第30話 鬼人族対竜騎士隊
「エイケツよ、事を構えるなら我らが空に羽ばたく前に制圧すべきだったな。悪いが叛意を見せた以上加減はできん。目標鬼人族! 手榴弾投擲準備!」
——準備よし!——
竜騎士の声が上空に響く。
「放て!」
一斉に手榴弾が放たれる。
やるならば徹底的に。もう二度と反抗の芽を出さないように。
その思いから圧倒的な攻撃力を誇る手榴弾が投擲に選ばれた。
——ドドドドドオドドオドドドドオドオン——
「な、投げ方止め!」
ウィングは驚きを隠せなかった。
そしてそれは他の竜騎士も同じだった。
鬼人達は吹き飛ばされることもなく、悲鳴を上げることもなく、ただその場に、先ほどと変わらずに立っていたのだ。
これまですべての敵を例外なく葬ってきた手榴弾が全く通じなかった。
「馬鹿な……一体何をしたというのだ?」
よく見ると鬼人族を覆うように半透明の【障壁】が展開されている。
「あり得ん……手榴弾の威力を完全に防ぐ【障壁】だと……?」
「隊長、そもそも鬼人族に【障壁】の使い手はいなかったはずです」
「くっ……、ならばスキルが成長したとしか考えられんが……」
そう、スキルは成長することがある。
しかし、だからといって手榴弾の雨に揺るぎもしない【障壁】を張れる使い手は帝国内にもいない。
鬼人族の底知れない力をウィングは感じ取っていた。
「まさかの【障壁】とは驚きましたが、所詮は個人のスキル。すぐに魔力切れを起こしましょう」
ライダーの言葉で、ウィングは心に渦巻いていた懸念を飲み込む。
「そうだな。あれ程の範囲と強度の【障壁】が張れるのであれば、あの自信にも納得がいく。しかしそれだけに魔力の消耗は大きいはず。弾を手榴弾から石に切り替えろ」
竜騎士となるには一つ条件があった。
【アイテムボックス】持ちであることである。
当然ながら彼らは生粋の武人ではなく、軍の兵站を担っていた者が殆どで、中には商人から引き抜かれた者もいる。
彼らの【アイテムボックス】内には翼竜から投擲する武器や食料等が大量に詰め込まれている。
そのため彼らは個としての武力が秀でているわけでは無いが、翼竜と組み合わせることで絶大な機動力と攻撃力を持ち合わせるに至ったのである。
つまり……彼らの投擲武器はそうそう尽きることはない。
「恐らくこちらの弾切れを狙っているのだろうがそう甘くはないぞ。各自石弾を全弾放て!」
——ドンガンガガガガンドガガガガガンドガガドガガドガガガガガン——
当然の如く石は弾かれるが、目的は【障壁】を破ることではない。
魔力を消費させることである。
防がれるのを気にも留めず次々と石が放たれていった。
投石と言っても、当たれば人はおろか大型の猛獣やモンスターでさえタダでは済まない威力がある。当たりどころ次第では一石で絶命に至らしめる程のものだ。
それが絶え間無く何十発、何百発、それ以上に降り注ぐ。【障壁】で石を受け止める毎に魔力は消耗するはず。
するはずだが、【障壁】の周囲に石がうず高く積もるほど投石を続けても、なおも鬼人族の【障壁】は揺るぎなかった。
「石弾弾切れ!」
その報告にウィングの心に不安が掻き立てられる。
それは竜騎士隊の面々も同様であった。
【アイテムボックス】の容量には個人差があるため、保有する石弾の数にも当然差はある。
「石弾弾切れ!」
「石弾弾切れ!」
しかし、そうレベルの変わらない隊員達の魔力に大きな差があるわけもなく、次々と弾切れの報告が寄せられる。
一方、鬼人族には焦った様子もない。
「どうなっている! 何故【障壁】が消えん!」
「隊長、落ち着いてください。何らかの形で魔力を供給しているのかもしれません。それにまだこちらの攻撃が防がれただけです。あちらからは矢も届きません」
「そ、そうだな」
その頃地上ではエイケツたちが攻めの算段について話していた。
「流石のあの魔道具も、200層の【障壁】の前には意味をなさなかったな」
「ああ、負ける気がせん」
「しかし、これ程の投石を所持していたとは……竜騎士とは【アイテムボックス】持ちだったのか?」
「うむ、どうやらそのようだな」
「しかし、その投石も尽きてきたようだぞ?」
「なぁ、弾が尽きたらどうなるんだ?」
「さぁ、翼竜で突っ込んでくるとか?」
「まさか逃げたりはせんよな?」
「分かっていると思うが、若は翼竜の捕獲をお望みだ。逃がすのはまずい。この機に我らも攻めに転じるぞ。【障壁】を解き制空陣を展開!」
――了解!――
「第十現魔法【飛翔】!」
エイケツの号令で鬼人族は一斉に魔法を発動した。
「なっ!」
「なにっ!!!!!!」
「人が空を飛ぶだと!?」
「あ、ありえん!」
「一体何が起きている!!?」
「取り乱すな! 我らは最強の帝国竜騎士隊『飛竜の牙』だ! 敵が空を飛んだくらいで狼狽えるな! な!? な!?」
ウイングが喝を入れている間に、鬼人族は半球状に覆うように竜騎士隊を取り囲んでいた。その速度は翼竜の比ではなく、竜騎士隊はろくに反応もできず取り囲まれていた。
「ウイングよ、随分と狼狽えているじゃないか」
ウイングの頭上からエイケツが語りかける。
「エ、エイケツ、いつの間にか見知らぬスキルを得たようだが調子に乗るなよ。取り囲んだところで素手のお前らに何ができる?」
「よしよし、その意気だ。簡単に折れては詰まらんからな」
「何をっ!?」
「だがまぁ、我らは素手だからな。この程度しか出来ん。【炎竜】」
竜騎士隊の真上に巨大な炎の竜が出現した。
「ば、バカな! 炎の竜のだと!? ま、まさか第五現魔法なのか!?」




