あなたを悪役にはしません4
運命の女神のいたずらで、悲劇の舞台に立たされた2人の恋愛物語です。
作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、作者にエールをいただければ、
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一生懸命、書き続けます。
是非是非、お楽しみください。
運命の女神がその異世界の中で起こっていることを、光りの球体の中に見ていた。
「これで、2人の愛は深まったわね。しかし、これからが本番です。うまい具合に、もっともっと根深い仇どおしになりなさい―― 」
運命の女神は目を輝かせながら、光りの球体に向かってつぶやいた。
炎王の許可を得て、第9王子蛟竜はよもつひら坂を下っていた。
王女月夜見を連れ帰ること以外に、彼はもう1つの目的をもっていた。
実は蛟竜はうすうす気がついていた。
(月夜見姉上はオニ狩り剣士陽光に命を助けられ、その時、宝刀黒斬を渡した。もしかしたら、今日も2人で会っているのかもしれない)
今日の朝、人間界に空を飛んで下っていた月夜見を蛟竜は見かけていた。
(あんなに明るい顔で、恋しい人に会いに行くような―― )
彼は双子の弟、真龍の仇を討とうと思っていた。
それで今よもつひら坂を下っていたが、自分だけではなく手勢1万人を引き連れていた。
月夜見は陽光と別れ、死人の国に向けて空を上昇していた途中、よもつひら坂の異常に気がついた。
「あれは死人の国の軍勢、第9王子蛟竜の配下」
彼女は配下の先頭に立つ蛟竜の姿を確認した。
「どうしましょう。このまま高天原に降りて陽光様と戦えば、蛟竜は必ず負けるわ。あの方は悩まれる。蛟竜の命を奪わなければ戦いは終わらない‥‥ 」
彼女は決心した。
それで空を上昇するのを途中で止めて、よもつひら坂の途中に降りた。
よもつひら坂を全速力で下っていた蛟竜とその軍勢は、前方に人影があることを見た。
「月夜見姉上、人間界に長く御滞在でしたな。父上の許可は得られたのでしょうか」
「許可は得ておりません」
「許可を得ずに、まるまる1日~一体何をなされていたのですか」
「言わなければならないことですか。物事には言えないこともあります」
「ふ――ん。やはり、そうなのですね。我が弟真龍の仇、オニ狩り剣士陽光と楽しい楽しい時間を過ごされたのですね」
蛟竜は怒りの声で続けた。
「今日は満月の日。あなたの力は最強になっているはずです。一体、何に使ったのですか。最低でも宝刀黒斬を陽光から取り返すことにお使いになられたのですね」
「私は今日、我が月光の力でおいしい飲みもの茶を作りました。それが!! 」
「その飲み物を陽光と一緒に飲まれたのですか‥‥ 」
蛟竜は下を向いていたが、やがて決心した。
そして、自分の軍勢に怒気をはらんだ声で指示を出した。
「我が前にいる王女月夜見を殺せ。いや、もうこの女は王女ではない。まるっきり、オニ狩り剣士陽光に心を奪われている」
蛟竜の配下の軍勢は、王女を殺せという指示にしばらくたじろいた。
しかし最後には命令に従い、月夜見に対して刃を向けて突進した。
月夜見は小さな声で話した。
「お止めなさい。お止めなさい‥‥ 」
彼女の体は既に月光のオーラに包まれていた。
次の瞬間、月光のオーラは彼女に襲いかかるオニ族の兵士を飲み込んで倒した。
後ろで見ていた蛟竜は考えた。
(確か、もう満月では無くなる)
満月が少し欠けた。そして、力を出し尽くした月夜見はふらついていた。
「我が姉、月夜見は陽光から逃げようとよもつひら坂を登っている途中、陽光に殺されたのだ」
蛟竜はそう言うと、自慢の長剣を抜き、ふらついている月夜見との距離をつめ、斬りかかった。
長剣が大きく振り上げられ、月夜見を真っ二つにしようとした時、
その軌道をさえぎる剣があった。
それは、宝剣黒斬だった。オニ狩り剣士陽光が最短コース、最速で剣を入れた。
「お前は!! 」
「第9王子蛟竜様、自分の姉上にそのように剣を振るうのは感心しません」
陽光はそう言うと、力一杯蛟竜の剣を振り払った。
強い力で蛟竜を吹き飛ばした。
息絶え絶えの月夜見が陽光に聞いた。
「陽光様。どうしてここに」
「子供の頃から、高天原でよもつひら坂を見上げるのが私の癖なのです。それで大変な事態になっていることに気がつきました。それで、最速でここまで登ってきました」
ヒヒ――ン
陽光の愛馬であるコウが大きくいなないた。
「コウは神馬です。急な坂でも光のように早く登ることができるのです」
そう言った後、陽光は気配を感じて、月夜見をかばうかのように立ちふさがった。
蛟竜とその配下の軍勢が、体制を立て直して攻撃しようとしていた。
「蛟竜王子様。もうお止めいただけませんか。あなたは絶対、私に勝てません。配下の軍勢もみな命を落すことになります」
「何を根拠に。お前は私の弟、真龍との一騎討しで、大苦戦したじゃないか」
「そうですね。弟君の真龍様は大変な槍の達人でした」
「その達人に私は負けたことがないのだぞ」
「あの方は強いだけではなく。思いやりのある立派な戦士だったのですね。それにお気づきになれなかったのですか」
「何をわけのわからないことを言うのだ。もう良い。お前と反逆者の月夜見はここで命を落すんだ」
月夜見が決心して言った。
「陽光様。仕方がありません。御随意に―― 」
その顔を見て陽光は決心した。
「こい」
彼は宝剣黒斬を構えた。
達人が見たら全く隙がなかった。しかし、蛟竜には全くわからなかった。
蛟竜が長剣を振った。
その軌道を陽光はスローモーションのように、しっかりと見た。
相手の軌道をわずかスレスレにはずし、黒斬の軌道は必殺の動きをした。
そして、蛟竜は真っ二つになった。
「ひえ―― 」
1万人いた蛟竜の手勢の軍勢はフラフラのまま逃走を始めた。
その後ろからは雷鳴のような陽光の言葉が響いた。
「オニ族の戦士達よ。ここに王女様はいなかったと報告するのだ。そう報告しないものの命は、必ず私が奪いに行く。王女様の月光オーラはおまえ達の命まで奪わなかった。心の優しい方だ」
陽光は、自分を厳しい顔で見ている月夜見に気がついた。
「あなたを悪役にはしません」
彼は微笑んで首を振った。
「良いのです。あなたのためなら悪役になってもかまいません。死人の国にお戻りください」
「あなたって方は‥‥ 仕方がありませんね」
彼女も微笑んで彼を見た。
お読みいただき心から感謝致します。おもしろいかとても心配です。
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週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。
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