第40話 建国宣言
「おい小僧、国の名前はどうする? あと小僧の名前もアーサーのままってわけにはいかねぇぞ。家名はどうする?」
「えっと、適当に決めといてもらってもいいですか?」
「はぁ? バカ言ってんじゃねぇよ。国や皇帝の名前ってのは後世にも残るんだぞ。自分でしっかり考えて決めろ」
アルバにアツィーノさんと何人かの部下たちを連れてきてもらい帝国の新たな統治体制を整えているところなんだけど、どうやら国の名前を変えなきゃいけないみたい。あと一応王様になるから僕に家名も必要みたいで、こればっかりは僕が決めることになってしまった。
でも名前とかつけたことないからよく分かんないんだよね。
うーん。どうしよう。
どうせならカッコイイ名前がいいけど、それを考えるのが中々難しい。今までカッコイイと思った家名ってあんまり無いんだよね。
それに仮にいいと思った家名があったとしても同じ家名にするわけにもいかないし。
まぁ、ここは年配者の知恵に頼ろう。
『ねぇ、アルバ』
『どうした主殿?』
『なんかいい名前ない? 国の名前と家名を考えなきゃいけないんだけど、全然思いつかなくてさ。アルバなら良さげな名前思いつかない?』
『ならば我の名前はどうじゃ? グランディーヌレクスには「偉大なる王」という意味がある』
『おお、いいね。名前に意味があるってカッコイイ。アーサー・グランディーヌレクス······か。うーん。ちょっと長いかな?』
『なれば少し縮めてグランレクスではどうじゃ?』
『お、いいんじゃない? アーサー・グランレクス。うん。いいかも。何かカッコイイし』
『国名には我が守護する国という意味を込めて「グランレクス竜帝国」はどうじゃ?』
『うん。いいんじゃないかな。ちょっとアルバを前面に出し過ぎな気もするけど?』
『当然であろう。我であるからな』
『まいっか。名前は悪くないしね。でも自分が名付け親なんだからちゃんとこの国を守ってよね』
『無論。主殿の国じゃからのう』
『じゃあ、決まりだね』
僕が長い間行商に行ってもアルバが見守ってくれるから安心だね。
「······ってことで家名はグランレクス。国名はグランレクス竜帝国にしました」
「おうっ、随分早いじゃねぇか。ちゃんと自分で考えたのか?」
アツィーノさんの指摘にドキリとする。
「あ、うん。アルバがいい名前を提案してくれたんだよね」
「成程な。アルバ様の名付けた国か。ならアルバ様が存命の限りこの国は安泰だな。じゃあ次は全国民への建国宣言を頼む」
うっ。人前で話すのって気が引けるんだよね。
「ええぇぇ、そういうの苦手なんだよね。何て言ったらいいか良く分かんないし」
「まぁ今までどんな王もやったことがないことだしな。最悪自分の名前と国の名前を伝えりゃいいさ。これが終わったら行商でも商売でもなんでもしてくれて構わねぇからよ」
えっ、名前と国の名前だけでいいの?
それと思ったよりあっさりと解放してくれるんだね。
やった。
「本当!? じゃあやるよ。やるやる」
早速魔力を展開して地上を覆う。
帝国の正確な範囲がよく分からないから大陸全体を魔力で覆ってみた。案外消費した魔力は大したことなかったな。魔力的には全然余裕だ。
あれ、でも何て言えばいいんだろう?
『主殿。バカげた魔力を展開しているようだが、これから何をするのじゃ?』
『ああ、国民に建国宣言をしないといけないんだよ。何て言ったらいいのか良く分からないから名前と国名を伝えようかなと思ってるんだけど……』
『メッサの奴も適当よな。前代未聞の偉業故、最低限の挨拶でも良しとしたのやも知れんが、そこはしっかりと挨拶すべきじゃぞ。我でよければ事の成り行き含めて簡単に前置きするが?』
『あ、じゃあお願いするよ』
『承知した。では……』
魔力の範囲内にいる人に風魔法の【第7現魔法:伝声】を使う。
これで僕とアルバの声が遠くの人に聞こえるようになる。
――アークドイン帝国の全国民に告ぐ――
脳を揺さぶるような力強い声が頭に響いた。
――この声は夢でも幻でもない。偉大なる我が主の力によりこの大陸に住まう全ての者に届けられている――
――帝国の民もそれ以外の者も心してこの声を聞け――
――我は白竜「アルバ・グランディーヌレクス」。この大陸の覇者たるドラゴンである――
――此度我が主の配下たる鬼人族により帝都アークは主の支配下に置かれた――
――首魁であるヒース・ドイ・アークドインは鬼人族の手により捕えられ現在幽閉中である――
――近く民の前にてこの者の処刑が行われる――
――慈悲深い主殿は無駄な犠牲は好まぬ故、他の王侯貴族は条件付きで助命されることとなる――
――謀反を起こしたいものは起こすがいい。強き者が民を治めるのは自然の摂理。偉大なる主と我に歯向かう気概のある者の挑戦は歓迎する――
いや、何さりげなく喧嘩売ってんの!
だめでしょ。喧嘩売っちゃ。
――悪政を敷いた愚帝は倒れ、本日新たに我が主を皇帝とした帝国が誕生する――
――では帝国の民よ、大陸の住民よ。我が主の建国の声を聞け――
『主殿。宣言を』
あ、僕の出番ね。
『え~、僕の名はアーサー・グランレクス。ここにグランレクス竜帝国の建国を宣言します!』
他の挨拶は全然考えてない。だから本当に最低限の言葉しか出てこなかった。
――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――
おそらく鬼人族の面々であろう声が帝都のいたるところから挙がった。
――以上が新たな皇帝、アーサー・グランレクス様のお言葉である――
――帝国の民よ、歓喜するがいい――
――グランレクス竜帝国は我と主の守護のもと大いなる発展を遂げるであろう――
――ではこれにて建国宣言を終える――
なお、この建国宣言を聞いたアーサー縁の者意外は皆アルバの声に震え慄き、周囲の全ての者が同じ言葉を耳にしていたことを確かめると殆どの者が建国宣言を信じたという。
そしてドラゴンが建国に関わるという前例のない出来事に大陸中の国々に激震が走ったのであった。
ただアルバの印象が強すぎたこととアーサーの宣言があまりに短かったことで、アーサーの印象は殆ど残らずその名前のみが人々の記憶に留まるのであった。
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