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第31話 圧勝

「第五現魔法程度で驚かれてもな……。空を飛ぶのに使っている【飛翔】は第十現魔法だぞ」

「な、第十現魔法だと? ふははは、成程な。我らを策に嵌めようとして墓穴を掘りおったな。第十現魔法などというあり得ぬ魔法で我らの戦意を挫こうとしたのだろうが、逆に冷静になったわ。その手には乗らんぞ! これは幻覚か、そうでなければ何らかの仕掛けがあるのだ!」


「おっと、そう来たか。この反応は予想外だ」

「仮に【飛翔】という第十現魔法が存在したとしても、【炎竜】よりも遥かに威力が低いではないか。すぐばれる嘘をつくとは何とも愚かな」


 ウィングの脳は目の前の現実を拒否することを選んだ。

 しかし、上空に待機するエイケツの【炎竜】から発せられるおびただしい魔力と熱量は本能に直接その脅威を訴える。


 そのためウィングの声は震えていた。


 敵将の現実逃避に多少毒気を抜かれたエイケツは哀れむような目でウィングを見下ろしていた。

「ウィングよ、一つ教えてやろう。何故第六現以降の魔法が伝説として扱われているか知っているか?」

「急に何を言う? そんなもの余程高レベルの魔法系スキル持ちでなければ扱えぬからだろう?」


「まぁ、それはそうなんだが第六現以降の魔法は複数属性の同時使用が必須になる。そのため難易度が第五現魔法とは隔絶しているのだ。そして難易度が高いからと言って必ずしも威力が高い魔法になるわけではない」

「だ、だから何だと言うのだ?」


「別に信じなくてもいいが【炎竜】のような派手さはないが【飛翔】の方が難易度が高いんだよ。そして貴様らの目下の問題は【飛翔】が第十現魔法かどうかと言うことよりも、この【炎竜】にどう対応するかだ。そして我と同じく【飛翔】を扱える同胞が第五現魔法を扱うのはたやすいことだと思わんか?」


「な、何だと?」

「まぁ、【炎竜】を見て降伏してくれれば楽だったのだが致し方ない。皆の衆、我らの力を見せようぞ。【地竜】だ!」


——おう!!!——


 上空に威勢の良い声が響く。


——第五現魔法【地竜】!!!——


 鬼人族全員による魔法の発動に竜騎士隊は全員が身構えた。

 鬼人族から発せられた膨大な魔力は身を震わし、【感知】スキルなど無くてもこれから放たれるであろう魔法が極限のものであることは明白だった。


 しかし、ウィングの目には鬼人族が発動したと思われる【地竜】が見えない。

「……っ。 ……驚かせおって。何が【地竜】だ。そんなもの影も形もないではないか。不発だ不発。いや、そもそもがハッタリだったのだ!」


 ウィングだけではない、圧倒的な魔力に身は震えても竜騎士隊には魔法の実態は何も見えなかった。

 ウィングは【炎竜】と同じく竜の姿をもった何かが現れると思ってため、「不発だ」、「ハッタリだ」と断じたが、それでも鎖で心臓を縛られたような冷たく重い不安をぬぐうことは出来なかった。


「ウィングよ。何をもって不発というのだ? 貴様は【地竜】を見たことがあるのか?」

「何?」


「もういい。落ちろ」


 その直後、30騎の翼竜は何かに押し潰されたかのようにガクンと落下し始める。


「なっ、おい、飛べ、飛ぶのだ!」


 竜騎士たちの命令を聞くまでもなく、何とか落下を免れようと翼竜も必死に抗う。

 しかしそれもむなしく見る見る高度を落としていく。


「【地竜】とは敵を踏みつぶす不可視の竜の足だ。覚えておけ」

 エイケツは落ちていくウィングに言葉を投げる。


 【地竜】とは重力によって敵を押し潰す魔法である。

 反対に【飛翔】は重力を操作して体の重さを軽くし、風魔法で飛行する魔法である。


 ちなみに翼竜が空を飛べるのも原理は同じで、羽ばたきで飛べるくらいスキルで自らの体重を軽くしている。


 つまり、鬼人族の【地竜】により翼竜は飛べなくなったのだった。

 鬼人族は翼竜の後を追って地面へと降りて行った。






 かなりの高度から落下したにもかかわらず竜騎士隊は全員が無事であった。


「な、何故一思いに殺さん」

 エイケツが地に降り立つと、すかさずウィングが問いかけた。


「殺したいのは山々だがな。帝国へ連れていかれた同胞を救うためだ。大人しく捕虜になるのであれば不要に傷つけることはしない。実力差は明白だろう。投降しろ」


 竜騎士隊が地面に激突する直前に、エイケツの指示で【地竜】を解除したため竜騎士隊は落下の勢いを削ぐことが出来た。現在もなお混乱しているウィングであったが、それでも鬼人族が自分たちを(それも翼竜ごと)殺せる実力を持ち合わせていること、そして死なないように手加減されたことは理解できた。


「そうか……我らの負けだ。投降する」

「そうしてくれると助かる。手加減しながら戦うのは思ったよりも疲れるのでな」


 そう言い終えるとエイケツは【炎竜】を解除した。


「しかし、我らに勝ったところでどうする? どんな奇術を使ったか分からんが貴様らは驚くほどの強さを手にしている。だが、帝国を敵に回して勝てるわけがない!」

「それはつまり、貴様らは帝国最強ではないと言うことか?」


「いや、我ら竜騎士隊は帝国最強。だが、帝国全体の兵力からすれば兵数は極々僅か。帝国が本気でこの里を攻めるならとても勝ち目がないだろう。少し考えればそれくらい分かるだろうが」


「なんだ? 我らの心配をしているのか?」

「ち、違う」


 ウィングは顔を赤くして否定した。

 その実、個として遥かな高みにいる目の前の男に、鬼人族に、畏敬の念を抱いてしまっていた。


「そう言うわけではないが……無駄に命を散らすこともあるまい」

「一族の誇りと尊厳を奪われ、虐げられ、搾取された者の気持ちが貴様らに分かるのか?」


「ああ……分かる。分かるつもりだ。我が母の祖国も帝国に征服されているからな。その時に命を散らした先祖の願いは復讐のために命を捨てることではなく血を絶やさぬことだった」

「……確かにそれは一理ある。実際我らも今まではそうだった。誇りのために命を失っても歴史は誇りを語りはしない。故に、敗者の境遇が家畜と何ら変わらずとも生にしがみついていた。しかし力を得た今は違う。自由を勝ち取る力があるなら抗うのは当然だ。これ以上一族の血と汗と涙を帝国のために捧げるつもりはない」


「無理だ。死ぬぞ?」

「言っておくが我らは蛮勇ではないし、無策でもないぞ。無闇に自由と命を天秤にかけているわけではない」


「策があるのか?」

「無いはずなかろう。帝国が如何に兵力を抱えようが問題ではない。全兵力と正面から戦う必要もない。帝国民全てに恨みがあるわけでもないし、虐殺したいわけでもないからな。真の敵は帝国の為政者だ。ならば翼竜にて帝都に向かい、皇帝を討てばいいだけのこと」


「なっ! 皇帝を……討つだと?」

「そうだ。別に帝国を支配しようとは思わんが、売られた喧嘩だ。やり返されても文句は言えまい」


 エイケツの言い放った言葉にウィングは一瞬呆然とした。


「そ……、それが策だと? 馬鹿なのか? 無謀にも程がある」

「何?」


「我ら竜騎士隊は帝国最強の部隊。だがその全てが生粋の帝国民で構成されているわけではない。皇帝が我らの、もしくは竜騎士個人の謀反を想定していないと思うのか?」

「むっ……」


 そう返されてエイケツは言葉に詰まった。


「帝都、そして皇宮は翼竜すら容易に撃ち落とす魔道兵器で防衛されている」

「何っ? そんな魔道具があるだと?」


「隊長! それは防衛機密の漏洩です! 明確な軍法違反になります! 帝国を裏切るのですか!」

「ほう、部下の反応からしてどうも本当のようだな。我も尋ねたい。なぜ自ら帝国を裏切る?」


「ふっ、まぁ言って信じるかどうかは分らんが、俺は軍人だが王侯貴族に仕えているつもりはない。俺は帝国に住まう家族を守るために軍人として戦っている。正直、王族、貴族の振る舞いは目に余る。怒りに我を忘れそうになったことが幾度もある。貴殿らが万一でも奴らを討てるならそれも良しだ。貴殿らが民ではなく為政者のみを狙うなら俺にとっては裏切りではない」


「帝国内部も色々あるということか。とは言え敵に加担する必要があるかといえば必要はないだろう?」

「ま、まぁ、そうかもしれんがそういうことにしといてくれ」


 そう言ってウィングは部下を見る。


「なるほど。演技は下手だが部下思いな奴だったか。自分が戦犯になっても情報を提供するから部下への尋問はやめてくれということか」

「ぐっ、違う! 俺にとっては裏切りではないと言っているのだ」


「まぁいい。最初から言っているだろう。おとなしくするなら不要に傷つけることはせんとな。が、裏切りでないと言うなら好都合だ。直に若もここに来る。知っていることを全部話してもらおう」

 

 そう言ってエイケツは口角を上げるのだった。

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