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0からでも‥‥かならず‥‥

最終章の開始です。

運命の女神のいたずらで、悲劇の舞台に立たされた2人の恋愛物語は結末を迎えます。

作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。

一生懸命、書き続けます。

是非是非、お楽しみください。

 日向光(ひゅうがこう)は記憶喪失になっていた。


 彼は目を開けた。


「陽光って誰ですか? あなたは誰ですか? ここはどこですか? 」


「えっ、えっ。日向さん、あなたが転生する最初の名前が『陽光』なんですよ。想い出したんですよね。それに私は月夜美(つきよみ)、東都市で知り合いお付き合いさせていただいています」


 それを聞いても、彼の心の中には、夜美との関係が何も浮かんで来ないような様子だった。


(心臓から運命の矢が消滅するまでの体への過度な負担で、一時的に記憶に障害が出たのかしら)


「日向さんは東都、C大の大学院生ですよね」


「はい。そのとおりです。C大のそばのマンションに住んでいます」


「専攻は古代歴史学。それから昔話、伝説のたぐいなんですよね―― 」


「えっ、えっ なんで知っているのですか。オタク的な趣味なのであまり人には言わないのですけど」


「それに、川の流れをずっと見てボッとしていることが好きなんですよね。特に、東都市の中心から地方に向かう街道の起点橋によく行かれるのですね」


「そのとおりです。あなたは私のことをよく御存知ですね?? でも、ここはどこですか。なんで私はここにいるのでしょうか?? 」


(日向さんは記憶喪失なのでしょうか。失った記憶は不思議なことに限定的なんですね)


 月夜美(つきよみ)と出会ってからの記憶。


(もちろん、ようやく想い出した転生前の記憶も忘れていますね。また、ここで2人の距離は離れてしまうのでしょうか。運命の女神の最大の嫌がらせですね!! )


 夜美は絶望しそうになった。


 しかし、絶望を振り切った。


(がんばれ。がんばれ私―― 必ず彼の記憶は戻る。必ず。絶対に―― )




 天上界の大広間で、多くの神々がこの状況を見ていた。


「私の最後のなさけよ。日向とかいう若者の記憶の全部は消失させなかったわ。今の世界の記憶を全部消されれば、彼は生きていけないでしょう。私は最高神様よりずっと優しいわ!! 」


 その時、2人を応援している月の女神は密かに考えていた。


 そして、夜美が指にはめているアルテミスリンクに向かって力を送った。


(あなたと彼との記憶は完全に消滅させることはできない。きっと、たくさんの小さな粒に分解されて、飛ばされたはずです。だから、あなたが引き寄せなさい!! )


 夜美の心は絶望に引き裂かれそうになっていた。


 しかし、彼女は強かった。


 月の女神の応援パワーを受けて、絶望の嵐に立ち向かい、運命に抗うことを決意していた。


 彼女は心の中で自分に強く言い聞かせていた。


(夜美。よく聞きなさい。あなたはオニ族の王女月夜見(つくよみ)の生まれ変わり。あなたは強い。あなたは大丈夫。心から愛する人を必ず取り戻す。日向さんを、陽光様を―― )




 夜美は笑顔で日向を見つめて言った。


 強い心が作った笑顔だった。


「日向さん。ここは出雲の国のたたら神社です。出雲大社よりも歴史がある私の実家の神社です。私は○○図書館の司書、あなたがよく本を借りに来られたので、古代の歴史を専攻するあなたを招待したのです」


「‥‥‥‥そうだったのですか。大変御迷惑をおかけしたのに全く忘れてしましました。


「特に興味があるのはオニ伝説なのですよね。今から、ある場所にお連れしようと思っていました。オニ伝説が発祥した場所です。オニの王女月夜見(つくよみ)に関係するのですよ」


「王女月夜見ですか。失礼ですが、伝説に出てくる王女の容貌と夜美さんはそっくりなのですね。銀色の髪の毛が月のような宝石の光を発し、美しく大きな赤い瞳が輝く」


「まあ、そのようなことを普通に話すことができるのですね。私は照れてしまいます」


(あなたは、私にもう何回も、私の容貌をそのようにおっしゃってくださいましたね)


「すいません。女性と話すことは苦手なのです。でも不思議ですが、あなたと話すのは楽です。ど忘れしてしまったようです。お名前をお聞きしても?」


「夜美です」


「夜美さん。伝説に関係する場所まで私を連れて行ってください。1時間後くらいで良いですか」


「わかりました。この社務所からも見える裏山を登らなければなりません。見かけと違い、結構、急な勾配がありますので覚悟してください」


「おお、それがネックですね。大都会の東都で暮らしていて、あまり体を使っていませんから」




「夜美さん。今の場所を過ぎてから何か異なった場所を歩いているような気がします」


「この裏山には結界が張られていますが、さらに山を登る道の途中にも2重に結界が張られているのです。ですから、霊力が高い人間でなければここまで入ることができないです」


「私はごくごく普通の人間ですが、ここまで入ることができました。不思議ですね」


 夜美は心の中で彼に話した。


(普通の人間ではありませんよ。あなたの根源は世界最強のオニ狩り剣士陽光様ですから)


 やがて、ある場所で止まった。


 背の高い御神木が目印のように生えている平地が現れた。


 そして山肌である岩がむき出しになっていて、そこに洞窟があった。


 洞窟の前は外部からの侵入を拒むからのように、縄が張られていた。


「この穴は根源の道といいます。オニ族の王女がこの中で自分の転生を知り、自分の根源にたどり着いたという伝説があるのですよ」


(伝説ではなく、単に私の体験ですが)


「中に入ってみませんか? 」


「神秘的ですが。とても恐い場所ですね」


 夜美が先行し縄をくぐり、日向を案内して中に入った。


 中に入った瞬間は、普通の洞窟だった。


 すぐに彼女は日向の後ろに位置をとった。


(日向さん。ごめんなさい!! )


 彼女は彼を手で押した。


「夜美さん。何をするのですか」


 少し驚いた日向は声を上げた。


 すぐに彼の周囲が灰色単一の世界になり、自分の前にははるかな道が続いていた。


 同時に、彼が指につけていた緑色の翡翠(ひすい)の指輪が輝いた


「日向さん。ほんとうにごめんなさい。今のあなたから見れば私は怪しい女ですが。お願いです。私を信じてください。そして、前に進んでください」


 普通の状況ではなかった。


 場合によっては、身の危険を感じるのが普通かもしれなかった。


 でも不思議なことに、彼は夜美の言ったことを少しも疑わなかった。


(歩いて行こう!! )


 彼は直ぐに決意した。


 そして早歩きで歩き出したが、すぐに回りの空間が変化した。


 灰色単一の中に数多くの光りの粒子が現れた。


 彼はそれを見た瞬間、驚くより先に、懐かしさがこみ上げてきた。


(なんだろう。星屑のようだけど、見ているだけで心が落ち着くな!! )

お読みいただき心から感謝致します。

作者が全力を尽くして作り上げる終局に御期待ください。


※更新頻度

週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。

作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。

一生懸命、書き続けます。





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