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第28話 武器にも家にも馬にも

『理不尽なのじゃ、主殿が【障壁】を使えると知ったのはつい先程のこと。助言も何も出来るはずがないのじゃ』


 あ、そうか。

 確かに。これは理不尽だね。

 悪いのは僕だった。


『ごめんね、アルバ』

『ふぃ〜。助かった。主殿の圧が増しておるのじゃ』

 【威圧】を解いて素直にアルバに謝った。


『我が主よ。取り込みのところ悪いが、もしや吾輩の役目は無くなったのだろうか?』

『あ、う、うん。鞍はね、もういいかなぁ〜』


 大変だ。どうしよう。

 こんな大きな魔物は連れて歩けないし……。

 キリヌエルを拾ったことを少し後悔した。

 もし、ここに母さんがいたら「勝手に魔物を拾ってきてはいけません」と怒られていただろう。


 そんなとき、ふとガッツさんとゴウケツが目に入る。

 戦闘で武器を破壊してしまったことを思い出した。

 

『あ、鞍になれるなら剣や槍も作れるよね?』

『うむ。問題ない』


 よし、武器も補充できるね。


 そして休んでいる皆が目に入る。


 休む場所があったらいいよね。


『家はどう?』

『無論、我が主の好きな形になってみせよう』

『じゃあ、早速だけど、皆が休めるように家を作ってもらえる? こんな感じで』


 宿屋を思い描き【意思疎通】で送る。

『承った』


「あ、皆さん、休憩しているところすいません。ちょっとこの辺空けてください。はい、ありがとうございます。キリヌエル、お願い」


 キリヌエルの体がミョーンと伸び見事な宿屋が出来上がった。台だけだが各部屋にベッドまである。


――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――


 皆から歓声が上がった。


 うん。これは、すごい拾いものをしたぞ。

 旅先で野宿になっても安心だ。

 思い描いた通りの宿が出来ている。


『アルバ、毛布と椅子を出してもらえる?』

『承知』


 宿屋の一階に毛布と椅子を出した。

 一階は皆が集まれる広い部屋になっている。


「皆さん、好きな部屋を使ってください」

 

 部屋割りはガッツさんが仕切り、男性は2階、女性は3階となった。

 鬼人族については日帰りになるため部屋の割当はない。

 一階は自由に使ってもらうために椅子やら毛布やらを沢山置いておいた。


 また、一階にはお風呂場もある(ただ排水のこととかは全く考えてないけども)。

 夜はお風呂に入ることもできる。

 細かいところは今後調整していこうと思う。


 結構外は気温が低いので、雨風を凌げて、個室もあるというのは野宿することを考えるととても安心できるのだろう。皆の表情がとても緩い。


 まぁ、完全に金属の家だから温かみとかはない。

 でも、野宿することを考えたら天と地の差がある。


 アルバで毎日辺境伯領とここを往復することもできるけど、それなりに時間がかかるからね。そう考えるとこの家の存在は大きい。


 僕の隣には大きめの馬位にまで小さくなったキリヌエルが佇んでいた。


『ありがとう。この宿のお陰で皆が寛げるよ』

『どうということはない。我が主の思い描いた通りに形を変えただけのこと』


『ところでさ、キリヌエルって呼びにくいから、呼び方変えてもいい?』

『ご随意に』

『じゃあ、キールって呼ぶね』

『承知いたした』


『あとさ、何かいい感じの大きさになったから僕が乗ってもいい?』

『当然、構わぬ』

『ありがとう、じゃあ、そうさせてもらうよ』


 ということで、武器にも家にも馬にもなる。

 キールは優秀だな。


………

……


 拠点が出来たということで時間を気にすることなく何体もの魔物を倒すことが出来た。


 その結果、わずか1日足らずで全員がレベル100を突破していた――してしまった。あまりにの成長に皆実感が無かったようだった。


 レベルアップし過ぎたせいか、元々のスキルが何かを問わず強化系のスキルと魔法系のスキル、そして【感知】を全員が使えるようになっていた。


 いや、まぁ、鍛錬で複数のスキルが使えるようになるとは言え、これちょっとやらかしたかな? ……いや、気にするのはやめよう。今は少しでも戦力が必要だからね。


 攻撃魔法のスキル持ちは全員が第七現魔法まで発現させていた。ただ【回復魔法】のサナさんだけは、何故か第三現魔法までしか発現しなかった。


 第五現魔法が使えたら超一流、第六現魔法が発現したら伝説、という魔法使いの常識みたいのがあるんだけど、それを一日で超えてしまった。


「私は伝説を超えたわね」

「ヒバーナ様。おめでとうございます」

「まぁ、プルビアもテルルもターボも同じだから微妙だけどね」

「確かにそうですが、明らかに旦那様は越えられたかと」

「そうね! 帰ったらお父様をへこましてやりますわ!(そしていつかアーサーも)」


 鬼人族の皆さんを送り届けてから宿に戻るとヒバーナさんとサナさんがそんな会話をしていた。

 ヒバーナさんて何かと僕に対抗意識を燃やしてくるから、ちょっと苦手なんだよね。


「団長、俺馬鹿だからよく分んねぇっすけど、何で俺が魔法使えるんすか?」

「グラディオ、私に聞くのか? 何年も【根性】だけでやってきた男だぞ」

「そうっしたね。でも、団長が大将のことを『師匠』って呼ぶ理由はわかったっす。ぶっちゃけ大将さえいれば帝国との戦争も楽勝っすよね」


 グラディオさん達は僕のことを大将と呼ぶ。

 というのもアツィーノさんが「こいつが俺たちの大将だ」って紹介したからなんだけどね。

 

「そうだな。それは否定しないが、師匠はまだ子供だからな。子供の肩に国の命運は重すぎる。それに帝国も未知の魔道具を使ったというし油断は出来ないよ」


「しかし、こんなにレベルが上がるなんて未だに夢のような気がしますが、我が熱血騎士団の王国最強は間違いなしですね」

「ハスタス、気が大きくなるのは分かる。実際私もそう思うよ。でも人は急に力を手にすると慢心し、力に振り回され、大切なものを失ってしまうことが多々ある。時にはそれが自らの命となることもある。だから力に振り回されるのではなく、正しく力を振るえるように気をつけなさい」

「そうですね。何だか貰い物の力のような気もしますし、気をつけないと。……お前もな、アルマ」

「ぼ、ボクは何も言ってないでしょ」


 何かどこかで似たようなことを聞いたなと思ったら、隣でマイルドさんがウンウンと頷いていた。


 しかし、皆寛いでるようで良かった。

 周りは【障壁】で囲まれているから見張りも必要ないし、食料は大量にあるし、明日からはがんがんも行けそうだね。

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