』


 しかし、彼女は怯え、震え、泣きながら「いや……いや……」と口にするだけで話にならない……故に、そのまま引き金を引くと、足元に血飛沫が飛ぶ。


『汚してしまって申し訳ない』


 残った、初老の男性アナウンサーへと向き直り銃口を向け、そう呟いた。

 静止したまま、彼は男を見て瞬きで頷いた。


『ありがとう、ご配慮恐れ入ります』


 丁寧に頭を下げると同時に、上空中継のリポーターが安堵の息で叫ぶ。


《たった今救急隊が到着しました!たった今救急隊が到着し――続いて警察車両、機動隊なども続々現場へと入っていきます!!突入する模様です――あ!!今入っていきました!!》


 そう実況するリポーター。その映像を、小さなモニターを、ただ息もせず、静かに見る男に、彼は人生でこの上ない恐怖を感じながらも、ただ彼を凝視する。


『貴方、どうしたんですか……?そんな面白い顔をして。』

「――」

『まあそう焦らずに、私の言う事を聞いていれば殺しはしない、そうボスに命令されているんです』


 何とも言えない表情をする彼に、男は不気味な笑い声を上げ、カメラマンに直接指示をする。


『見てください、これが恐怖です』


 次第に男は興奮気味に笑うと、それまで使っていた言葉を忘れ、次第に漂わせていた気品ある余裕すらも失せた時だった。『やれ』とどこからともなく指示が飛び、カメラマンとその男はいとも容易く死んだ。

 それは誰でもない、ボスからの指示であった。そして、ボスの命令は誰もが聞いている、そして誰もがその受けた命令を執行できる。

 そして、今、気品を欠いた行動により、二人は処分された――


 そして、ADの恰好をした青年が出てくると、血に染まった仮面を自身の顔に被せ、その服を脱ぎ棄てる。その下にはスーツをこしらえていた。

 彼は、そのアナウンサーに向き直ると『先ほどはご無礼致しまして、申し訳ございません』と深く深く、頭を下げると共に、彼の遺体をまるで的のように何度も撃ち、その衝撃に任せて、デスクから退かすとハンカチを取り出し、彼の眼鏡を拭いた。


『折角のお召し物を同志の血で汚してしまい、申し訳ございません』


 血を綺麗に拭き取ると、元の位置へと付け直し、カメラの咆哮へと向き直る。


『レディースアンドジェントルメン……さて、ここまでショーはお楽しみいただけましたでしょうか……噴きあがる爆炎に人々を一切忖度なく、躊躇なく、慈悲無く、そして平等に巻き込む黒煙。業火の如く痛めつけ身を宙空に放り投げる人々の芸術は大変に素晴らしく、素晴らしいが故の弊害として、すぐに終わってしまうという悲愴と、虚無があります……故、皆さんにはとっておきのショーをご用意いたしました、では戦士諸君……曇り空をも厭わない、輝く夜をお過ごしください……グンナイ(良い夢を)』



19:27――


瞬間、上空の何十台もの中継カメラが捉えたのは、ビル全体を埋め尽くす大爆発だった。


 想定されるビル内の非避難者は1130名、従業員救急隊など含め1253名。

轟音と共にビルが燃え、そして下へと落ちるように倒壊を始めた――


19:31――


 火を纏った瓦礫は、まるで液体のように周囲に広がると共に、高層階に設置された爆弾により飛翔した瓦礫は雨や雹のように降り注ぎ、周囲に存在する高層マンション、駅含めあらゆる建設物が倒壊し、あべのハルカスを中心に半径1キロメートルに居た被害者は行方不明者を除くと約4500名にも上る。


19:34――


 立て続けにあらゆる車両が破壊され、飛翔物により中継ヘリコプターが破損、落下により、被害者の増加。完全倒壊により近くにいた民間人などが下敷きになり、更なる被害者の増加。

 火事により、また更なる被害者の増加。


 総じて、民間人、非民間人問わず、被害者総数は約×××名。



《………………》


 テレビから人の声は聞こえない。文字通りの絶句。

 代わりにそれ以外の音でスピーカーは混濁していた。


『さて……おやすみとは言いましたが、少し、雑音が大きすぎて、眠れない方もいらっしゃいますでしょう……なら思わずワクワクしてしまうことを伝えましょう……なんと、続編が決定いたしました……という事で、次の舞台は東京です、そしてボスの伝言は……破壊です徹底して破壊せよとのことです。有名人、政治人、業界人、金持ち、老人、屑、馬鹿、阿呆、間抜け、教養のない人間、不労所得者、ニート……全て――全ての偽善者へ……存分に、存分に殺し、そして会おう――この世の全てを作り直しましょう――では、良い夢を』


 青年は、高らかに仰いだ姿勢をもとに戻すと、出口へと歩もうとした時だった。


「お……おい!!」


 振り向くと、一人取り残されたアナウンサーが震えた声で呼び止めた。


「一体……一体何が目的だ……こんな、こんなの虐殺じゃないか、こっこの殺人鬼!……一体何を――」


 勢いよく歩むと間を置かずして咥内へ銃口を突っ込んだ。震える感情が小刻みに銃へと伝う。そして、残念な気持ちになりながら、憐憫に口を開いた。


――ただの気まぐれだよ。


引き金は軽い。

血は熱い。

スーツに着くと落ちにくい。


残った仲間を引き連れて、屋上へと上がるとヘリがバタバタと、上空で彼らを囲っていたのだった。

 これは誤算か――いや、これも計算の内だろうか。

 上空に浮かぶ数機のヘリを仰ぐ、その黒い影。

 漆黒のスーツを着ているが故に、彼らの顔に取り付けられていた能面達は異様に映った。

 彼らを見下ろすリポーターはさも英雄かのように振る舞って、捉えようによっては可能だった。

 リポーターに続いてまたヘリが数機こちらへと向かってきた。

 どうやら機動隊によるもの。

瞬間、背を伸ばして起立している能面達はライトアップされ、姿が露わになる――


 その時だった。突如機動隊の一機が爆発する。たちまち黒煙を上げ機体はバランスを失い、拘束で旋回しながら緩やかな円を描くように落下してゆく……その間、あまりの出来事に数秒間が空いた――「何が起きたのかだろう」とその数秒間、ヘリに乗っていた人間は勿論、それを視聴していた国民全てが呼吸を忘れてただ、その光景を眺めていた。

それは多分、現実とは思えなかったからだろう。

 それを確認する術がなく、まだその猶予を与えられていたからで――


 その数秒間の間、先頭に立っていた狐面の一人が天へと指をさす。何とも奇妙な光景だった。

ほぼ全ての人間が、その光景を理解できなかった。

まるでそれは時が止まっているかのように思え、心無しかあれだけ騒がしい外が静まり返っていた、その時だった。


 煙に混じって、赤い炎が大きくなり始めた頃。鉄とコンクリートとが激しくぶつかり合う音と悲鳴が、その灰色の時間に色を付けた。


 即座に大きく立ち昇る煙と炎。次の瞬間には、画面の中は大きく取り乱れ。大きくカメラが揺れる。


 彼らを取り囲む報道ヘリはすべてドミノを倒すかのようにバランスを崩して墜落してゆく。

 しかし、彼らの姿は未だカメラが捉えていた。一般人のスマートホンによる配信や動画により、その姿はあらゆる角度で映し出されていた。その過激な演出は瞬く間に拡散されその晩国内にとどまらずあらゆる国々にそのテロ組織が知れ渡る――


 その後、彼らはどこから調達したのか横長の、プロペラが二つある、真っ黒に塗装されたヘリ5機により、暗闇へと消えていった。



 一か月前――


 男は震えていた。

 声も出せずにその光景をまじまじと見ていた。


「そこまで怯えないで――」


 彼は微笑んで穏やかに言う。


「私はそこまで悪い人じゃないですよ」


 そう言いながら、真反対にも、部屋を改造しているスーツ姿の青年の姿に半ばパニック状態になりながらそれを眺める。


「お前っ何なんだよ!!」


 ものを投げつけて対抗する。半ば半狂乱になりながらも何か対抗できそうなものと手に取った折り畳み机。

 しかし彼は余裕といった態度でにこやかに微笑む。


「いやいや、何も理由なくあなたのお宅にお邪魔しているわけではありませんよ――」


 彼はそう言って、器用に狭くなりつつある部屋をよけながらもクローゼットへと入り込む。途端に自分は危機感に何とか追いかけようとするが、抜けた腰がいうことを聞かない。

 無情にも彼はクローゼットの中を物色するとあるものを見つけ、こちらに近づく。


「結構な趣味をお持ちのようですね」


 そういってこちらに段ボールを置く。山積みの下着の入った段ボールを――


「お、お前――」

「大変な収集活動ですね……ああ、誰かに頼まれたとかではないです。ただこれに加えペットボトルを川に捨てたり野良猫を川に投げ入れたりと、加虐趣味も持ち合わせていらっしゃいますね……それはいけないと私自ら馳せ参じたわけです」


 怯え立てずにじたばたとする男。それに詰め寄る青年は、まるで爬虫類を思わすかのような赤い瞳をしていた。


「頼む……ど、どうか許してください……ごめんなさい」

「うーむ、困りますね私に謝られても……」

「ごめんなさい、警察にいきますから――」

「ああ、行く必要はありませんよ」

「はぇ――?」


 シンと静寂が訪れ、彼はさわやかに笑む。


「あなた、の足をわざと踏みましたよね?」

「は――いや」

「この革靴……高いんですよ? しかもあなた、人の傘を盗んでますよね?」

「あんな、あんなのビニ、ビニール傘なんて誰でも持ってるじゃねえか!」


 興奮しているのか彼の声は裏返る。


「ふぅむ……けれど窃盗なのは変わりませんが、その濡れた傘で私のズボンをつつきましたよね?」

「――」

「いやいや、驚きました……わざわざ東京に出てやることがそれだとは……しかも東京からここまで結構な距離電車で移動しましたねえ、席は空いても頑なに私の下を離れませんでしたし……」


 男は息を吸うので精一杯だった。しかし、青年は止まらない。


「挙句、この土砂降りの中、あなたは悠々と私の傘を盗みましたね?」

「――」


 彼はそう言いながら、濡れた手で段ボールの中から一つショーツをつまみ上げるとそれを男の口の中へと押し込む。「中々に気持ち悪い」と直後、彼の顔面を抑え、唇にアロンアルファをたらしてくっつけた――


「3……2……1……これで完全に密着したでしょう、あまり無理に動かすと剝がれますよ――さあ……うん、君でいいや、彼を拘束して、残りは作業に徹してください。今晩からここを拠点に活動しますのでインテリアの配置も速急に手配しなければ――ああ、君でいいや、すぐに1000万……いや7000万ほど銀行から持って来てください、このアパートを買い取ります。ほかの住民と話をつけなければいけませんからね、業者への連絡も怠らず、私のPCとプリンターは何よりも早くお願いします、この手で書かなければいけませんからね、あと車をこちらにもってきてください、生憎私は予定が詰まっておりまして、しばらくはフェアレディを乗り回そうかと――では引き続き作業の継続をお願いします」


 彼は能面を連れその部屋を立ち去ろうとした瞬間、立ち止まって男の方へと振り向いた。


「まさか未だに口を閉じてるなんて思いもしませんでしたよ――思い込みの強い方なんですね……それはただのアラビックヤマトですよ」


 彼は乾いた笑いを浮かべていう。

 男は口内を塞いでいた布を吐き出して聞いた。


「お前……一体何なんだよ――」

「まだ名乗ってませんでしたね……東京襲撃人――阿部カヲルですよ」


 彼はにこやかに笑って去っていった。


続くかはわかんないです

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