第27話 鞍が欲しかったんですよ
――ドクンッ――
心臓を叩きつけられたかのような衝撃が再度体を襲った。
「ヒバーナさん!」
レベル1でなおかつ止めをさしたヒバーナさんは倒れ込んだ。
レベルアップは魂の器の拡張と言われている。
そして器の拡張に必要なものは他者の魂と結びついた魔力だと言われている。その特殊な魔力は一般的に経験値と呼ばれる。
複数で魔物を討伐したときは、戦闘に参加した者全員が経験値を獲得するが、戦闘において貢献度が高かったり、止めをさしたり、討伐対象から敵意を強く向けられている場合は経験値の獲得量が多くなる傾向にあることが分かっている。また、討伐時に対象から遠ざかるにつれ獲得出来る経験値は少なくなることも分かっている。
そのため一番レベル上げが必要なヒバーナさんに止めをさしてもらった訳だけど、ちょっとレベルアップしすぎて体への負担が大きかったみたいだ。
格上との戦いで皆気疲れしていたのでちょっと休憩することにした。
僕としてはとても気になることがあった。
さっきの戦いでミスリルゴーレムは体の大きさを小さく変化させた。砕けた体を直ぐに元通りにした。
もし、ゴーレムが自在に体を変形できるならアルバの鞍に変形させることが出来るんじゃないかと思ったんだよね。鞍があれば移動が大分楽になるはず。
それで【障壁】の外に出て、群がってきているミスリルゴーレムの中から一体選び、サクッと【威圧】で潰して取引を持ちかけてみた。
『俺の言うことを聞くなら命は助けてやる。どうする?』
『……』
反応がない。
ゴーレムには目っぽいものはある。
でも、それって本当の目じゃなくて、単に目の形をしているだけだから【意思疎通】が通じないかもしれないとは思ってた。
だから目を通してではなく、【感知】で感じ取った魔核に直接【意思疎通】を叩き込んでみたんだけど……。
まぁ、通じないなら仕方ない。
『……我輩を従えて何を望む?』
おっと通じてた。考えてたのかな?
それにしても吾輩と来たか。随分と偉そうなゴーレムだ。
『今のところ考えているのは鞍だね。ドラゴンに乗るための鞍になってもらいたい』
『鞍……?』
正直に言ってみたんだけど……こんな偉そうなやつに「鞍になれ」は厳しいか。
『良かろう』
『えっ、いいの? 道具扱いなんだけど』
『うむ。良い。その代わり、条件がある』
条件?
これは初めてのパターンだな。
命のよりも大事な条件なんだろうか?
『条件は何?』
『吾輩の命を助けるということに繫がるのだが、我輩は魔力の濃いところでしか体を維持できぬ。ここから別の土地へ行くというのであれば、必要な魔力を供給してもらいたい』
あ、そういうことね。
でも、魔力の供給か、どうやってやるんだ?
こういうときはアルバに聞くに限る。
『アルバ、魔力って渡すことって出来る?』
『主殿、契約の鎖で通じていればスキルさえ共有出来るのだ。魔力を供給するのは造作もない。魔力制御で供給することができる』
『ありがとね』
『これしきのこと、礼には及ばぬ』
そうか。そんなことも出来るんだね。
『いいよ、必要な魔力は供給する。名前を教えてくれ』
『キリヌエルだ』
『よし、キリヌエル。僕はアーサー。それでは取引成立だ』
『我が主よ。承った』
カッと光って契約の鎖でキリヌエルと繋がった。
キリヌエルは何か気を惹くゴーレムだった。
馬に鹿の角がついたような形をしていて何となく格好良かったんだよね。そのせいか輝きも何となく違って見えてこいつにしようって決めました。
『ねぇ、キリヌエルは変形はできる?』
『それは問題ない』
良かった。
ただ、問題はキリヌエルの大きさだよね。
そのままの大きさで蔵になられても大きすぎるし、アルバも重いだろうしね。
『あのさ、小さくなるのは大丈夫? 不要な体はスキルで収納しておくから心配しなくていい』
『それも問題ない。ただ、魔核は変形できぬし、小さくも出来ぬ。それでも良いか?』
まぁ、そうだね。魔核は変形できないよね。
『あ、そうだ。変形させた体を切り離す事って出来る?』
『それは可能だ。今の体は金属で繫がっている故切り離した後も形が維持されるが、砂などで体を構成した場合は、魔力の繋がりを断つと形が崩れる』
お、それなら魔核とか気にせず形を変えられるってことだよね。
いいんじゃない?
キリヌエルの答えに満足して皆のところに戻った。
――ズシン、ズシン――
足音を響かせてキリヌエルが【障壁】内に入ると、みんなの顔が蒼白になった。
「あ、ごめんごめん。驚かせちゃったね。こいつは手懐けたから大丈夫だよ」
「さ、流石師匠です。……それで何のために手懐けられたのですか?」
まぁ、ガッツさんの疑問も尤もだ。
「鞍か欲しかったんですよ。移動大変だったでしょ? ゴーレムは体を変形させてたから鞍になることも出来るかなと思って」
「おお、なるほど!! それはありがたいです」
『主殿、其奴は重すぎる。我は其奴を背に乗せるのは嫌じゃぞ。それに【障壁】が使えるのであればそれで鞍を作れば良い。【障壁】は使用者の思い描いたように形を変えられるからのう』
「えっ……?」
アルバの言葉は皆にも伝わっていた。
皆唖然とした顔で僕を見てくる。
「それは早く教えてよ!」
――ズン――
取り敢えず、アルバは地面にめり込ませておいた。




