第23話 アークドイン帝国へ
おかしい。チョット待って。
僕の目標は何だ?
それは明確だ。父さんみたいな商人になることだ。そこは振れてない。全く揺らいでない。
村を出て2日目。商売らしいことはまだ仕入れ(魔物と獣を狩ること)しかやってない。
その間に、ドラゴンに主認定され、騎士団の団長が弟子になり、ゴウケツを家来にした。それに加えて今度はアツィーノ様が(半強制的に)家来になるとか言い出すし。
僕は一体どこへ向かっているんだ?
「アツィーノ様、僕の家来になるとかいうのやめにしませんか? アルバにはきつく言っときますから」
暴走したアルバは【威圧】で絶賛地面にめり込み中だ。
『主殿、やめてほしいのじゃ』
とか言ってくるが無視だ。当然お仕置きです。
「いえ、アーサー様を主と仰ぐのはマイルドと話して出していた結論でもあります。もっと先になる想定でしたがそれが早まったに過ぎません。よい機会だったかと思います」
ええっ!?
「何ですかその結論! 聞いてませんよ! マイルドさん、どういうことですか?」
「簡潔に言えばアルバ様の言うとおりです。アーサー様はいずれ世界を統べるお方。遅かれ早かれこうなっていたのです。本当はアーサー様の人格形成に悪影響を与えないように成人されるまでは待とうと話しておりましたが、こうなったからには配下に加えていただきたく」
「あああああああ、もう。だから僕がなりたいのは商人なんだよ。世界を統べるとか興味ないんだって」
「それで構いません。我々はアーサー様の夢の実現のために邁進するだけです」
しばらく沈黙が流れた。
アツィーノ様やマイルドさんが家来になるとか想像すらしてなかったから面食らったけど、夢を実現するために手助けしてくれると言うならありがたい話なんだよね。
荷が重いっていうのと、今後どうなるかわかんないってことを除けばね。
このあとはゴウケツとの約束もあるし鬼人族をアークドイン帝国から解放しないといけない。
そうなるとどうなるんだ?
鬼人族の土地を帝国から守るにせよ、鬼人族を亡命させるにせよ、辺境伯の後ろ盾があるのとないのでは大違いだよね。
だからといってファーラ王国とまで揉めたくはないからなぁ。
うーん。何で商人ぽい方向に進んでいかないんだろう?
まぁ、まだ旅に出て二日目だし、そんなこともある?
いや。絶対おかしいよね。
しっかりと目標に向かって方向転換しないと。
「わかった。皆が望むなら配下として受け入れる。その代わり僕に対する接し方や言葉遣いは今まで通りにしてほしい。僕がやりづらいし、父さんは『最も制し難い敵は己の慢心だ』とよく言っていたからね。そして一番大事なことだけど、僕は商人になる。そのために色々協力してもらうけど、他は今まで通りにしてください。それでもいいですか?」
――はっ!――
皆が頭を垂れて返事をする。
カッと光が放たれその場にいた人とは契約の鎖で繋がった。
「それでは早速ですが、今後について皆さんにお願いがあります。皆さん、頭を上げて楽にしてください。まずゴウケツとの約束がありますからアークドイン帝国に向かい鬼人族を解放します。そしてその後は僕の【商い】スキルのレベルアップのためにダンジョンに行こうと思います。マイルドさんは僕の教育係として今後も同行をお願いします」
「勿論です」
「あと、ゴウケツは当然同行するとして、他は現状維持でいいですかね?」
「師匠、私は連れてってくれないのですか?」
「いや、騎士団長が離れるのはまずいんじゃないですか?」
ガッツさんがちょっと涙目になっている。
「小僧、ちょっといいか?」
「はい、何ですか?」
アツィーノ様の口調が元に戻っている。やっぱりアツィーノ様はこうでないとね。
「鬼人族を解放するなら何かと物資が必要だろ? そのためにはもっと同行させた方がいいんじゃねぇか? ガッツも行きたがってるみてぇだしな」
「物資なら問題ないですよ。僕一人で解決できるようになりました」
「何!?」
「アルバのスキルを借りられるんです。かなり大容量の【アイテムボックス】のようなスキルで時間経過もかなり遅く食料も腐ることがほぼないらしいです」
「はは、何でちょっと見ない間に使えるスキルが増えてんだよ」
アツィーノ様は呆れてた。
「だが、希望する奴らは何人か連れてってくれねぇか?」
「ん? 何でですか?」
「鬼人族の件がなくてもアークドイン帝国とは戦争になる。そのための戦力増強として小僧のもとで何人か修行させたい」
「修行ですか?」
「何やらいつの間にかガッツを弟子にしてたみたいだが、多少増えてもいいだろう? 昨日の一晩だけでマイルドはレベルが10も上がったと言っていたぞ。低レベルの商人とは言え有り得ない成長速度だ。小僧に預ければ間違いなく騎士団は強くなる」
いやぁ、ガッツさんは弟子にしたけど、旅に連れ回すつもりはなかったんだけどなぁ。
「でも、同行したらその分ここの守りが手薄になりませんか?」
「まぁ、そうだが問題無いだろう。あまりお手を煩わせてはいかんが、最悪の場合はアルバ様が飛んできてくれるんじゃないか?」
「あ、そうですね。その手がありました」
うーん。じゃあ断れないか。
「分かりました。では、アツィーノ様が適切だと思われる人を同行者として割り当てて下さい」
「おうおう、ちょっと待て。配下に対して『様』はねぇだろ。せめて『さん』付けにしてくれ」
えぇ、それ偉そうに言う台詞じゃないよね?
「分かりました。この件はアツィーノさんにお任せします」
「おう、任された」
アツィーノさんはにかっと笑って答えた。
そんなこんなで鬼人族を解放するためにアークドイン帝国に向かうための準備に取り掛かった。
龍鱗は幾つかアツィーノさんに売却した。本当は王都でオークションにかけるとものすごい金額で売れるらしいんだけど、その時間がないからかなり割安で売却した形になる。
まぁ、配下からぼったくっても仕方ないからね。
それでも僕にとっては現実味のない額の資金を獲得できた。
それを元手に生活に必要な物資を街で購入した。
騎士団を動員し、実に馬車50台を超える物資を購入したが資金はまだまだ残っている。
昨日狩った素材たちは売らずにそのまま収納してある。
アツィーノさんは同行者として9名を選出した。
僕、マイルドさん、ゴウケツと合わせて総勢12名の商隊となった。
そして次の日、僕たちはアークドイン帝国へと向けて旅立ったのだった。




