第26話 ミスリルゴーレム
「は、発動しちゃった……」
【炎弾】が発動したことに啞然としてしまう。
そう、スキルは解明さえできれば修得が可能と言われている。
しかし、魔法系のスキルの難易度は強化系よりも複雑とされている。
マイルドさんが僕を見て目を見開いている。
というか、全員が僕の方を見て目を見開いていた。
「な、なんであなたが使えるのよっ!」
ヒバーナさんの疑問はごもっともです。
「うーん。自分でもビックリです」
でも、ガッツさんの時もそうだったし【意思疎通】と【感知】と【その他スキル】の組み合わせはスキル修得の助けになるのは間違いなさそう。
「ちょっとお座り」
――ズン!――
一先ず【威圧】でミスリルゴーレムの動きを止める。
オオカミっぽい形してたからついお座りと言ってしまったけど、お座りと言うよりは腹ばいで潰れているといった感じだ。
「あの、すいません。確認したいので魔法系スキルを持ってる方、使ってもらってもいいですか?」
サナさんの【回復魔法】から【治癒】、【解毒】。
プルビアさんの【水魔法】から【水弾】、【水壁】、【水槍】。
テララさんの【土魔法】から【土弾】、【土壁】、【岩槌】。
ターボさんの【風魔法】から【風弾】、【風壁】、【風刃】。
それぞれ使ってもらったんだけど、信じられないことに全部使うことが出来た。
最初は「ウソだろ」とか「信じられない」って驚きの声を上げていたんだけど、後半は誰も声を上げなくなった。
第一現魔法ならまだしも、第二現魔法、そして第三現魔法まで修得してしまったのだから無理もない。
魔法系のスキルは努力と研鑽によって顕著に成長するスキルであり、成長するにつれて使える魔法が増えていく。
第一現魔法とは、魔法系スキルを授かったと同時に使える魔法で、魔法の威力は弱い。【火魔法】で言えば【火弾】。
第二現魔法が発現するのは人によって異なるが、レベル10付近で発現することが多い。【火魔法】で言えば【炎壁】。
第三現魔法が発現するのは個人差がさらに大きくなるがレベル20未満で発現することはほぼないと言われている。【火魔法】で言えば【炎剣】。
【火魔法】は第一現魔法までしか修得でかなかったが、【回復魔法】は第二現魔法まで、【水魔法】、【土魔法】、【風魔法】に至っては第三現魔法まで修得してしまった。
第三現魔法を発現させるのには相当な努力が必要と言われている。【火魔法】以外は第二現魔法までは攻撃的な魔法がないためレベルが上げづらいこともその一因で、勿論【火魔法】であってもレベルを20以上に上げるのは簡単ではない。騎士団の組織的な補助と支援を受けても年単位の努力が必要らしい。
それを今やってみたら出来た。と言われたら、言われた方は複雑だよね。
「俺も……出来てしまったんだが……」
ところが、僕だけじゃなく、ゴウケツも【炎弾】が出来てしまった。
僕が【炎弾】を使ったとき何となく出来そうだと思い、何度か練習したら出来てしまったというのだ。
これには皆が奮い立った。
やはり、【意思疎通】と【感知】と【その他スキル】の組み合わせがスキル修得の助けになるのは間違いない。
スキルの練習は今後も行うとして、まずレベルアップだ。皆のやる気に火が着いたのだった。
そして【威圧】を解いてミスリルゴーレム討伐を再開した。
ミスリルゴーレム相手に第三現魔法程度は全く通用しなかった。そのため、僕が共有した【魔装】で殴りつけ、ゴリゴリ削る戦法を取った。
削るとは文字通りゴーレムの体を砕き、少しずつ削り落とすんだけど、ゴーレムは周りに体を構成する材料があれば再生する。
削っても削っても再生されてキリがなかった。
そこで、アルバに頼んで削ったミスリルを片っ端から収納してもらった。
すると、ミスリルゴーレムの体はどんどん小さくなっていった。
「……おかしい」
ゴウケツが呟く。
普通ならダメージを受ければ受けるほど動きは鈍くなるものだ。
「明らかに速くなっている」
しかし、ミスリルゴーレムはダメージを受けて小さくなればなるほど動きが速くなっていったのだ。
ミスリルゴーレムは大きく重い。そのためこの地域の魔物としては動きは鈍重だった。
でも、それは騎士団の面々にとっては決して鈍重ではなく、安全に回避するために【身体強化】で速度を上げていた。
それが今では速度が増したミスリルゴーレムの動きについていけなくなってきている。
――バキン――
「きゃあっ!!」
ミスリルゴーレムが体当りを避けきれずヒバーナさんが吹っ飛ぶ。
地面に叩き付けられたヒバーナさんは――
「――ちょっと、死ぬところだったじゃないっ! 痛……くはないわね」
うん。元気だ。全くの無傷。
【魔装】を更に強化したので今程度の攻撃はくらっても問題ないはず。
むしろ、今の体当りで更に体が欠けたミスリルゴーレムのスピードか増す。
速いっ。
――バキン――
――バキン――
――バキン――
ハスタスさん、アルマさん、テララさんが立て続けに体当りをくらう。
ミスリルゴーレムの体は小さくなってるのに3人はヒバーナさんより大きく吹っ飛ばされた。
体当りの威力が上がっている。
小さくても、その分速くなれば威力が大きくなるんだ。
その意外な真理の発見に驚く。
ミスリルゴーレムは更に小さくなっていた。
僕らと戦うのに最適な体の大きさを探っているのか?
もしかして知性がある?
そう思えるくらい、小さくなるごとにスリルゴーレムは脅威度は上がっていった。
いつの間にか、ミスリルゴーレムの体は普通の狼と変わらないくらいの大きさになっていた。
――ヒュン――
――ドガァァァァァァン――
――ドガァァァァァァン――
――ドガァァァァァァン――
――ドガァァァァァァン――
鬼人族の4人が一瞬で吹っ飛ばされる。
速い!!
尋常ではない速さだった。
他の人たちは目で追うことすら出来てないみたいだ。
一体目のミスリルゴーレムは大きいまま倒したから気付かなかったけど、巨体を動かす魔力が小さな体に集約されると、ここまでとんでもない力と速さを生むとはね。
本当に驚かされた。
――ズン!!――
これ以上は危険とみなし【威圧】で潰すことにした。
今ならかろうじて捉えられる速度だ。
「――っ!!?」
アルバでさえ動けなかった僕の【威圧】を受けてもミスリルゴーレムは潰れなかった。
むしろ、動こうとさえしている。
「ヒバーナさん、今です!」
ハッとした後、笑みを浮かべるヒバーナさん。
「死にさらしなさい!」
そう言って動けないミスリルゴーレムの前に歩みを進めて、思い切り拳を繰り出した。
ヒバーナさんのレベルや体格に関係なく、共有した【魔装】の威力によってミスリルゴーレムの魔核は砕かれたのだった。
「いいね」ありがとうございます。




