2人は転生した(1回目)
第2章の開始です。
運命の女神のいたずらで、悲劇の舞台に立たされた2人の恋愛物語です。
作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。
一生懸命、書き続けます。
是非是非、お楽しみください。
月美は自分の家がある山の上から、下に広がる平野を見ていた。
平野にはまだ、多くの人間や魔物達の戦死した死体が腐乱して残っていた。
そして遠くを見ると、うっすら、王都に立つ建築群が見えていた。
しかし月美の目は、全く違うものを見ていた。
彼女は自分の左手の薬指を見て、ひとり言を言った。
「不思議ですね。大日皇子様も同じでした。左手の薬指に、緑色の翡翠の指輪をしていましたね」
彼女が生まれた時から指輪をしていたそうだ。
不思議なことに、大きくなるにつれて、指輪の大きさもだんだん広がった。
彼女の家族はもともと王都に住んでいた。
しかし、彼女が生まれた時から翡翠の指輪をしていたのを近所のみんなに気味悪がれていた。
そして、彼女が大きくなるにつれ、その姿もさらに無気味に見られていた。
「あの娘を見なよ。銀髪の髪に赤い瞳、人間離れした姿形で美しい。夜は体から光りを発するそうだ。きっと、母親が魔物と不倫して生まれたのに違いない」
「早く、この近辺から出て行ってくれないかしら。若い男達は、ほとんど全員、あの娘のとりこだわ」
そして彼女にとって、最悪の不運がやってきた。
彼女に言い寄った若い男を、丁寧に断った。
しかし、その若い男はそれを根に持ち、彼女の家族を追い出すように住民を扇動した。
「みなさん。ここ王都に魔物の娘が住んでいます。この先、魔物軍の侵攻があった時、王都内部で裏切られ、魔物を導き入れられたら大変なことになります。焼き討ちし、追い出しましょう!! 」
多くの住民達が松明を持ち、彼女の家を取り囲んだ。
「父様。みなさんは私を恐れています。私がここから出て王都の外に行きましょう」
「いいや。家族みんなで出て山に行こう―― 」
父親は木こりだった。
王都の家を出るとき、彼女は多くの住民達から恐怖の目で見られた。
「見なよ。あの娘、人間離れした美しさで、しかも夜なのに光をまとっている。古のおとぎ話に出てくるオニ族みたいね」
「恐い恐い。いいからぶっ殺せば!! 」
住民達の中で血気にはやった数人が、彼女と彼女の家族に襲いかかった。
ところが――
その瞬間、月光のオーラが強く光り、彼女と彼女の家族は守られた。
山の上に移ってから数年たった。
その間、月美は自分のルーツを考え続けていた。
なかなか結論は出なかったが、一つ、これはと思うことはあった。
古のおとぎ話、オニ族とオニ狩り剣士の人間との恋の物語だった。
大日皇子の毎日は、父親の大王のおかげでがんじがらめになった。
自分の王宮の部屋、扉の外、ベランダも含めて常に100人の衛兵が彼を見張っていた。
外に出る時も同じだった。
大日皇子は毎日考えていた。
「衛兵さん。今から王都の市場を視察します」
「皇子様。それでは我々もお伴します」
「100人が私に付いてくると、市場にいる住民の方々に迷惑がかかります。せめて、10分の1、10人にしてください」
大日皇子の一行は王都の市場を歩いていた。
すると、ある所で馬を売っている商人がいた。
売られている馬の中に、大層立派な駿馬がいた。
皇子が通り過ぎようとした時、その馬が気が狂ったように暴れ始めた。
皇子は気になり近づくと、その馬は嘘のように穏やかになった。
「お武家さん。なかなかお目が高い。この馬な軍馬としてすばらしい力があります。ただ、気性が非常に荒く誰も飼い慣らせないのです。ですから売れ残っています」
「そうなんですか。ところで、この馬の名前はもう、あるのですか? 」
「‥‥‥‥ あっ、想い出しました。『コウ』と言います」
その瞬間、皇子と馬は目が合った。
(この馬は知っている。友達だ!! )
「少し試乗しても良いですか」
「どうぞ」
皇子は馬の耳元でささやいた。
「コウ。みんなに気が付かれないように、王都の正門までゆっくり進んで」
皇子は騎乗して王都の中を正門まで進んだ。
10人の監視衛兵もその後ろに続いた。馬商人も続いた。
やがて、王都の正門に着いた。
皇子は馬商人に言った。
「商人さん。私は大日皇子です。この馬を買います」
皇子は続けて監視衛兵達に言った。
「僕は、今から平野を疾走します。馬の代金は払っておいてください。――それから、後に着いてこなくても良いですよ。この馬は光のように早く走りますから!! 」
皇子は騎馬して走り出した。
すぐに加速し、見ていた誰もがびっくりするほど早かった。
自分の家がある山の上で見ていた月美は気が付いた。
はるかな王都から山に近づくものがあった。
「あっ!! あれは流星のような!! 」
すぐにはっきりと見えるようになった。
「大日皇子様!! 」
そう言った瞬間、彼女は銀色の光りに包まれた。
そして右手を空に突き出すと。
彼女の体は飛翔した。
「今日は満月ですね。不思議に、いろいろなことができるのです」
そう言うと、山のふもとに広がる平野に向かって飛行した。
大日皇子はものすごい速さで平野を疾走していた。
普通の人間なら恐くなるほどだが、彼は少しも恐くなかった。
「前にも同じような感覚を何回も―― 楽しい!! 」
目的は月美が住む山のふもとだった。
やがて山が近づくと彼は気が付いた。
騎乗で進行する前方に誰かが立っていた。
「月美さん!! 」
やがて、2人は平野の中で出会った。
大日皇子は下馬した。
「なんで、ここにいらっしゃるのですか? 」
「想像して、あててください」
「たとえば、山の上から見ていて、そこから飛翔したとか。今日は満月、不思議な力が発揮され、月美さんは空も飛べるのですね」
「まあ なんで御存知なのですか? 」
「はあ なんで知っているのか私にもわかりません」
「私に会いに来ていただいたのですか」
「はい」
「私が今日、皇子様にすばらいいものをお見せします。以前のお返しです」
「以前のお返し?? 」
「ふと、すばらしい思い出が浮かんだのです。皇子様、少しお待ちいただけますか」
その後、月美は詠唱し始めた。
「勇敢に戦った戦死達の屍散乱する。人間であれ、魔物であれ、名誉を讃えなければならない。この者達を星のように死人の国へ」
その瞬間、真昼だというのに周囲が夜になった。
暗闇の中に満月が光り、上空には死人の国が浮いていた。
多くの屍は、さまざまに光る玉になり一斉に空に登った。
そして、光る玉は全て、上空の死人の国に収容された。
お読みいただき心から感謝致します。
第2章からの展開、終局に御期待ください。
※更新頻度
週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。
作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。
一生懸命、書き続けます。