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第32話 重苦しい会議

 合流した時にはエイケツさん達は危な気無く竜騎士隊に勝利していた。まぁ、【感知】で把握してたから知ってたけどね。


 で、今は今後に向けた作戦会議をしている。 


「翼竜を容易に撃ち落とす魔道兵器ね……」


 そんなものまであるのか。


 ちなみに翼竜を制御する手綱も魔道具で、意のままに……とまではいかないが実戦に投入しても問題ないくらいには翼竜を制御することが可能らしい。


 手榴弾といい、帝国の技術は凄いものがある。


「そんなものがあるなら当初予定していた奇襲では返り討ちになる可能性が高くなりそうだね」

「その魔道具の性能と数にもよるかもしれませぬが、多少の犠牲は覚悟する必要があるかと」


「えっと、ウィングさんだっけ? その魔道兵器について詳細を知っていたら教えて」

 エイケツさん曰く、敵将のウィングさんは単に降伏するだけじゃなくて僕らに協力してくれるらしい。


 腐りきった帝国の皇侯貴族たちを倒してくれるなら大歓迎だと言っていた。ウィングさんが忠誠を捧げる対象は支配層ではなく国民らしい。


 ただ、何か見た感じ兄貴と子分みたいな感じで完全にエイケツさんに従っている気がする。

 一応「騙したら承知しないよ?」という問いに「はい」と返事をもらっているから嘘ではない。


「はっ。帝都を守る魔道兵器は『滅竜砲』と呼ばれています。正式な名前は『ミサイル』言うそうですが、皇帝が武威を示すために通称を変えました。こちらは巨大な筒のような矢を魔力で撃ち出すもので、標的に当ると凄まじい熱と爆風を生み出します。噂では第六現魔法の【爆轟】と同等の威力があるとか。また射程も長く数里を超え、熱や魔力を感知して軌道を調整して命中します。撃ち出される速度も翼竜の何十倍にも達するため避けるのは困難です」


「何だと……それ程の魔道具が存在するというのか……」


 エイケツさんも『滅竜砲』の凄まじさに驚いている。

 勿論僕も驚いているんだけど、それよりも気になることが。


「えっと、『こちらは』……ってことは別の魔道兵器もあるってこと?」


「はい。皇宮を守る魔道兵器は別にあり『神槍』と呼ばれています。名付けたられた元々の名前は『レーザー』だったかと思います。これも皇帝が通称を変えました。こちらは凄まじい力を持った光の槍です。放たれた瞬間に標的は貫かれます。射程が伸びれば伸びる程威力は落ちる様ですが、『滅竜砲』以上の有効射程があると言われています。『滅竜砲』は弾を撃ち尽くせば終わりですが『神槍』は魔力さえ供給すれば放てるため弾数に制限はありません」


 神槍? 弾数に制限がない?

 おまけに遠くから一方的に撃たれる。


 そんなのどうしようもないよね?


「こりゃまいったね。そんなすごい兵器なら近づくのも無理じゃない?」

「訓練で試射されたのを一度だけ見たことがありますがあれらをどうこう出来るとは思えません。何せ『勇者』の手によるものですので」


「勇者? ……って何?」

「『勇者』とは帝国が召喚した異世界人のことです。我々の世界よりもはるかに高度な文明の住人だったようです。何故か自分たちのことを『勇者』と呼んでいるため我々もそのように呼んでいます」


 異世界人?

 そんな人が、そんな世界があるんだ。すごい。何かわくわくする。


 というか、自分たちってことは……。


「その勇者って何人もいるの?」

「はい。と言っても召喚はそうそう出来るものではないとのことで、私が知る限り3名のみです。いずれも特殊なスキル持ちでそれぞれ【予知】、【魔道具生成】、【癒しの御手】というスキルを授かっています」


 あ、【予知】の人って異世界人だったんだ。

 というか、【魔道具生成】も【癒しの御手】も聞いたことないスキルだけど名前からして凄いスキルっぽい。


「じゃあ、その中の【魔道具生成】ってスキルで強力な魔道兵器を作ってるってこと?」

「そう聞き及んでいます」


「ちなみに、1万くらいの規模の帝国軍がこっちに進軍中なんだけど、ウィングさんはどう思う?」

「おそらく、鬼人族の謀叛は【予知】されているのでしょう。となれば、勝てると見込んだ兵力を投入しているのかと」


 まぁ鬼人族数百人に対して1万の超獣部隊だからな。

 うーん。レベルはこっちが上だろうけど犠牲を出さずに勝つの難しいかもしれない。


 でも鬼人族の人たちとも仲良くなったから出来るなら犠牲は出してほしくない。

 ただ、帝国に捕虜がいるから戦わないってのは無理だろうしな……。


 もっと早く動くべきだった?

 いや、でもそれはそれで予知されただろうし……ウィングさんの助言が聞けただけ良かったと思おう。


 それにしても、これは無理だね。

 うん。子供の僕にこの難問の答えを出すのは無理。


「エイケツさん、どうします?」


 僕にはどうするのが正解か分からない。だからエイケツさんに答えを丸投げしているわけではない。

 あくまでもこの戦いは鬼人族の戦いだからね。自分たちで答えを出してもらわないと。


 うん。これが正解だ。


 それにしても、異世界があるとか夢が広がるなぁ。

 さっさと問題を投げて異世界に想いを馳せる。


 現実逃避とも言う。


「少数精鋭で帝都に向かっても一万の軍に村は襲われるか……。加えて帝都は未知の魔道兵器で守られていると……。正に予知で我らの動きを見切ったと言わんばかりの兵数。だが1万の軍勢と言えども絶界に踏み込んで無事に通り抜けられるとも思えぬ」

「【魔道具生成】のスキルの発動には相応の材料が必要とのことで無尽蔵に魔道具を生み出せるわけではないようですが、それでも絶界のモンスターに対抗しうる魔道兵器が十分に投入されている可能性はあります。以前我らがここに攻めた時は2割の兵を損耗していましたが、損耗率はさらに低くなる可能性は高いと思われます」




 文明が高い世界ってどんなだろうね。

 おいしいお菓子とかいっぱいあるのかな?


 そんな感じで大人たちに作戦を任せていたらそのうち怒号が飛び交うようになった。


 ちょっとうるさかったら、そっと耳に【障壁】を張っておく。


 しばらくするといつの間にか皆黙ってしまっていた。

 いつの間にかとても重苦しい雰囲気になっている。


 あれ、会議は上手くいかなかったのかな?

 まぁ、人生は上手くいかないことだらけだ。


 僕だって商人になりたかったのに、商人らしいことが全然できていないからね。

 強いモンスターの素材の仕入れくらいしかできていない。


『アルバ、皆黙っちゃったんだけど、どうしたらいいと思う?』

 そう言って【意思疎通】で会議の問題点を送る。


『ほう、魔道兵器か面白い。「滅竜砲」とはよく言ったものだ。「神槍」? 人族ごときが神を語るとはおこがましい。魔道具ごときにそれほどの力があるのか我が見てくるとしよう』

『あれ? 戦いは鬼人族に任せるんじゃないの? 手助けしてほしいとか言われてないけど?』

『主殿、あくまで我は魔道兵器とやらの性能が名前通りのものか試しに行くだけじゃ。戦いに行くわけではないぞ』


『あぁ、そういう建前ね。アルバも優しいところあるんだね』

『ち、違うぞ。大層な名前を付けた人族の高慢な鼻っ柱を圧し折りに行くだけじゃ』


『じゃあ、行ってもいいけど。住民に被害が出ないようにしてね』

『ふふ、承知』


 そう言うとアルバは暴風を巻き起こし飛んで行ってしまった。

 まぁ、力試しをしたいっていうのが9割で1割くらいが鬼人族を助けるってところかもしれないけどね。

 

「若、アルバ様が飛び立ったようですがどちらに?」

「ああ、何か『滅竜砲』だとか『神槍』だとか大層な名前を付けた魔道具が気に入らないらしく、本当にその力がるのか見てくるらしいよ」


「ええ?」

 エイケツさんを始め、皆ビックリしていた。


 自分が「自由を勝ち取るために~」とか何とか言って手出ししないように言ってたのに。


「これは好機! 皆急いで出発するぞ!」


――応っ!――


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