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第29話 帝国動く

 帝国に動きがないまま1ヶ月が経った。

 思っていたよりも帝国の動きは遅かった。


 その間に、こちら側の準備は十分に整ったと言ってもいいと思う。

 

 どのくらい整ったかというと、鬼人族で僕たちの仕入れ……いや、訓練に参加した人は総勢200名。その全員がレベル200を超えており、高い人はレベル400を超えている。


 熱血騎士団も最初の同行者たちはレベル400を超えている。途中から随時団員を入れ替えて訓練を行い、熱血騎士団は100名全員がレベル300超えという騎士団に生まれ変わった。

 あと、じいちゃんと話したときに、訓練に参加したいと言っていたのでじいちゃんも連れてきた。じいちゃんのレベルも400を超えている。じいちゃんは村の防衛の要だからもう村に戻っているけど、もし村が盗賊に襲われたとしても、今後は心配しなくていいと思う。村の人達も鍛えとくって言ってたしね。


 ちなみに高レベルの人達は、10人くらい戦力を整えれば僕の支援なしでもこの辺の魔物を倒せるくらいに強くなっている。僕の支援がない方がレベルの上がりがいいらしく、最近は自分たちで計画を立ててレベル上げをしている。


 僕の役割はレベルの低い人達を支援することなんだけど、低いと言ってもレベル200とか300なんだよね。


 少し前までレベル52のガッツさんが王国内で五指に入る実力者だったことを考えると、信じられない戦力になってる。


 熱血騎士団は間違いなく王国最強だと断言できる。

 神授スキルに関わらず全員が第十現魔法まで扱い、強化系スキルを扱い、敵を【感知】でき、【意思疎通】で連絡することができ、【回復魔法】が使え、なおかつ高レベルなのだ。


 帝国さんの動きが遅いもんだから鍛えまくった結果、すごいことになってしまった。


 僕の【感知】できる範囲はよく分からない位に広がっていて、少なくともアークドイン帝国とファーラ王国の両方を余裕で【感知】できる。


 それで帝国から絶界に向かう大軍が視えたので、こちらも動くことにした。


『鬼人族の皆さん。帝国に動きがありました。一万の兵が里に向かっています。到着まで7日といったところです』

『若、それではもう時を稼ぐ必要はないと?』

『はい、そう判断していいと思います』


 ちなみに僕は鬼人族の人たちからは「若」と呼ばれている。ゴウケツが僕の家来になって族長を退いたので、息子のエイケツさんが次の族長を引き継いでいる。

 そのエイケツさんの質問の意味は、里にいる竜騎士隊のことだ。竜騎士隊は定期的に帝国と連絡を取り合っていたので今までは時間をかせぐために手を出さなかった。

 帝国軍は朝早く動きだしたので、鬼人族の皆さんも全員里にいる。

 

『者共聞いたか! ついに雪辱を果たす時が来た! 若に我ら鬼人族の力をお見せするのだ! 帝国など何するものぞ!』


――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!――

 

『手始めに我らが里に居座る竜騎士隊に目にもの見せてくれる!』


――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!――


 この分だとすぐにでも竜騎士隊に攻め入りそうだな。


『アルバ、僕たちもすぐに里に向かおう』

『承知』



◇族長の屋敷◇

 族長の屋敷は竜騎士隊の宿舎として占拠されていた。

 鬼人族は翼竜の分も含めて竜騎士隊の食糧の調達を余儀なくされていた。


 ただ、竜騎士隊のレベルは決して高いものではなない。

 おおよそ平均するとレベル30程で竜騎士と鬼人族が真っ向から戦えばまず鬼人族が勝つ。


 しかし、上空からの遠距離攻撃に対して然程有効な攻撃手段の無い鬼人族は一方的に攻撃されるがままとなり止むを得ず降伏するに至った。


 以降、鬼人族の里は竜騎士隊の監視下に置かれ、狩りの時以外は武器の所持を禁じられている。

 ただ、幸いにして個々のレベルでは鬼人族が圧倒しているため、これまで女子供が竜騎士によって乱暴されるといったことはなかった。


 また、竜騎士隊側も優位性を保っていられるのは上空にいるときのみであることをわきまえており、見張りの竜騎士は常に翼竜に騎乗して臨戦態勢を崩すことはなかった。


——おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお——


「な、この雄叫び何事だ⁉」

「どうやら鬼人どもが殺気立っておるようですな。我らに目にものを見せると息巻いているようです」

「朝っぱらから面倒なことを。それにあいつらは馬鹿なのか? あんな大声を上げては奇襲も叶わんぞ」


「所詮は鬼人かと。我らに大敗したことも既に忘れたのでしょう」


 鬼人族に勝機があるとすれば、奇襲によって竜騎士が地上にいる間に勝負を決することであった。

 そう考えていた竜騎士隊隊長のウィングと副隊長のライダーは鬼人族の愚かさに呆れていた。


「まあいい。急ぎ翼竜の準備だ。見張りの竜騎士は上空にて迎撃態勢を維持しておけ」

「はっ」


………

……


 鬼人族は全員素手で族長の屋敷に押し寄せた。

 そのあまりの堂々とした歩みに、問答無用の戦闘にはならないと判断したウィングは対話を試みた。


 ウィングは翼竜にまたがり、エイケツの遥か頭上から問いかける。


「エイケツよ。朝っぱらから大勢で押しかけてくるとは何用だ?」

「何、大したことではない。我が父の屋敷を取り戻す時が来ただけだ」


「時が来た? 笑わせるな。以前交わした約定に期間の定めなど無い。今なら見逃してやる。無駄に死者を出したくなければ帰れ」

「はっきり言わねば言葉も分からぬか。戦いに来たと言っているのだ」


「はっ、以前は武器を所持していながら手も足も出なかったというのに、素手で我々と戦おうというのか? 我々としてもこれ以上里の男手が減ると食料の調達がままならなくなると心配しているのだがな」


「そうか。そうだな。確かに食料の心配はした方がいい。この先貴様らは捕虜としてまともな飯にありつけないからな。まぁ、本来は仲間の仇として生かしておくのも我慢ならんのだが、帝国に連れていかれた人質と交換するために死なない程度には飯をやろう」


 ウィングは焦っていた。

 幾ら脅してもエイケツには動揺はおろか緊張の色も見られない。


 むしろその声は自信に溢れていた。

 つまり何かしら勝算があるということだ。


「くっ……貴様らは馬鹿なのか! 無駄死にして何になる?」

「貴様こそ馬鹿なのか? 無駄死にするつもりで仕掛ける馬鹿がいるか? 犠牲者など一人も出さん」


 いくら上空からの攻撃が必勝の策とは言え、そこまで言い切る相手に舐めてかかっていいわけがない。

 ましてや相手は高レベルの鬼人族である。先手で仕掛けなければならない。


「ならば精々後悔するがいい。竜騎士隊、飛翔!」


 号令と共に、後方に控えていた竜騎士隊が上空へと舞い上がった。

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