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塔の上の恋人を助ける5

運命の女神のいたずらで、悲劇の舞台に立たされた2人の恋愛物語です。

作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、作者にエールをいただければ、

ブックマークをお願い致します。

一生懸命、書き続けます。

是非是非、お楽しみください。

「花龍よ。それはどういう意味か? 」


「兄上。この陽光様は、我々オニ族の敵ではありません。我々をオニ族として差別していません。人間と完全に同じだと感じています。しかも、たぶん、無意識にです」


「それがなんだ」


「このような方が、オニ族と人間の間に平和をもたらしてくれるでしょう。私は、その助けをしたいのです」


「そうか。お前は月夜見にたぶらかされたのか。我が妹とはいえ、オニ狩り剣士である陽光にメロメロだからな。兄弟の中にできる限り味方を作ろうとしているのだろうな」




 最上階で、5階の部屋で風神が言うことを探知していた月夜見は顔を真っ赤にして言った。


「まあ!! メロメロって、風神たら、なんて失礼なことをはっきり!! でも、真実かもしれませんね」




「姉上のことは関係ありません。私は陽光様を助けたいのです」


 2人のやりとりを聞いていた陽光が言った。


「花龍様。ありがとうございました。もう十分です。術をお解きください。あなたの体が心配です」


 彼は自信に満ちた表情で花龍を見た。


 花龍はその表情を見て安心した。


「楽観的で明るい。あなたのそういうところを姉上が好かれたのでしょう」


 そう言うと、彼はその場に崩れ落ちた。


「精一杯のことをしてくれたのですね。いただいた時間、無駄にするつもりはありません」


 突然、陽光は花龍と同じような剣の構えを見せた


「乱花吹雪、(かい)


 彼の回りに、花びらを巻き込んだ風の渦が起きた。


「物まねで恥ずかしいですが、しっかりまねすることができました。だから、強いですよ」


 オニ族第3王子風神が起こす短剣の風を、花びらの渦が楯のようにさえぎった。


 そして、陽光は少しずつ風神に近寄った。


 ただ、やはり風神が起す風の方の威力が強く、花びらの渦の楯はギシギシときしんだ。


 1歩1歩彼は前に進んだ。


 彼の強靱な足腰がそれを可能にした。




 陽光は子供の頃の鍛錬を想い出した。


 それは彼がまだ小さかったのに、父親が課した厳しい鍛錬だった。


 ある日、彼は父親に馬に乗せられて、高天原を疾走していた。


「父上。だいぶ、進んでいますね。このままだと高天原の端に達してしまいます」


「そうだな。そこには特別な地形がある。それが今日の鍛錬場だ」


 そうしている間に、台地上になっている高天原の端に達した。


 そこから先は切り立った崖が続く山脈地帯だった。


「父上。もう、これ以上行けませんよ」


「馬を下りよう。もうすぐ始まる」


 切り立った崖のすぐ下に父親と陽光は立った。


「来るぞ。注意しなさい」


 急に崖の上から、ものすごく強烈な風が吹き始めた。


 陽光はすぐに数メートル吹き飛ばされた。


 そこに倒れたまま立ち上がろうとしたが、全く起き上がれなかった。


 父親の方を見ると、普通と全く変らない状態で立ち続けていた。


「父上は化け物か? 」


「私は化け物ではない。ただ、長い間愚直に鍛錬を繰り返した人間だ」




(愚直さだったら、私は父親に勝るな‥‥ )


 陽光は確実に風神に近づいた。


 そして最後には間合いの中に入った。


 彼は宝剣黒斬を抜いた。


 その剣筋は、風神に届いたかと思った。


 しかし、


 カチーン


 かん高い大きな金属音がした。


 彼の黒斬を風神の剣が見事に受け止めたのだった。


「私は風神だからといって、近接戦が弱いわけではありませんよ」


 風神の非常に早く密度の濃い、剣(げき)の連射が始まった。


 それを陽光は受け続けていた。


 なん百回、いや何千回もそれは続いた。


「風の性質は永遠なのです。ずっと同じように吹き続けます。休むことを知らず、疲れもありません」


 風神の剣戟の連射は変ることがなく続いた。


 それに対して、陽光はその場に立ち止まったまま受け続けた。


 彼は全く動かなかった。


「動けないのでしょうね。当然です。人間の身でよく耐えていらっしゃる」


 ところが、陽光は動けないのではなかった。


 動かないのだった。


 自分の神経を、風神の全ての剣筋を覚えることに集中させた。


(風の剣はほとんど完璧、しかし5百回に1回、あまいものがある)




 やがて、陽光に一瞬のチャンスが訪れた。


 甘い剣(げき)をすれすれに受け流し、彼は全力で宝剣黒斬を振った。


 黒斬は光りのように、風神を切り裂いた。


 今度も陽光の剣戟は致命傷を与えないことを目的とした。


 風神はその場に倒れ、部屋の中に吹いていた風は、うそのように止まった。


「陽光様。さすがです。私に勝てるのはあなただけでしょう。ところでお聞きしたいのですが。あなたは風の吹きすさぶ場所で鍛錬しませんでしたか」


「はい。確かに、高天原の端にある崖の下で毎日毎日、一生懸命鍛錬しました」


「そうでしたか。わかりました」




 風神がまだ幼い子供の頃、母親が言った。


 母親は炎王の側室だが、風の妖精で時々人間界の中を吹いていた。


「風神、この頃、おもしろい人間の子供を見つけましたよ」


「母様。どのような? 」


「私達風の妖精がたくさん集まる高天原にある端の崖の下で、いつも立ち続けているのです」


「どうせ、風に吹き飛ばされるのでしょう」


「はははは いつもいつもその子供は吹き飛ばされました。うまくいかず、涙ぐんでいたこともありました。でも必ずうまく行くと確信していました。ある日から‥‥ 」


「どうなったのですか? 」


「ある日から、びくともしなくなったのです。それで、風の妖精である私達もいじになってその子を吹き飛ばそうとしたのですか、無駄でした。きっと、最高の資質を持っていたのですね!! 」


「母様。最高の資質とは?? 」


「努力と忍耐、それに風の性質に近い楽天屋です。大きくなって、どんな強い剣士になるのでしょうか。人間の剣士ですから、お前の敵として出会うかもしれません。でも、仲が良い友達になれると良いですね」




「陽光様。あなたは風と友人になれる人間ですね。これから友人になっていただけますか? 」


「もちろん。喜んで。」


 それを聞くと、風神は心からニッコリ笑った後、意識を失った。


 陽光は自分の服を破り、風神の体から血が出ている場所を結んで止血した。




 最上階の部屋で、5階の部屋の2人の戦いを見守っていた月夜見が言った。


「陽光様。オニ族であろうが、人間であろうが、あなたは誰からも好かれる素敵な方です」

お読みいただき心から感謝致します。おもしろいかとても心配です。


※更新頻度

週1回、日曜日午前中です。不定期に午後や土曜日に更新させていただきます。

作者のはげみとさせていただきますので、もしよろしければ、ブックマークをお願い致します。

一生懸命、書き続けます。





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