第7話 スキルの片鱗
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「じいちゃん、おはよう」
「お、村の英雄がご起床なされたか!」
「ちょっと止めてよ、じいちゃんは寝れたの?」
「まぁ、こんな状況だからな。仮眠程度に休んだだけだ」
じいちゃんの目の前には縛り上げられた盗賊たちが転がっている。捕えたと言っても強力なスキル持ち。手負いで弱っているとは言え、村で一番強いじいちゃんが見張る必要があった。
「しかし、あの状況で一人も殺してねぇとはたまげたぜ。見事に全員の足を射貫くとはな」
僕に用意された矢には麻痺毒がたっぷりと塗られていた。お陰で急所を狙わなくて済んだから僕としても気が楽だった。
「うん、盗賊とはいえ僕も人を殺すのは気が退けたからね。それに生きてたら犯罪奴隷として引き渡せるから貰えるお金も増えるでしょ?」
「全くだ。お陰で今年の冬は皆問題なく越せるな」
「おい」
突然目の前の男が声を発した。
「そこのガキ」
そいつは【魔装】使っていた男だった。
格好を見るからにこの男が盗賊の頭領だと思われる。
「何?」
「今、お前一人で俺達をやったと聞こえたが冗談だよな?」
何でこの男は捕らえられているのにこんなに偉そうなんだろう?
正直ムッとした。
「嘘を言う意味なんか無いだろ」
思わず普段抑えていた魔力を開放していた。
「お、おい、アーサー、魔力を抑えろ!!」
「あ、ごめんじいちゃん。やっぱりまだまだだね。ちょっとカッとなっただけで制御するの忘れちゃった」
「そうか、気をつけろよ。ほら、見てみろ」
じいちゃんが顎でグイっと盗賊を指す。
目の前の盗賊達は気を失っていた。
「ありゃりゃ」
「ワシも一瞬気が遠くなったぞ」
「あわわわわわわわわ」
でも眼の前の、恐らく最も魔力の圧を受けたと思われる頭領は気を失っていなかった。
「な、な、な、何者だ? 人間なのか?」
「失礼な。どこからどう見ても人間だろ?」
軽く怒気と共に魔力を当ててみた。
「ひぃっ!」
情けない声が上がる。
「ははは、情けねぇもんだな。だが、アーサー、程々にしとけよ。こいつに話がある(我が孫ながら末恐ろしい魔力だな。ていうか魔力メチャクチャ増えてねぇか?)」
「ハイよ〜」
「さて、お前は盗賊の頭領で間違いないか?」
「あ、ああ、そうだ」
「うむ。素直でよろしい。ワシは素直なのが好きだぞ。それでお前等は何でこの村を襲った?」
「たまたま見つけただけだ。それ以外に理由がいるのか?」
「まぁ、そうだな。それも嘘ではなかろう。なら質問を変える。お前等はどこから来た? 他国の軍人なんだろう!?」
えっ、そうなの?
軍人だったの? 何で分かったんだろ?
「俺達ぁ、元傭兵のしがない盗賊だ。国だってあちこち行ったからな。どこから来たかと言われても正直答えに困る」
いや、じいちゃん違うじゃん。
元傭兵じゃん。
「いや、ワシの目は誤魔化せんぞ。傭兵でも、単なる盗賊でもない。お前らは明らかに軍人だよ」
「何故そう思う? お前のスキルは明らかに強化系だろ?」
これどっちが正しいんだ?
じいちゃんがそう思う根拠ってなんだろ?
「勘だ」
勘かーい!
「勘? 根拠も何もねぇじゃねぇか。勘弁してくれ。嘘は言ってねぇよ」
うーん。全くもってそのとおりだ。
「勘だが、根拠はある。盗賊や傭兵ならこの状況で意地は張らねぇよ。『せめて痛い思いはしたくない』と全てを諦めるか、ヤケになって悪態をつくかだ。だがお前は捕まって、子供相手に醜態を晒してもまだ心が折れてなかった。最初の質問の答えに棘があった。張らなくてもいい意地があったんだよ。かと言ってヤケになってるわけでもねぇ。となると、まだ何か守るべきなにかがあるか、何かを隠してるんじゃねぇかってなるだろ? じゃあ、単なる盗賊や傭兵くずれじゃなくて軍人なんじゃねぇかと思ったわけだ」
「……」
「黙ったってことはまさか図星なのか?」
ええぇ〜?
まさかの図星?
「じいちゃん、すごいね!」
「お、おう。ワシも勘だから正直当たってるとは思わなかったんだがな。言ってみるもんだな」
「マジかよ……」
「じゃあ、おじさん達は軍人てことでいいの?」
「さぁ、どうだかな?」
頭領はしらばっくれてるけど、まぁ、バレバレだね。
「まぁ、それは僕にはどうでもいいんだけどね。それより僕と取引しない?」
「取引だと?」
「そう、おじさん達のスキルを教えてくれないかなと思って。それでもし気になるスキルがあったら見せてほしいんだ」
「それで? 俺達への対価はなんだ?」
「魔鹿の肉でどう? 全員に肉を一切れ提供するよ。なんだったらちゃんと焼いてあげる」
「そいつは願ってもねぇ提案だが、お前ぇには何の得がある?」
「まぁ、最近スキルを授かったから他の人のスキルを見てみたいんだよね。あ、その代わり暴れたり危害を加えるのは無しだよ。ちゃんと言うこと聞いてくれたら僕らも何も乱暴しないから」
頭領はニヤリと笑った。
「いいだろう。取引成立だ」
当然僕もニヤリと笑った。
もしかしたら僕が真似できるスキルがあるかも知れないからね。
「ちょ、ちょ、ちょっと待てアーサー。勝手に決めるなよ。もしこいつらが暴れたらどうするんだ?」
「その時はじいちゃんもいるし、大丈夫じゃない? 全員怪我してて満足に動けないんだし」
「まぁ、そうか。こいつらを捕まえたのはアーサーの功績だしな。それくらいは大目に見るか」
「やったぁ、じいちゃんありがと!」
「じゃあ、取引成立だね」
その時、一瞬光に包まれたような気がした。