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第38話 僕は商人になりたいんですけど

 帝国の偉い人達と取引成立したから、鬼人族の里が報復されることはないと思う。

 大丈夫だよね。


 一応里に攻めてきた軍団を【感知】したら、もう完全にバラバラになってたね。


 鬼人族の問題は一先ずこれで解決かな?


「若、我らは若こそが帝国の支配者に相応しい御方であると思うておりまする」


 んんん???


「えっ!? エイケツさん。ちょっと意味がよく分からないんだけど」


「若、我等のためにも是非この国の王にお成りくだされ」


 んんん???

 どうしちゃったかな?


 どうしてそういう流れになっちゃってるのかな?

 僕は商人になりたいんですけど?


 っていうか、8歳の子供に求める事じゃなくない?


「あの、鬼人族のためということであればエイケツさんが皇帝になればいいんじゃないですか?」

「強き者が民を治めるのは至極当然のこと。若にはその資格が十分ありましょう。我が治めることになればこの国は割れ申す。そして多くの弱きものが犠牲になりましょう」


 国が割れる?

 どうしてそんなことになるのか僕にはよく分からない。

 でもそれで弱い人たちが犠牲になるって言われると困る。


「あ、いや、そう言われても良く分かんないですよ。僕が治めたら国がとんでもないことになると思いますよ? どうやっていいか良く分かんないですし」

「であれば、知恵のある者、信の置ける者に政を任せればよいこと。若が悩むことはありませぬ。肝心なことは若が王となれば取引をした者共を大人しく御せること。反乱の芽、争いの芽を摘めることにありまする。それが真に鬼人族に平和と安寧をもたらすものと信じておりまする」


 うーん。エイケツさんにそう言われると断りにくい。

 でも皇帝なんかになったら商人になれないよね?


「エイケツさんは知ってると思うけど、いつも言ってるように僕は商人になりたいんですよ」

「『契約の鎖』で結ばれた者とは【意思疎通】が可能であれば商人として旅をしながらも王として必要な決断も下せましょう。全く問題ありませぬ」


 え?

 ちょっと待って。


 それって、単に僕の仕事が増えるってことじゃない?

 それにこういうのって僕が一人で決めていいことじゃない気がする。

 マイルドさんとアツィーノさんにも確認しないと。


「すいません。これはアツィーノさんとマイルドさんに相談したほうがいいかなと思うんですが、ちょっとお時間下さい」

「はっ。いくらでも待ちまする」



『……ってことで皇帝にされそうになってるんですけど、やめといたほうがいいですよね。ほら、僕って商人が向いてると思いますし』

『そうだな』

『そうですね』


 うんうん。やっぱりやめといたほうがいいよね。


『エイケツが言うように小僧が皇帝になるべきだろ』

『エイケツさんの言う通りでしょう』


 ええ?

 えええ? そっち?


『黙って、皇帝になっとけ。俺が補佐すりゃいいだろ。悪いようにはしねぇし、出来るだけ小僧の商売の邪魔にならないようにするからよ。やってみて無理そうなら投げ出したっていいさ。敵国だからな。崩壊してくれて全然構わん』


 アツィーノさんが助けてくれるならやってもいいかな。

 殆ど丸投げにしても大丈夫そうだし。


『それに商売をするなら権力者との縁は大きな助けになるからね。商売上も皇帝という地位は絶対役に立つよ』


 そうか。そういうものか。

 商売に役立つなら皇帝になるのも悪くない気がする。


『わかりました。では一応皆さんの言う通り皇帝やってみます』

『おう、そうしとけ(ニヤリ)』

『ええ、それが良いでしょう(ニヤリ)』


『はい、相談して良かったです。ありがとうございました』


 そんなこんなでアツィーノさんとマイルドさんの助言もあり、エイケツさんの提案を受け入れることにした。


 なんか上手く乗せられちゃったような気もするけど、まぁいいか。

 問題があっても戦いなら負ける気がしないし、取引すれば何とかなるだろうし。

 

 あれ? そういえば言われるがままに貴族の人たちと取引しちゃったけど、それ断ってたら皇帝なんてならずに済んだ可能性ある?

 確かに必要だなとは思ったけど、……あれ? 僕ってばいつの間にそんな罠に?


 うーん。まぁ、いいか。

 細かいことは気にしない。


 だって鬼人族の皆が安心して暮らすために必要なことだったからね。仮に過去に戻ってやり直しが出来たとしても取引するだろうし。


 面倒なことはアツィーノさんに丸投げにして商売に励もう。


「エイケツさん、皇帝になる件ですが受けることにしました。実際は殆ど大人の皆さんに丸投げになっちゃうと思いますけど」

「おお、受けて下さいますか! 若の英断に感謝致しまする。これで鬼人族の安寧も保証され申した。虐げられている帝国の民も多くの者が救われましょう。鬼人族一同も若の配下として今後も励んでいきまする! 何卒宜しくお願い致しまする」

「はい、宜しくお願いします!」


 ん?


「って、ちょっと待って。勢いで流されちゃったけど、何かさらっと鬼人族の皆さんが配下になってない?」

「何を今更。我等は若の偉大な力と優しき心に皆心酔しておるのです。これからは皇帝となり何十万、何百万もの民の上に立たれるのであれば数百ほど増えたところで問題ありますまい」


 えっ、そういうもの?


「いや、鬼人族の皆さんはもっと特別というか……他の人よりもっと近い存在というか……」

「なれば、何卒我らを直臣に! 叶うなら近衛に召し上げて頂ければこれ以上の誉れはありませぬ!! 何卒我らを若のお側に!!」


 ち、近い。

 何か圧がスゴイ。必死過ぎる。


「わ、分かりました。分かりましから。それでいいですからこれからも宜しくお願いします!」

「はっ、有難き幸せ」


 エイケツさんを始め鬼人族の皆さんが片膝をついて跪いた。

 ゴウケツもそうだけど、鬼人族の人達ってちょっと堅苦しいとこあるよね。

 まぁ、別に嫌ではないんだけど。


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