第5話 村の危機
初ブックマーク頂きました。
ありがたいです。
「鹿肉〜、鹿肉〜」
今朝から僕はウキウキしていた。
僕だけじゃなくて、家族皆もなんだけどね。
感知できる範囲も段々広くなり、昨日の夜は鹿の群れと思われる魔力を感知した。場所は結構遠いんだけど、鹿の肉が食べられるとみんなワクワクしている。
何せ広範囲を感知出来ちゃうから、僕とじいちゃんは狩りに出かけて手ぶらで帰ったことがない。
ばあちゃんも「食べ物の心配をしなくて良くなった」と喜んでいる。
農村の人たちからも最初は歓迎されていない感じだったけど、少くない量のお肉をお裾分けしてることで今ではすっかり受け入れられている。
そんなわけで今日も元気に頑張りましょう!
僕とじいちゃんはかなりの速さで山を駆けて鹿へと向かっている。レベルが上がったこともあるけど、【身体強化】を繰り返し使ったことで筋量が増し、体力も大幅に増したからだ。素の状態でも最初の頃とは見違える程強くなった。
加えて野山を駆けることが上手くなった。今ではじいちゃんからも「商人じゃなくて狩人にならねぇか?」なんて言われるくらいだ。
山二つを越えるのに恐らく半刻も要していない。
「じいちゃん、ここから狙撃する」
「おう、そうか」
後ろにいるじいちゃんは少し困惑気味に答えた。
ちなみに、目視できる場所に鹿はいない。
ここからしばらく先に進むと、崖のような急な斜面があり沢がある。
鹿たちはその沢で水を飲んでいる。
念入りに周囲を感知して、木々の配置、風の向き、鹿の動き、全てを把握する。
矢の軌道を思い描き矢を番えると【身体強化】を使って弓を引く。
弓は強化系のスキル持ち、もしくは高レベルの身体能力を前提とした剛弓。それを造作もなく引く。
――ヒョウ!!――
空気を切り裂き、放たれた矢が突き進む。
死角から放たれた矢は木々の合間を縫い、一撃で雄鹿の眉間を射抜いていた。
群れのボスが倒れると、他の鹿達が一斉に駆け出す。
その様子を感知した僕は笑顔をじいちゃんに向ける。
「やったよ! 大物仕留めたよ!」
「お、おう! 流石アーサーだ。よくやった!」
二人で喜び勇んで沢まで駆け下りた。
丁度沢で仕留めたこともあり、その場で血抜きをした。
………
……
…
解体しながら僕とじいちゃんは後悔していた。
僕が仕留めた鹿は魔鹿という魔獣だったんだけど、じいちゃんよりも背の高い鹿だった。
つまり大きすぎたんだよね。
村からも距離があるし、全部を持って帰ることは出来ない。
【アイテムボックス】があれば!
と何度思ったことか。
でも、無い物ねだりをしても仕方がない。
素材として価値の高い角(じいちゃんが教えてくれた)と毛皮、そして持てるだけの肉を持って帰ることにした。
「全部持って帰れなくてごめんなさい」
僕は魔鹿に謝罪した。
それは魔鹿を殺めたことに対してではなく、奪った命を全て自分たちの糧に出来ないことに対しての謝罪だ。
「持って帰れなかった肉は他の動物や虫たちにお裾分けします」
『奪った命に対する敬意を忘れないこと』それがじいちゃんから教えてもらった狩りの心構えだった。
次は持ち帰ることまで考えて狩りをしょうと反省した。
帰りの足取りは思っていたより軽かった。
もしかしたらまたレベルアップしたのかもしれない。
解体しながら何度も感謝を捧げたけど、再度魔鹿に感謝を捧げたのだった。
………
……
…
村に近づくと感知に異変を感じた。
「じいちゃん……」
「ん? どうした?」
「村から少し離れた所に何十人と人がいるんだ……」
「行商人じゃないのか?」
「うーん。その割には馬車が見当たらないんだよね。それと魔力が……この感じだとじいちゃんよりも強い人が何人かいるかも。ちょっと嫌な予感がする」
「何だと!? 【身体強化】全開で帰るぞ。行けるか?」
「うん! 僕は大丈夫。それよりじいちゃんの体力が持つのかが心配」
「言うじゃねぇか遅れるなよ!」
………
……
…
村に着いた僕とじいちゃんは荷をおろし、村の外にいる集団の偵察に向かった。
「ハァハァ、じいちゃん。あそこ見える?」
「ゼハァ、ゼハァ、ゼハァ」
じいちゃんは返事はなかったけど大きく頷いていた。
大丈夫かな?
「ゼハァ、ゼハァ、ありゃあ、ゼハァ、ゼハァ、間違いねぇ、ゼハァ、ゼハァ、盗賊だな、ゼハァ、ゼハァ」
盗賊!?
村が盗賊に狙われてるってこと?
大変だこりゃ!
このことを皆に知らせるために村長さんの家に向かった。
「村長、まずい報せがある」
「どうした? ジークか。何があった?」
「村の外れの森に50人ばかしの集団がいた。ありゃあ盗賊だ。もしかしたら今夜にも村が襲われるかもしれん」
「50人じゃと? 確かか?」
「ああ、この目で見た。しかも装備がかなり立派だった。もしかしたらどこぞの軍隊くずれか傭兵かも知れん。ワシより強そうなのが何人かいた」
「ジークより強いじゃと!? どうする、戦うか、降伏するか、どうすればいい?」
村長はひどく混乱していた。
「落ち着け、村長。言っておくがワシは一人でも戦うぞ。降伏しても奴らが手心を加えてくれる保証はねぇ。むしろ全部奪われる可能性が高い。見たところ奴らは緩みきっていた。実力があることの裏返しかも知れんが、襲撃がバレてるとは思ってねぇんだろう。頭数ならワシらのほうが多い、守りを固めれば返り討ちに出来るはずだ!」
「そ、そうか。流石ジーク。頼もしいぞ。そうだな。皆で力を合わせればきっと勝てるはずじゃ」
じいちゃんと村長さんは二人で襲撃に備えて色々と策を練リ始めた。
二人共襲撃は夜、皆が寝静まった頃だと思っているみたいだ。
もしかしたら盗賊が村を襲うのは大体その時間なのかな?
それならもっと僕が役に立てるかも知れない。
「村長さん、じいちゃん、ちょっといい?」