表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【商い】スキルで気楽に行こうや  作者: 外波鳥
第1章 スキル胎動
6/42

第6話 ご愁傷様

感想とブックマークを頂きました。

励みになります。

ありがとうございます。

◇ジーク◇


 アーサーの提案した策は大したものだった。孫を荒事に加えたくないという情さえ切り捨てれば、最も犠牲が少なく済むかもしれん。


「いやぁ、犠牲が少ないのが1番でしょ?」


 そう言って笑った孫の顔は何とも眩しかった。

 村長も同じ気持ちだろう。子供の戯れ言と一蹴せずに受け入れたからな。


 しかし、村長はあんなに混乱した状態でよく子供の言葉に耳を傾けられたもんだな。


 はっ! 案外【商い】のスキルの一端に交渉に関係するものがあるのかもしれねぇな。


 しかしまぁ、作戦が決まったならあとはできる限り準備することだ。急がねぇとな。


………

……


 村長からこの防衛戦の指揮を任された。


「じいちゃん、盗賊の見張りは動いてない。こっちの動きはバレてないと思う」


 盗賊側も【感知】系のスキルを持つ偵察を出してしているのだが、アーサーによると感知範囲はそんなに広くないらしく(というか、他人の感知範囲が分かることが驚きだし、単にアーサーの感知範囲が異常なだけなんだが)範囲外のところで準備を進めているためこちらの動きは悟られていないようだ。


「そうか、よかった」


 明るいうちに準備を終えることができ、今は盗賊が来るのを待ち構えている。


「あ、盗賊が動いたよ」


 いよいよ動きやがったか。

 こんな深夜に襲ってくるとは……いつもならぐっすり眠っている頃合いだ。数で勝るとはいえ間違いなく村は制圧されていただろう。アーサーに感謝だな。


「よし、こちらも作戦開始だ。まずは偵察から狙ってくれ。アーサー頼む」

「分かった!」


 こちらの作戦。

 いや、作戦と呼べるかどうかも疑わしい。

 

 アーサーだけがこの暗闇の中、感知ですべてを見渡せる。そして百発百中の弓の腕前を持つ。暗闇の中の一方的な遠距離狙撃が作戦だ。

 単にアーサー個人に頼り切っているだけとも言う。


 アーサーが撃ち漏らした盗賊を村の入口で撃退すること、これが村の男達の役目だ。


 矢は十分用意できたし、男達も準備万端で待機している。あとはどうなるかだが……。


――うぎゃあ――


 遠くから男の悲鳴が聞こえてきた。

 どうやら問題なく命中させたようだ。


「流石だなアーサー。次々行こう」

「うん!」


――バシュッ――

――バシュッ――


 と矢を射る音の数だけ悲鳴が聞こえてくる。


――いてぇ――

――ぐはぁ――


 ただ、その声はかなり小さく殆ど聞こえない。かなりの距離があるのだろう。


――待ち伏せか?――

――偵察は何やってやがる――

――狙撃されてるぞ――


 殆ど声が聞こえないため盗賊の様子はわからないが、想定していた最悪の状況――『狙撃されるのを覚悟の上での突撃』に備え緊張が走る。


「アーサー、盗賊の様子はどうだ?」

「混乱してるね。でも逃げ出すやつはいない。結構訓練されてる奴らだと思う。近くに狙撃手が潜んでると思って足が止まってる。全員が木を盾にして身を隠したから、ここからだと狙撃が難しくなっちゃった。ちょっと移動して射ってくるよ」

「気をつけてな。くれぐれも近寄るんじゃないぞ」

「分かってる」


 そう言って孫は颯爽と駆けていった。

 最悪の状況にはならず一先ずホッと息を吐く。



 しばらくするとまた悲鳴らしき声が聞こえてきた。

 相変わらず遠くて殆ど聞こえないが、順調に狙撃出来ているようだ。


――ぐぁっ――

――ぐっ、くそっ――

――やられた――


――気をつけろ今度は右から射ってきてるぞ!――

――この暗闇の中で正確な狙撃だと?――

――適当でもいい。こっちも撃ち返せ――


 こまめに位置を変えながらアーサーは狙撃を行う。

 何度か狙撃を繰り返すとアーサーは矢を補充しに戻ってきた。


「アーサー、状況はどうだ?」

「うん、盗賊の足留めには成功してるよ。大分戦力は削いだけど、盗賊も強化系のスキルを使って防御力を上げてる奴が多い。ここから先は時間かかるかも」

「アーサーは良くやってくれている。焦らなくていい。落ち着いてやってくれ」

「分かった」

「盗賊に変化があればすぐに知らせてくれ」

「うん」


――バシュッ――

――バシュッ――


 そして矢を射ってまたアーサーは駆けていった。


 作戦は今のところ上手く行っている。

 恐らく殆どの盗賊を仕留めたのではないだろうか?


 ただ、どうしても不安が拭えない。

 何故か妙な焦りがこびり付く。

 

 しばらくしてまたアーサーが戻ってきた。


「じいちゃん、ごめん。あと5人なんだけど一人メチャクチャ硬いやつがいてそいつを盾にして突っ込んでくる」

「いや、助かった。そこまで減らせれば勝てる!」


「みんな聞いてくれ! 盗賊は残りたった5名だ! 村を守るぞ!」

――おおおおあおおおおおおおお!!!――



――バシュッ――

――バシュッ――


 アーサーはなおも矢を射続ける。

 いくら硬いと言っても衝撃を逃がせるわけではない。

 ダメージは蓄積されていくし、暗闇の中の狙撃され続ければ精神は擦り減る。ここに来るまでにかなり消耗させられるはずだ。


「続けぇ、皆殺しだぁ!!!」

――おおおおおおおおお!!――


 盗賊が迫ってきていた。かなり近づいてきている。

 アーサーの矢をものともしない強敵だ。

 恐らくワシよりも強いだろう。


 皆で戦えば勝てる自信はある。いや、勝たねばならん。

 そのために可能な限りの準備はした。しかし何人が犠牲になるか。


「ひえっ、来たぞ」

「お、お、落ち着けどってことねぇ」

「大丈夫だぁ、怖かねえぞ」

「死にたくねぇ、死にたくねぇ」

 そんな心の弱さが伝わったのか盗賊を目の前にして皆にも恐怖が広がる。



――バシュッ――

――ぐあっ――


「あと4人」

「良し!」

 この土壇場でアーサーが更に盗賊を仕留めた。


――バシュッ――

――ぎぃやっ――


――おおおおおおおおお!――

 迫る盗賊が一人、また一人倒れていくのが皆にも分かり歓声が上がる。



――バシュッ――

――がはっ――


――おおおおおおおおおおおおおお!――


――バシュッ――

――ぐえぇっ――


――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!――

 歓声が次第に大きくなる。


「あと一人」

「すごいぞアーサー!」


 何がすごいって、アーサーの放った矢はえげつない程の魔力を纏っていたからだ。

 いつの間に覚えたんだ? 


 いや、間違いない今だな。

 硬いと言っていた盗賊のスキルは恐らく【魔装】だろう。【身体強化】でも似たようなことが出来るとは言え、敵のスキルを見様見真似でものにしやがったんだ。

 【魔装】は武器や防具に魔力を纏うスキルで、強力な盾にもなるし武器にもなる。

 ただ飛び道具に魔力を纏わせるのは難易度が跳ね上がるはずなんだがな。

 あれはもはや【魔弾】と言われる【魔装】の上位スキルだぞ。

 しかも、一発一発に込められている魔力が尋常ではない。

 ありゃあ【魔装】でも防ぎ切れんだろう。盗賊に同情の余地はないが、こうも一方的だとご愁傷様と言いたくもなるな。


――バシュッ――

――ぐぅっ――


「じいちゃん、全員仕留めたよ」

「よくやったアーサー! 本当によくやった!!」


「皆聞いてくれ、盗賊はすべてアーサーが仕留めた。この戦いは我らの勝ちだ!!」


――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!――


 真夜中に勝利の雄叫びが響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ