あなたを悪役にはしません。
運命の女神のいたずらで、悲劇の舞台に立たされた2人の恋愛物語です。
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一生懸命、書き続けます。
是非是非、お楽しみください。
オニ族による人間界への大侵攻は失敗に終わった。
しかし、オニ族は人間に完全に負けたとは思っていまなかった。
彼らの宝剣黒斬を月夜見から無理矢理奪った人間のオニ狩り剣士陽光が最大の仇とされた。
王女月夜見にも、さまざまな質問があった。
今日も、王宮の謁見の間で炎王から聞かれていた。
「月夜見よ。ほんとうのことを申すのだ。黒斬を奪われた時のことを話してくれないか」
「お父様。私はオニ族の未来を示す巫女として、うそをつくことは許せません。陽光様は無理矢理、私から黒斬を奪ったわけではありません。私が差し上げたのです」
「『差し上げた』のだと!! 絶対にうそだろう。月夜見よ、何か陽光に脅迫されたのか? 脅迫されたのなら護衛を付けるぞ。可哀想に、やつはそれほどひどい、卑怯な人間なのか!! 」
炎王がそう言った瞬間、月夜見の顔が完全に変わった。
美しい顔に表れることが、ほとんどない怒りの表情が浮かんだ。
「お父様、ひどいです。陽光様は私の命を救うため、1万匹の影狼の大群に切り込んで御自身の剣の刃をボロボロにしてしまったのです。ですから、その時私が持っていた黒斬を差し上げました」
「‥‥‥‥ う――ん お前が嘘をつけないことはよく知っている」
「はい。彼は体中血だらけになりながら、私の命を救ってくれました。私を完全に守っていただきました。かすり傷一つ、できませんでしや」
「なんで陽光はそうしたのだ。人間は死人であるオニ族を嫌い、最大の敵だとしている―― 」
「私も最初はわかりませんでした。だけど今はよくわかります。彼は真実を感じることができる方です。
そして、真実を感じたら余分なことは気にしません。人間もオニ族も同じだと信じているのです」
「変なやつだな。人間とオニ族は同じではないぞ」
「お父様。彼の中では同じなのです。それに彼は人間でもオニ族が行うことでも、正しいことは正しい。間違っていることは間違っていると思うのでしょう」
「それに‥‥ 人間ではない私に対しても、絶対に思ってくれるのに違いありません‥‥ 」
「なんじゃ。どのようなことだ? 」
「‥‥‥‥ 」
王女月夜見は何も言わず父の炎王の顔を見つめた。
(私のことを愛していただけるのに違いありません)
月夜見の考えていることを、父の炎王は全く理解できなかった。
「月夜見よ。もう聞かない。死人の国の炎王は事実を決める。我が娘、月夜見は人間のオニ狩り剣士陽光に脅迫され、宝剣黒斬を卑怯な手で奪われたのだ」
そして月夜見に命令した。
「黒斬のことについて、この後、お前が話すことを禁じる」
娘の月夜見の反論を許さないように、炎王はさっさと奥に引き込んだ。
人間の世界の女王アマテラスの王宮に多くの家臣達が集まっていた。
家臣達の中には、人間界を守る10人のオニ狩り剣士もいた。
アマテラスが家臣達に告げた。
「今日は事前に通告したとおり、このたびの大侵攻を見事に退けた功労者に恩賞を与えたいと考えている。まず、戦士してしまったオニ狩り剣士第3席激光の後任だが‥‥ 何か意見はあるか」
女王の問い掛けに、集まっていた貴族の1人が手を上げ発言を許された。
「女王陛下、激光どのの後任には当然、御子息が就かれるべきだと考えます。人間界は、はるか昔からある秩序により保たれております。身分として世襲されるべきです」
この意見に対し、別の貴族がまた手を上げて発言した。
「今の意見に私は断じて反対です。硬直した身分制度は人間界の発展を妨げます。能力のある人間が、それに見合った地位に就くべきです。今回の功績から、第5席陽光どのを3席に昇格させるべきです」
女王アマテラスが大きくうなづきながらはなし始めた。
「私も今の意見に賛成です。功績あった者を正当に評価したいのです。陽光、あなたのお考えはどうですか」
指命された陽光が立ち上がった。
「私は今のままで良いのです。オニ族の大侵攻を食い止め、たくさんの住民の命を救うことができたという事実が私へのご褒美です。運がよかっただけですが」
彼のこの言葉を聞いた時に、数百人はいた王宮の謁見の間はシーンと沈黙した。
そしてすぐに、あちこちでひそひそ話が始まった。
「陽光はバカだな。こんなチャンスを逃すなんて」
「いやいや。立派な考えだ」
「父上にそっくりだな」
「父上と違うのは、これまでのオニ狩り戦士の中で最も強い。腹の立つほど強い」
もう亡くなっている陽光の父親である先代陽光も、オニ狩り剣士第5席だった。
さらに同じく、死人の国とつながる辺境の地・高天原を領地としていた。
ただ、剣士として最弱だった。
噂によると、オニを切ったことが一回もないと言われていた。
ある日、今回と同じようにオニ族の大侵攻があった。
天空から、高天原によもつひら坂が降りていた。
その坂をオニ族の大軍がぞくぞくと進軍してきた。
伝令が急報を告げた。
「信じられないほどのオニ族の大軍が坂を下ってきます」
年配の相談役が陽光に進言した。
「陽光様。王都ヤマトからの援軍をお待ちになられるべきです」
陽光は首を振った。
「いやいやそれでは、オニ族の一部が坂を下りきり、我が領民の相当数が犠牲になってしまします」
「全軍、よもつひら坂を上り、オニ族を抑撃しましょう」
「しかし、オニ族の大侵攻には必ず炎王の王子の1人が指揮官となっています。王子達は化け物のように強いのです。それに比べ、陽光様は‥‥‥‥ 」
「最弱ですね」
陽光は楽しそうに、心の底から微笑んで言った。
「すいません。義務を果たすのが私の生きる目的です」
‥‥‥‥
よもつひら坂は、人間とオニ族の死体にあふれていた。
しかし、その中で1人の人間がのろのろと坂を登っていた。
それは陽光だった。
血だらけで全身の筋肉のあちこちが断裂していた。
実は彼は最弱をよそおっていたが、実は人間界最強だった。
指揮官をしていたオニ族の王子を倒し、死人の国に逃げていくオニ族の軍を追いかけていた。
生き残った人間は彼だけだった。
よもつひら坂は、上に登れば登るほど細くなっていた。
調度、オニ族の軍が全て死人の国の中に吸い込まれたことを確認したその時。
陽光(陽光の父親の)の足が大きくふらついた。
‥‥‥‥
「名誉を守った」
ふらついて彼の体は坂から大きくそれ、はるか下の人間界に向けて落ちていった。
‥‥‥‥
地上の高天原で息子の陽光がそれを見ていた。
「父上。さすがです」
お読みいただき心から感謝致します。おもしろいかとても心配です。
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