第34話 迫る厄災
◇アークドイン帝国・帝都アーク◇
「伝令! 南西上空より白竜が接近しています。凄まじい速度でここ帝都に直進しています!」
「白竜だと!? 冗談ではあるまいな?」
「冗談でも、見間違いでも、訓練でもありません。間違いなく間違いなく白竜です! あっ! あっ! あっ!」
「どうした!? 何があった!?」
「白竜が、半里程離れたところで滞空したまま此方を見据えています!」
「め、『滅竜砲』を発射準備にて待機せよ。上の指示を仰ぐ。絶対にこちらから手を出すな!」
「はっ! 既に発射準備は完了しております。いつでも射撃可能です」
「ならば絶対に刺激するな。命令あるまで絶対に発射してはならん!」
「はっ!」
突然の白竜の襲来に帝都は騒然とした。
多くの人々の「そのまま飛び去ってくれ」という願いも虚しく、白竜は帝都を見据え続けていた。
「陛下、非常事態故無礼をお許し下さい。只今帝都の南西に白竜が出現しました。現在城壁から半里ほど離れたところで此方を見据えているとのことです。防衛に関しては『滅竜砲』、『神槍』共に発射準備の状態で待機、金獅子師団、宮廷魔法師団は城壁に展開、皇室近衛兵団は皇宮に配備済みです」
「は、白竜だと!?」
将軍からの突然の報告にアークドイン帝国皇帝、ヒース・ドイ・アークドインは目を見開いて声を上げた。
帝都への竜の襲来は建国以来初めてのことであった。
「はっ。ただ、今のところ白竜は此方を静観しており直接的な被害は出ていません」
「余が一体何をしたというのか」
竜の襲来を天の裁きと捉える者も多い。
裁きを受けるほどのことをしたのかと皇帝は声を張り上げる。
この緊急時に問題への対処ではなく、責任逃れをしようとしていることからも傑物ではないことが伺える。
その皇帝の言に側に控えていた宰相が答えた。
「陛下が大道を歩まれていることは疑いようもありません(不徳の心当たりが多すぎるわ)。ただ、報告を聞く限り白竜の行動には何らかの意図を感じますれば、予知の勇者に話を聞くのが得策かと」
「う、うむ。そうしよう。流石ルイーズだ。おい、勇者を呼べ」
ただ、勇者を呼びに行ったはずの侍従は一向に戻ってこなかった。
「遅いっ!! 一体何をしている!」
皇帝のいら立ちは募る。
そこからさらに時を置いて、勇者を呼びに行った侍従が戻ってきた。
「恐れながら、勇者様がたが城内に見当たりません!」
「何だと!! どういうことだ!?」
皇帝の怒気に侍従は身を震わせる。
皇帝は侍従を問い詰めたが、ルイーズを始め周囲の者は何が起きたのか察していた。
何せ【予知】の勇者がいるのだ。
竜の襲来を予知し、安全なところに身を隠したのだろう。
自分が【予知】を使えたなら間違いなくそうする。とルイーズは思う。
「陛下、恐らくこの事態を予知して身を隠したのでしょう。軟弱な異世界人の考えそうなことです」
「あの恩知らず共が!!」
「勇者は引続き捜索するとして、白竜は何とかせねばなりません。今のところ被害が無いとは言え、このまま居座られては商人たちも怯えて物流も滞りましょう」
「ならばどうする? こちらが何か言ったとて耳を貸す相手ではなかろう? いや、待て。何を恐れることがある。こういう時のために『滅竜砲』と『神槍』があるではないか。むしろ白竜を討ったとなれば箔がつくというもの」
(ああ、成程。だから勇者共は逃げたのだ)
ルイーズはこの先の未来を垣間見た気がした。
魔道兵器で白竜が討てるなら勇者は逃げることはなかっただろう。
逃げたということは、魔道兵器でも仕留められず白竜の怒りを買ってしまうのかもしれない。何としてもそれだけは避けねばならない。
「陛下、それはしばしお待ち下さい!······」
ルイーズは必死に説得を試みる。
しかし、皇帝は一度こうだと思い込んだら人の意見に耳を貸すような人物ではないことをルイーズはよく知っていた。
結局、ルイーズの必死の説得は徒労に終わるのだった。
◇アルバ◇
ふむ。
近寄れば撃ってくると踏んでおったが、そうでもなかったか。
考えなしに我に喧嘩を売るほどうつけではなかったようじゃな。
はてさてどうしたものか。
住民に被害を出さぬように、離れているところに撃ってきてくれたらよかったのじゃが。ちと遠すぎたかのう?
も少し近寄ってみるか?
まぁ、元々ふざけた名前の魔道具は破壊するつもりじゃったし。近寄っても問題なかろう?
出歩いてる輩も見当たらぬし。
何か主殿に仕えるようになってから人族に配慮し過ぎになってるけど我って竜じゃし。厄災の類じゃし。元々人族に配慮するような存在じゃないし。
うむ。問題ない問題ない。
◇帝都◇
「タレス将軍、白竜が動きました! こちらに近づいてきます。指示を、指示を願います!」
「狼狽えるな。たった今陛下より白竜討伐の命が下された。ただし、必ず仕留めるようにとのお達しだ。仕留め損ねた場合、我らだけでなく帝都に住まう全ての者の命はないと知れ! 必ず仕留めるのだ! 失敗は許されん! 指揮は俺が執る」
「はっ(マジかよ)」
皇帝より命を受けた金獅子師団を率いるタレス将軍は城壁に立ち白竜を見据えた。
「あれが白竜か。翼竜とは比べ物にならん。何と言う凄まじい魔力だ(この距離でも押しつぶされそうだ)。」
タレスは自らの顔に拳を叩き込み喝を入れる。
そして兵に対し声を張り上げる。
「よいかっ! これより我らの命は既に無いものと思えっ!」
――はっ!――
「決して怯むなっ! 怖じけるなっ! 自らを省みるなっ! 今恐怖に押し潰され命令を遂行出来ない者は自ら命を断てっ! そうすれば少なくとも真っ当に死ねる! 我らが対するは厄災の一角たる白竜だ! あれを仕留めぬ限り我らは勿論帝都の民の命はないっ! 同じく死ぬならば勝利に繋がる意味のある死を仲間に捧げよう! アークドインに栄光あれっ!」
――アークドインに栄光あれっ!!――
「これより帝都防衛戦を開始する! 目標、前方上空の白竜! 『滅竜砲』一番から三番、発射準備っ!」
――準備よしっ!――
「機関銃一番から9番、発射準備っ!」
――準備よしっ!――
「撃てぇっ!」
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