第22話 僕の立場
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「おい、だからそいつはバーナーの街ごと消滅しかねないことをしたんだよ。許せるわけねぇだろが!!」
ゴウケツを僕の家来にするから許してほしいって話をしたらアツィーノ様に怒られた。まぁ、その気持ちは分かる。
「アツィーノ様、その気持ちはわかりますよ。ええ、すごく分かります。でもゴウケツにも理由があったんです。ゴウケツもアークドイン帝国の被害者なんです!」
と、熱弁してみたけどアツィーノ様の意見は変わらなかった。
「話にならんな」
「いや、話にならないのはアツィーノ様の方ですよ!」
「何だと!?」
アツィーノ様の眉がピクリと反応した。
「実際、被害なんてどこにも出てないじゃないですか。ドラゴンを止めたのは僕ですよ。ゴウケツの居場所を突き止めたのも僕です。ゴウケツを倒したのはガッツさんですけど、僕の手助けなしには倒せなかったとガッツさんも認めています。被害者ぶって人の家来を掠め取るのやめてもらえませんか?」
「ぐっ、……未遂で多少罪が軽くなろうがそいつの罪が消えることはねぇよ」
ふ〜ん。罪ねぇ。
「罪って具体的には?」
「だから市の消滅。その未遂だ」
「その前提がそもそも間違ってるんですよ」
「何?」
アツィーノ様は訝しんで僕を見据える。
「アルバ。来て」
『承知』
「あぁ、アルバってのはドラゴンのことです」
「……?」
「ドラゴンをここに呼びました」
「「「えええええ!?」」」
アツィーノ様だけじゃなく、マイルドさんや、護衛の人や、使用人まで、皆目玉が飛び出るくらい驚いている。
落ち着いてるのはガッツさんとゴウケツさんくらいだ。
――バサァ、バサァ、バサァ――
またもや暴風を巻き起こし降臨するアルバ。
その暴風でアツィーノ邸が揺れる。
「ほ、本当に来やがった」
アツィーノ邸の至るところから悲鳴が上がる。
いや、悲鳴が上がってるのはバーナーの街全体からだね。
庭にドラゴンが降り立つと気を失う使用人もちらほらいた。
「ほら、ドラゴンが来ましたけどバーナー市は消滅してませんよ?」
アルバがアツィーノ様を睨みつける。
「いや、い、い、いや、き、昨日は、こ、興奮して、してたん、だろ?」
アツィーノ様は完全に取り乱していた。
「じゃあ、本人、いえ本ドラゴンに聞いてみましょう。アルバ、皆さんに【意思疎通】でお答えして。竜の角笛で呼び出された場合、街を破壊するの?」
『それは相手次第。その者が街で戦う選択をすれば街に被害が出よう。相手の力量次第では街が消滅することもあるやもしれんが、それは同時に相手も街を消滅させうる力を持っていると言えよう。ああ、もし、使用者以外で戦いを挑むのであれば間違いなく応じていただろうな。そういったことがなければ使用者を片付けた後はどこぞへと飛び去っていたであろう』
「ほら、ゴウケツの実力からいって街が消滅することはないですね。何なら【威圧】だけで決着つきますから」
「いや、そ、それは、可能性、の、話だろ」
「ちなみに、ゴウケツは竜の角笛を使用した後、どこにいたんだ?」
「恥ずかしながら、竜の角笛を隠して全力で街を離れました。ドラゴンは角笛に向かってくると聞いていましたから」
「アルバ、この場合どうなるんだ? 倒す相手が居なくなるわけだけど」
『我に喧嘩を売っておいて逃れられるわけがない。その気になれば我は使用者の魔力を辿ることが出来る。主殿が我を止めていなければその者の命はなかったであろう』
実は、ここまでの内容は事前に確認済みだ。
あれ? でもよく考えたらアルバ昨日と言ってること違わない?
使用者を追えるってことは僕を襲ったのって確信犯だったってことだよね。
これは後で説教かな?
「つまり、ゴウケツがやったことは一人で自殺するようなものだったってことだよね?」
『左様』
「アツィーノ様。いくら殺意があったからって、自殺しようとしてただけの人に『市の消滅未遂』とかよく分かんない罪は問えないですよね?」
「い、いや、そ、そいつは、敵の、間者、だぞ? それだけで、見逃、せん」
むう。これでもアツィーノ様を説得出来なかったか。
完璧だと思ったんだけどなぁ。
上手くいかないもんだ。
『気に食わん』
「ひぃ!」
アツィーノ様からかなり情けない悲鳴が上がる。
アルバが【威圧】したからだ。
『法だなんだ、敵だなんだとぬかすが、貴様らの国自体が我の気まぐれで存続しておることを理解しておらんようだな。この世で最も原始的な法は弱肉強食。生態系の頂点を取らぬ貴様らの法に効力などない。単に人同士の争いをなくすための決めごとに過ぎん。そのくせ国同士では争いを止めぬ。そんな下だらぬ者共の法を持ち出して主殿を煩わすのか?』
「ひぃ、すみ、ません」
あ、アツィーノ様が簡単に折れた。
『そもそも主殿が貴様を「様」付けで呼ぶこと自体我慢ならんのだぞ?』
「ひぃ、申し、訳、ありません」
エエエ!? そうだったの?
『メッサー・アツィーノよ貴様に問う。心して答えよ』
「はいぃぃぃぃっ」
アルバはアツィーノ様にかけていた【威圧】を解いた。
アツィーノ様は華麗なる土下座を決める。
『貴様らの王、グロイーゼ・デル・ファーラと我が主殿、どちらの立場が上だ?』
その質問に僕も含めて皆に緊張が走る。
えっ? このドラゴンなんつー質問をぶっ込むんだ?
しかし、アツィーノ様の返答は早かった。
「無論、アーサー様です。アーサー様を我が主として仰ぎ、誠心誠意お仕えさせていただきます」
アツィーノ様は僕の方を向き、頭を垂れてそう答えたのだった。
それと同時に護衛と使用人の皆さんも跪いて頭を垂れる。
しかもマイルドさんまで。
「ええええええええええええ!?」
いや、何か昨日も似たような光景を見た気がするんだけど、いや皆さん何か色々と間違ってません!?
『うむ。それで良い』
アルバは愉快そうに答えたのだった。




