第33話 焦る厄災
竜が人里に姿を現すことは滅多にない。
そして翼竜等とは違い、人がどうこうすることが出来ない存在であり、一度人里に姿を現すと壊滅的な被害を齎すことから天災・厄災に並べられる。
アルバに目をつけられた帝都の人々にはご愁傷様としか言えない。
一応、住民に被害が出ないようにとは言っておいたけど、アルバは大雑把だからね。どうなるやら。
エイケツさん達にとっても「天が味方した」くらいの感覚なんだと思う。
ただ帝都までは結構遠い。時間的な問題がある。
「ウィングさん、ここから帝都まではどのくらいかかりますか?」
「人の足ではおよそ2ヶ月、翼竜であっても3日は要します」
「うーん。普通に飛んだらとてもじゃないけど追いつけないね。今のアルバの速度なら3刻もあれば着いちゃうかも。となると、アルバが満足して去った後にエイケツさん達が到着することになるでしょ。一応住民には被害を出すなと言っておいたから、手は出さないと思う。多分。ただそうなると、エイケツさん達が到着するまでに補給が終わって防衛機能が回復してるかも知れない」
「若、そうであってもこの好機は逃せません」
「まぁ、アルバが動いたんだから僕が動いても問題よね? 差し支えないなら移動に関しては手を貸すよ」
「ならば是非も無し。お願い致します」
「わかった。任せて」
即答だった。
そんなわけで僕も少し手を貸すことにした。
「申し訳ない。状況が理解できてないのだがアルバとは何か教えてもらってもいいだろうか」
ウィングさんが申し訳無さそうに質問してきた。
「ふっ。すまんな。そう言えば貴様には言ってなかった。アルバ様とは竜だ。翼竜などではない本物のな」
その問にエイケツさんが答える。
「り、竜!?」
想定外の答えだったのかウィングさんの目玉が半分以上飛び出ていた。
「その竜が帝都に向かっていると? というか竜に命じたようなことをそこの『若』様が仰っていたように聞こえたのだが?」
「そうだ。若こと、アーサー様はアルバ様の主でもある」
「な、何ですと!? 主!? そんな馬鹿なことが······いや、竜を従える少年の加護を受けていたのだとすれば貴殿らが短期間で凄まじい力を手にしたのも合点がいく……」
「そうだ。我らの力こそがその証明だ」
「竜が制御されているというならば、帝都の住民は大丈夫と思っていいのだろうか?」
ウィングさんは不安な表情を浮かべていた。
「そうですね。アルバが怪我を負って我を忘れることがなければ大丈夫だと思います。【轟爆】と同程度の『滅竜砲』であればアルバに怪我を負わせることは出来ないだろうけど『神槍』の方は威力がイマイチ分からないので何とも言えないですね」
まぁ、それでも契約の鎖で制御してるから暴れることはないと思うけどね。
そう言うとウィングさんは暗く沈んでしまった。
「だからアルバに追いつけるように僕がお手伝いします。ただそれにはウィングさん達の協力が必要です」
「分かった。何でもする。必要なことがあれば言ってくれ」
ウィングさんはばっと顔を上げて答えてくれた。
「では契約成立ですね」
そう言うと「かっ」と光が放たれウィングさんと契約の鎖で繋がったのだった。
その後、ウィングさんの部下全員と翼竜全てと契約した。
翼竜達は飼い慣らされていることもあり『エサを与えてくれるなら何でも言うこと聞くッス』とシルバー並みに軽い感じで契約出来た。
じゃあ、急いで行きますか。
「では、これより我らはアークドイン帝国の皇帝を討つべく帝都に向う。皆の者覚悟は良いか!」
――応っ!!――
「捕らわれた同胞を救い出し、我ら鬼人族の自由と尊厳を取り戻すのだ!」
――応っ!!――
「大義は我らにある。一人も欠けることなくまた盃を酌み交わそうぞ!!」
――応っ!!――
「出陣!!」
エイケツさんの号令で30騎の翼竜が飛び上がった。
さて、ここからは僕の出番だね。
普通に飛んで行ってはアルバに追いつけない。
まず30騎の騎竜を【障壁】で包む。
翼竜1頭につき竜騎士が一人、鬼人族が一人搭乗している。
移動速度を考えるなら一人乗りにすべきなんだけど、僕が手助けするからそこは気にせず効率を重視した。
「皆、衝撃に備えてね。行くよ【第8現魔法:爆墳】」
――ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――
【爆墳】は【爆轟】の威力を集約したような魔法で1点の破壊力については凄まじいものがある。それに耐えうる【障壁】を展開しつつ【爆墳】を推進力にして翼竜は空を突き抜けるように進む。
「ごはっ。くっ……何たる加重だ。……が、くはは。何たる速度だ! こんなことが人に可能なのか!?」
ウィングさんが思わず叫んでいた。
僕自身も含めて31の【障壁】と【爆墳】を維持しつつ突き進む。
うん。この速度なら途中でアルバに追いつくな。
しばらくして絶界の境界付近まで来ると、1万の超獣軍団が見えてきた。
軍団……というか、超獣たちは散り散りに逃げて散開している。
「おお、これは……敵軍は崩壊しているのか!?」
エイケツさんを始め鬼人族の面々から歓喜の声が漏れた。
これはアルバが通りすぎる際に威嚇でもしたのかな?
軍の体裁を保てないなら絶界の怪物たちに対抗できないだろうから駆逐されていくしかない。
運よく絶界を抜けた兵が軍を再編するにも時間がかかるだろうから、超獣軍団への対応は帝都での戦いを終えてからでも十分間に合いそうだね。
僕もちょっと【威圧】しておこう。
――ズドンッ――
僕の威圧で恐怖を上塗りされた超獣たちはさらに加速して四方へと散っていった。
これで鬼人族の里に攻めむのを諦めてくれたらいいんだけどね。
まぁ、少なくとも時間は稼げるでしょ。
あ、今の【威圧】でアルバが僕に気づいたっぽい。
何か加速してるんだけど?
あれ? もしかして僕から逃げてる?
何で?
『アルバ、何で逃げるの?』
『(ギクッ)な、何のことだ? 我は逃げてなどおらんぞ』
『まさか僕が見てないところで暴れようとしてたのかな?』
『いや、それは断じてない。追われているから何となく追いつかれたくなかっただけじゃ。単に負けず嫌いなだけで逃げているわけではないのじゃ』
まぁ、アルバらしいといえばアルバらしい理由だな。
『でもその割には何か焦ってなかった?』
『そ、それは······主殿が事あるごとに我を地面にめり込ませるから、また何か仕出かして追いかけられているのかと思ったからじゃ。我は無罪なのじゃ』
あれ? 僕ってそんなにアルバをめり込ませてたっけ?
うーん。覚えてないなぁ。
まぁ、小さいことは気にせずとにかく急ごう!
マイペースで申し訳ないですが久々に数話アップしました。(勿論これからもアップしていきます)
ペースは遅いながらもエタらせません。
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作者はとても喜びます。モチベーションが上がります。
今後とも宜しくお願い致します。




