オニ族は人間の死から生まれる
悲劇のストーリーにあらがう2人の恋愛物語です。
作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。
ほんの少しでもおもしろい物語になるよう、一生懸命、書き続けます。
是非是非、お楽しみください。
月夜見の兄、深黒は考え込んでしまった。
「‥‥どうやって、ごまかしたら良いのか」
「兄上、申し訳ありません。
「まあ 考えても無駄だな。戦いで俺が人間を一杯殺して、お前がその美しい顔で父上に微笑めば、問題ないだろう。その時、宝刀黒斬を落してしまったとでも、嘘をつくことにしよう」
「戦いがあるのですか」
「お前の力で、よもつ比良坂以外に人間の土地に対する一時的な進入路を構築することができる。それぞれの土地には、守護者であるオニ狩り剣士が領主になっているが、信じられないほど弱い領主もいるのだ」
「『信じられないほど弱い』 ですか」
「我がオニ族でもそうだが、人間族の中では、家柄だけで地位を得る者もいるらしい」
「兄上も戦いに出られるのですか」
「そうだ。既に父上は決意されている。たぶん、この高天原からはかなり遠い人間の土地が血祭りになるだろう。人間の王都であるヤマトに近い多くの人間が住む場所だ」
「陽光さんとは戦わないのですね。絶対にダメですよ」
「そうなるだろう」
深黒はその時、妹の顔がとても明るくなるのを見た。
子供の頃から、深黒は月夜見のその明るい表情が大好きだった。
実は第5王子の深黒と、第3王女の月夜見は特に仲が良かった。
お世話役の乳母が同じだったということもあった。
(陽光はそれほど月夜見の心を奪ってしまったのか。それならば、戦わなくてよかった。しかし、どのような男なのだろう‥‥確か、年は自分と同じだと聞いているが)
死人の国の王宮だった。
オニ族の王、炎王が人間界への大侵攻を開始するため、多くの王族と家臣達を集めていた。
炎王の一言一言は重く、厳しい声で言い放った。
「人間をたくさん殺して、我がオニ族を増やさなければならない。だから、人間が多数暮らす場所に進入路を設け、我が多数の戦士を送り込む」
炎王の直前には、10人の王子達がひざまずいていた。
そして、その内の1人が立ち上がった。
第5王子の深黒だった。
「父上。大侵攻の司令官は私にお任せください」
「深黒か。今回はお前には頼まない。今回の侵攻地域には、そんなに強いオニ狩り剣士は。いないのだ。しかも、油断しきった人間ばかりで防衛力も弱い。だから、初陣の者でも十分にやれるだろう」
その時1人、立ち上がった別の王子がいた。
第10王子の真龍だった。
炎王と深黒の方向に深く一礼してから話し始めた。
「父上。今回の御命令、心の底から感謝申し上げます。そして、深黒兄上、第侵攻の役目を私にお譲りいただきありがとうございます」
その時、深黒は既に炎王から自分の、弟に命令が出されていることを認識した。
「わかりました父上。今回の司令官は第10王子真龍に任せましょう。兄上様方よろしいですか」
深黒は父親の意向を受けて、自分より上席の王子達に了解を得た。
「ところで父上、初陣の真龍のために相談役兼お目付役は同行させないのですか? 私は真龍のためにも必要だと思います。これまでの通例では、相談役兼お目付役が付いています。私の初陣の時もそうでした」
「そうだな。うっかり忘れていたが、適任者がそこにおるな。――深黒よ。頼む」
「つつしんでお受け致します」
「深黒兄上。お願い致します」
炎王はそれから、自分の横に控えている月夜見に言った。
「我が唯一の娘、月夜見よ。お前の力で月の破壊の力を増幅させ、我が軍の道を作るのだ」
彼女に、人間界に戦いに行く戦士達の侵攻路を作れという父の命令だった。
ほんとうは気が進まなかったが、逆らうことは絶対に不可能だった。
「御意。お父様」
1か月後、オニ族10万人の大軍勢が人間界に大侵攻するために死人の国に集結していた。
オニ族の魔術師達が、そろって詠唱を続けていた。
魔術師の中心には、月に働きかける月夜見がいた。
それは、生者である人間の国と死者であるオニ族の世界との障壁に徐々に働きかけていた。
最後にもう少しで障壁が一瞬消滅しようとするとき、大軍勢に向かって炎王が言った。
「さあ。我が戦士達よ、我々を見下し、死者として再び誕生するという呪いをかけた人間に復讐するのだ。人間達を切って切りまくり、死者の国に引きずり込むでやるのだ!! 」
炎王の声は10万人の大軍勢1人1人がしっかりと聞き取れた。
大軍勢は一斉に、その手に持っている巨大な剣で地面をたたいた。
ガーンという巨大な音が聞こえた。
すると、障壁が半円形に割れて人間の世界とつながった。
その頃。
人間の世界は夜だった。
しかも月食が始まっていた。
月食が完全に終わり、夜の光りが消え完全な暗闇になった。
しかし、すぐに月は輝いた。
そして、夜空の暗い灰色の中に、半円に光りが集中した。
最後にガーンいう巨大な音が聞こえた。
すると、半円の黒いトンネルが見えた。
するとそこから、たくさんの白い者達が滑空し始めた。
人間界の女王、アマテラスの王宮内で天体を観測している学者がいた。
「あっ!! 大変だ!! 」
学者は急いで女王に急報を告げようとした。
謁見の間に女王と多くの家臣達が集まった。
そして、緊急事態であることが報告された。
「女王様。月食がわざわいを運んで来ました。よもつ比良坂以外の場所が死者の国とつながってしまいました。そしてそこから、多くのオニが侵攻してきます」
「オニ狩り剣士にすぐ抑撃させなさい」
「はい。この王都ヤマトの近くにいる全てのオニ狩り戦士達に出撃させます」
「すぐに襲撃可能なのは誰ですか? 」
「席次第3位激光様です」
「王宮近くに領地をもつ、自分の強さをいつも主張する剣士ですね。この王宮を守護する10万人の近衛兵団を彼の指揮下におきなさい。自身の軍団と合わせれば十分な数でしょう」
オニ狩り剣士、激光は既に自分の軍団を引き連れ、王都の正門前に陣を構築していた。
彼は強かったが、家柄で実力が少し過大評価されていた。
うすうす自分でも感じていたが、今はそのことを心の奥底に隠していた。
戦闘が始まった。
最初は兵力数の差があり、人間の側がかなり押されていた。
ところが、王宮から近衛軍団が駆けつけると、人間の側が優勢になった。
しかし、それはほんの一瞬だった。
オニ族の剣に切り刻まれる人間の兵士の悲鳴が多くなった。
激光は副官にたずねた。
「どうしたのだ」
「激光様。オニ族の王子が先頭で切り込みをかけてきました」
「オニ族の王子だと―― 誰だ?? 」
「第5王子、深黒です。通称『オニふやし』です」
「オニふやし‥‥ 」
人間であるオニ狩り剣士にとって、恐怖と絶望を意味していた。
お読みいただき心から感謝致します。
今までとは少し違った物語ですので、おもしろいかとても心配です。
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週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。
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一生懸命、書き続けます。